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【殺人鬼との恋】第2話 服従の意思

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 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。女は屋敷を抜け出し木々の隙間に身を寄せていた。若者の首を刎ねた大男は、女を放置して散り散りに逃げた男たちを追っていった。女は肌身を晒したまま、一瞬の隙を着いて草葉の陰に身を隠した。あの巨大な体躯の大男が天使か悪魔か判断がつかなかった。迷いなく人を殺すのだからおそらく99パーセントの人間が悪魔だと言うだろう。だが今この一瞬だけ、女にとっては天使になりえた。女は立ち上がり、頼りない足取りで移動を始めた。あまり同じ場所にいては見つかってしまう。今は一時でも早く、安全を確保しなければと思った。しかし歩けども、歩けども、一向に出口が見つからない。周囲は壁に閉ざされ、肝心の入り口はいつの間にか鉄の扉で固く封鎖されていた。そうしていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。息を殺し悲鳴のあった方角を見つめているとさらにもう1つ別の悲鳴が上がる。合計2つ。おそらくもう生きてはいないだろう。男は3人いたからこれでこの空間に残されたのは女と大男二人だけとなった。

 あの大男が自分を助けるために現れたのか、殺すために現れたのか判断がつかないうちは軽率な行動をしないほうがいい。それに周囲には罠がそこらじゅうに張り巡らされている。女は注意深く地面を確認しながら移動を重ねた。

 しかし暗闇の中で設置された罠を全て見つけるのは難しかった。一瞬のミスだった。草葉に隠された木製のトラバサミが自分の足に食らいついた。幸い、刃は鈍くボロボロでそれ自体が重傷を負わせるほどではなかった。が、良くない。女は罠の解除に予想以上に手間取っていた。痛みと恐怖の中、罠に四苦八苦しているその間、大男が自分に歩み寄ってくる気配を感じていた。程なくして大男が女の前に立ちふさがった。女は低い位置から大男を見上げ、大男は高い位置から女を見下げた。この大男をしっかりと見るのはその時が初めてだった。巨大な殺人鬼は歪な笑みを浮かべたホッケーマスクを被り太い腕は血で赤く染まっていた。肩に深く突き刺さるフック、強靭な筋肉。人から大きく乖離したその姿に女はしばし見惚れていた。マスクから男の感情は読み取れなかったが、僅かな隙間から見える瞳には人としての知性が見て取れた。この男は明確な意思を持って人を殺している。殺人鬼は女を掴むと乱暴に拾い上げ肩に担いだ。女はもはや抵抗しなかった。もともと車に放り込まれたときから女の死が決まっていたのだ。生きるための力は尽くした。この男の勝利だ。それでいい。そう思い、女は死を受け入れた。

 殺人鬼はふと歩みを止め、女を雑に落とした。体が土の地面に打ち付けられるのを感じ、思わず殺人鬼を見上げる。男は女の目の前に立ちはだかり、冷徹に女を見据えていた。その瞳には先ほどとは違った色を湛えていた。

(ああ、そうか)

死を受け入れた女は冷静な思考でそれを受け取った。女は足の痛みにこらえながら立ち上がると、逃げる素振りを一切見せず殺人鬼に歩み寄った。そして殺人鬼に足元に跪いた。頭を垂れ、まるで従者のように。

服従の意思。

大男も女の意思を理解したのだろうか?仮面の下の顔は見えなかったが、イビツな仮面の奥の素顔が邪悪に歪んだのが分かった。