HeavyNovel |二次創作小説・Web小説サイト

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

1日目 朝の食卓

f:id:tableturning:20161103151609j:plain

朝起きると珍しくレイスが起きていた。眠気の宿る状態で食卓につく。レイスは心なしか浮き足立った様子だ。エプロンを着用し皿を手にフィルの元へ近寄ってくる。

「おはよう!マイハニー。朝ごはんを作ってきたよ」

その言葉にフィルの眉が潜む。

「誰がマイハニーだふざけるな」

冷静な否定。暗い声でフィルは吐き捨てる。レイスは少しだけ残念そうな顔をする。

「はい!朝ごはん!」

レイスは作った食事をテーブルに置いた。よく分からない葉っぱと黄色い花が添えられた雑草臭いサラダだった。

「なんだこれは」

思わず呟いた。

「サラダだよ。うまく作れたなあ」

フィルは葉っぱの塊をまじまじと見る。触る気も起きない。

「これ、どこから拾ってきた?」

「外で生えてた葉っぱを使ったオーガニックなサラダだよ!タンポポがたくさん生えてたから」

フィルの表情が凍りつき、その目がレイスをじろりと見る。目は硬直し感情が読めないが他者を軽蔑していることだけは分かった。

「捨ててこい」

「えっ!」

「こんなもの食えるか。元あった場所に戻してこい」

「そんな……一生懸命作ったのに」

レイスは思わず涙ぐむ。手にはタンポポが盛られた皿を持っている。救いの手を願う目でフィルを見つめるがフィルは圧力を持った目でレイスを見ている。

「う、ううっ」

レイスは渋々、皿に盛られたタンポポをゴミ袋に入れた。目に見えてしょげている。背中は猫背に曲がり伏し目がちにテーブルについた。

 

フィルは戸棚からシリアルを取り出し新しい皿に盛っている。恨めしそうにレイスはそれを見る。ただ仲良くなりたかった。その一心で食事を作ったのに冷たくあしらわれてしまった。

「フィルのいじわる」

小さく呟いたがフィルは相手にしなかった。

プロローグ

f:id:tableturning:20161103151605j:plain

それは唐突な事件だった。女が自宅を出る数分前、突如庭に漆黒の門が出現した。それはチリチリという焼け付いたような光の指紋を表面に宿し、今にも動き出しそうな存在感と生命力を放っていた。どくどくと鼓動しながらその門は内側から黒い塊を孕み、外側へと生み出した。黒い血を吐き出すようにそれは内側の体内から、色鮮やかな外側の世界へと歩み出る。

 

女はただそれを見ていた。目の前で広がる異常現象をただ眺めることしかできなかった。異形の生物がこの世に生まれ落ち、その目がこちらを見る。人ならざる褐色の肌、木の表面のようなガサガサの肌。真っ黒なローブを覆い下半身は包帯で固定されていた。異形の怪物に異様な姿。

 

怪物はこちらを見るとその目に希望を宿した。まるではじめて見たものを親と認識する雛鳥のようだった。

「あ、あ」

その場に立ち尽くしたまま言葉にならない声で女を見つめ続ける怪物。そしてその体は崩れ落ち膝をついた。女は呆然としていた。こちらを見つめる怪物をただ見返していた。

怪物はこの世に生まれ落ちたことを認識していた。そして目の前にいる女が自分の世話をするのに最も適していることを認識していた。異界から放り出された彼にとって女の存在はかけがえのないほど重要だったのだ。自分の転生を見届けた女に手を伸ばす。門はすでに消失していた。

 

女は怪物を見、なんとなく思った。この怪物を世話しなければ。それは何者かの意思によって女の頭に強烈に焼き付けられていた。微睡みの中、意思のない状態で体だけ動くようにその怪物に手を差し伸べたのだった。怪物のそばに歩み寄り、その肩に手を置いた。

「大丈夫?」

自然と言葉が出た。無意識の行動。

「うん」

怪物は頷き女を見る。

「あなたの名は?」

「フィリッパ」

それは彼女に与えられた仮の名。もやは真実の名なのかそうでないのかもわからない。

「フィルって呼んでもいい?」

「いいよ」

怪物は健気な目で女を見る。生まれたての赤ん坊のようだった。頭から泥のマスクを被っているのだろう。表情は分からなかった。

「ぼくはレイスって言うんだ」

「レイス」

フィルは反復する。

「とりあえず立ちなよ。家の中に入ろう」

ここにいては通行人に怪しまれてしまう。

「一緒に歩いて!」

レイスはわがままを言った。

「はぁ?歩くくらい一人でできるだろ!?勝手についてこいよ!」

フィルはレイスを置いて家の中に戻ろうとする。レイスはゆっくり立ち上がるとフィルを見つめていた。

「歩けないよー!」

レイスは子供のように文句を言った。

「いや立てるだろ。一人で歩けよ」

「ぼくみたいな怪物が歩いたら目立つでしょ!一緒に歩いてよ!」

庭先で文句を言いながら立ち尽くす長身の男。異形の見た目といい巨大な身長といい存在感は群を抜いていた。フィルは目立ちたくなくてしぶしぶ庭に戻った。

「今日だけだからな」

レイスの隣に立ち、歩を進める。だがレイスは動かなかった。

「なんだよ。歩けよ」

振り返りレイスを見る。

「手をつないで」

「はぁ!?」

思わず変な声が出た。わがままにもほどがある。

「いやだよ!手繋がなくたっていいじゃん。しかも君ちょっと汚いし」

その瞬間レイスがひどく落ち込むのが伝わった。レイスから発せられる悲しみ。周囲の空気を覆っていく。

「ぼくは汚いの……」

明らかにしょげている。

「ごめん。汚くないよ。手繋ごうか」

レイスの悲しげな様子にさすがに罪悪感が湧いた。垂れ下がったレイスの大きな手を掴む。

「やった!!」

先ほどまでと打って変わってガッツポーズをするレイス。フィルは少しイラっとした。

 

