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【殺人鬼との恋】第6話 誘惑

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 いつも通り、穏やかな午後だった。殺人鬼の住む地区は、閑静な森の奥深く。人は滅多なことでは訪れず、何もしなければ大半が安寧で終わる。そう、人さえ来なければ人殺しなど発生しない。今ここにいる大男はただの人だ。

 殺人鬼は自室で、書物を読んでいた。経営学書を読むのは昔からの趣味だった。そこに軽い足音を立てて女が入ってきた。殺人鬼の書斎の扉が開いて女が部屋を覗き込む。ノックもなかったが不思議と悪い気はしなかった。

 女は殺人鬼を見つけると、踊るような足取りで寄ってきた。殺人鬼の膝に飛び込み頭を胸に埋める。普通であれば考えられないような関係。しかしこれはふたりにとって日常的な光景だった。殺人鬼は寄ってくる女を受け入れ、傍に抱いた。自らの隣に座らせ自分に寄り添う女の髪を静かに撫でた。奴隷と主の静かな団欒。男女の愛ではなく、主従関係の延長だ。猫や犬を愛でるのと同じ、相手を人として扱わないからこそ成立する。

 しかし次の瞬間、女の行動が殺人鬼を激怒させることになる。


殺人鬼は反射的に寄り添っていた女を突き飛ばした。ソファーから立ち上がると高い位置から女を見下した。瞳には怒りを湛え女を睨みつける。

「どういうつもりだ」

 男の低い声がこだました。静かに怒りを秘めた声で女に問う。女は殺人鬼に抱かれたそのとき、彼の膝に指を這わせ、秘めやかに撫でた。それは子供が行う悪戯とは趣が違う。女は殺人鬼を誘惑しようとしたのだ。それに対し、殺人鬼は激昂する。男女の関係など彼は望んでいない。

「二度と同じマネはするな、寝る場所も今夜から別々だ」

 女を一瞥もせず、殺人鬼は部屋を立つ。誰もいなくなった部屋で、女が一人残された。つう、と涙が一筋こぼれた。殺人鬼に捕らえられてから、初めて流した涙だった。