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【殺人鬼との恋】第3話 恐怖による支配

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女はひとつの不幸によって捕らえられ、ひとつの幸運で救われた。それが女にとって良かったのか悪かったのかわからない。かくして、女の監禁生活が始まったのだった。

 女は殺人鬼の元で24時間一切自由を許されない監視の中、奴隷としての生活を送っていた。暗い森の奥深くにあるその廃墟は、太陽が一切昇らないため昼か夜かもわからなかった。そのため時間は殺人鬼の生活リズムが全てであった。彼が眠れば夜であるし、彼が活動していれば昼であった。女は彼の元で働き、殺人鬼が使用する罠のメンテナンスや人間を吊り下げるフックの補強を手伝った。先日、殺された男たちはいつの間にか殺人鬼の手によって処理されていた。死体は忽然と姿を消し、血の跡すら残さなかった。人の死体の処理まで任されたらたまったものではない。女は内心安堵していた。

  女は日夜、殺人鬼とともに行動した。否、そうしなければいけなかった。勝手な行動や単独行動は一切許す様子を見せなった。殺人鬼の大鉈が鈍く光るのを感じていた。殺人鬼は恐怖によって女の行動を支配した。殺人鬼と食事を共にし、寝る瞬間ですら殺人鬼と一緒だった。食事は鉛のように喉を通らなかったし名も知らぬ男と同じ寝具で寝るのは不快でしかなかった。相手は血の臭いを滴らせる殺人鬼だ。最初の数日は得体の知れない恐怖と不安で一切眠ることが出来なかった。しかし、幸い殺人鬼が女を襲うことはなかった。いや、殺人鬼は女を一切、異性としては見ていなかった。女の晒された肌や、唇一つですら一瞥することはなくただの奴隷として扱った。殺人鬼の済む廃墟は、水道も電気も生きており定期的に風呂に入れさせられることもあった。その間、殺人鬼は脱衣所で静かに本を見つめるだけで女の体に一切関心を持たなかった。女が風呂から上がる気配を見せると本を閉じ、部屋から出て行った。そしてひたすら女の準備が整うのを待っていた。殺人鬼にとって女は動物や道具と同じ扱いなのだ。
 

 忘れ去られた廃墟、時の止まった空間。広大な敷地にある屋敷に二人だけの生活。二人の間に会話はなかった。女はただ無言で殺人鬼に従い、自分よりも遥かに迅速に歩く殺人鬼の後を必死でついていった。ただ従いさえすれば殺人鬼も、何をするわけではない。ただただ無言で、業務的に作業と協力が交わされるだけだった。そんな日々が何日も、何日も続いた。

 

 しかしそんな日常は簡単に破られた。

 

共同生活が長くなるに従い女の服従が日常のこととなり、殺人鬼も徐々に警戒を解きはじめていた。当たり前の日常が長く続きすぎた。女が殺人鬼の奴隷となってからすでに数週間がすぎていた。監視も少しずつ緩み、密着していた距離は穏やかに間隔を開け、女を睨むその目は柔らかなものになっていた。

 いつ殺されるかわからない恐怖はあった。だが逃げようと思えば逃げられた。殺人鬼にはあきらかに隙が多かった。今すぐにでも駆け出して、出口を探せば逃げること自体は容易いことだろう。しかし女はそれをしなかった。逃げたところで成功する保証はないし、また生死をかけた鬼ごっこをするのも嫌だった。痛い思いもしたくはない。もとよりこの命は一度殺され男によって救われたものなのだ。女は男が望む限り服従することを決めていた。その結果殺されたとしてもその時はその時だ。

 女がいつものように殺人鬼の巨大な背中を必死に追いかけていると、殺人鬼がふと歩みを止めた。思わず背中にぶつかりそうになる。殺人鬼の傷だらけの背中が眼前に広がった。

「逃げないのか?」

「え…」

 思わず問い返す。考えてみれば殺人鬼が自分に話しかけるのはこれが初めてだ。

「逃げようと思えば逃げられるだろう?」

 殺人鬼はさらに問う。自身に背を向け、目線だけを斜めにじろりと女を見下げる。そこに警戒や監視の意思はなかった。

「えーと、貴方に助けられたから私の命は貴方のものだと思います」

 本心だった。あの時追われ、男に囚われた時から女は死を受け入れていた。自分の命は殺人鬼の意思1つでとうにでもなるものだと、殺人鬼のものであると、納得していなければ奴隷生活の恐怖にも耐えられなかっただろう。

「安心しろ」

 殺人鬼は言う。

「お前は殺さない。生かしておいてやる」

 女は思わず殺人鬼を見た。殺人鬼の目には相変わらず感情が宿っていなかった。