フィルの手を取り軽やかな足取りで家に戻っていくレイス。鼻歌でも歌いそうな勢いだった。

「わーーここがぼくの家かあ」

お前の家じゃない。と思わず言いたくなったが謎の力によって阻まれた。神がかり的な何かによってこの怪物の世話をする事が義務付けられている。フィルはそう感じていた。

「ちょっと待てよ。お前土足だろ?足を洗えよ」

「洗って!」

厚かましいな、とフィルは思う。フィルはレイスを連れて浴室に向かった。

「自分はお前の足なんて洗わないからここで自分で洗えよ。あとお前が汚した床も綺麗に拭いておくんだぞ。雑巾はここ」

「分かりました!」

レイスは驚くほど素直に従った。

 

 

しばし落ち着いてから二人は食卓で向かい合った。レイスはフィルの顔をじっと見ている。じっとこちらを見つめるレイスを訝しげな顔で見ていた。

「レイスくんはどこからきたんだい?」

「霧の世界」

レイスは即答する。

「神様がね。ぼくの願いを叶えてくれたの。第三の人生を別の世界で生かせてもらえる」

「そうなんだ」

「ぼくの保護者は女性で優しい人がいいっていったらここを選んでくれた」

迷惑だな。とフィルは思った。レイスは顔を背けるとチラチラとフィルを見る。

「えへへ。綺麗な人だなあ」

勿論フィルはレイスが思うほど美人と言うわけではない。だが世間と隔絶されたレイスにとってフィルは美人以外の何者でもなかった。そしてそれ以上に彼女の寛容さがレイスには変えがたいほど欲したものだった。殺人者を受け入れてくれる人間などありはしないのだから。

「そうか、君は殺人鬼だったんだな」

「うん。でももう殺すのはイヤだ」

フィルから見たレイスは完全な怪物だ。人間の姿ではない。人殺しという抵抗感がさほどないのは人ならざる見た目だからかもしれない。

「ところでレイスくん」 

「はい!何ですか!?」

レイスはうきうきとしながら元気よく答えた。

「お風呂に入ろうか?」

「えっ!」

レイスは全身の毛を逆立てた。

 

 

狭い脱衣所でその男は全身を強張って抵抗していた。それを必死に押し入れようとする女がいる。

「いやだいやだいやだ!お風呂なんて入りたくない!!」

「うるせえ!さっさと入れ!汚えんだよお前!」

踏ん張るレイスの背中を思い切り蹴り、浴室に入れた。急いで戸を閉め鍵をかける。

「うわああ!なんて酷いことを!まだ女の人に裸も見たことがないのに!」

「うるせえ!お前が裸になるんだよ!」

フィルはシャワーでレイスにお湯をかけるとローブを引っ張って剥ぎ取った。古びたレイスの衣類が桶に入れられる。

「いやああ!痴漢!変態!」

「あーー!もううるさいなあ!そんな汚い格好で家ウロウロされるの嫌なんだよ!ほら!ズボンも脱げ!」

「あ、そこはやめて、いやーーーー!」

レイスは半笑いで抵抗したが包帯はするするとほどけた。フィルはなるべく見ないようにしながらレイスにお湯をかけた。スポンジに石鹸をつけて泡だてワシャワシャと洗う。顔のマスクはお湯で剥がれ落ちていた。レイスの肌の汚れが落ち始め、表面が綺麗になっていく。腕についていた血と泥の汚れも擦っているうちの洗い落ちた。レイスの逞しい太い腕は本来の肌の色を晒している。広く逞しい肩、固い胸。綺麗に洗うとそれは立派な成人男性のものであった。そんなことを考えながら洗っていると上半身はすっかり綺麗になった。

「はあ、疲れた。ほら残りは自分で洗えよ」

「え!下も洗ってよ!せっかくなんだから!」

その言葉にフィルの顔が青ざめる。

「ふざけるなよ!変態!絶対嫌だ!」

レイスは不満そうにスポンジを受け取った。

「じゃあ、着替えとってくるから。はぁこっちまで濡れちゃったよ」

その言葉に反応して勢いよくレイスが振り向いた。目を丸く見開き穴が開くほど女を見ている。

「バカ!見るな!!」

女は怒鳴ると浴室から立ち去った。

「ふふ、良いもの見たなあ」

レイスは満足げに笑うとお湯の溜まった湯船に浸かる。足を上げて壁にもたれかけ肩までゆったりと湯に浸かった。筋肉の疲労が湯に溶けほのかな幸福感が全身を伝う。レイスはしばし至福の時を過ごした。

「セックスとかも頼んだらヤらせてくれるかな」

酷く不純なつぶやきが浴室に反響した。