HeavyNovel |二次創作小説・Web小説サイト

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

【殺人鬼の恋】序章 鮮血のきっかけ

f:id:tableturning:20161027171511j:plain

 フィリップは着の身着のままその街へやってきた。彼には金も住む場所もなかったが、新生活に対する希望だけがその胸にあった。フィリップは栄えた町並を見渡す。舗装された広い道路にそびえ立つ建築物。観光客向けに展開された店はアンティークにアレンジされておりフィリップの胸を高鳴らせた。それは彼が今まで見たこともなかった、まっとうな人としての色鮮やかな暮らしだった。フィリップは踊るような足取りで就職斡旋所へと向かった。これが彼の人生を180度変える事になるとは、まだこの時彼は知らなかった。

 

 

 人里を少しだけ離れた森の中心。街から約十数キロを車で走った森の中でキャンプをする集団がいた。川のせせらぎが聞こえるだけの静かな空間だった。街から距離も離れておらずかといって人も立ち入らないこの空間はキャンプとしては穴場であり快適な空間だった。複数の家族連れで賑わうその集団。そこにまだ若い女がいた。歳は20代後半といったところだろうか。結婚適齢期を迎えたその女は、左手の薬指に時代遅れの古びたデザインの指輪をつけていた。
「やっぱり綺麗ねえ、その婚約指輪」
 年齢は50代といったところだろうか、上品な佇まいの婦人が女の指輪に見惚れていた。指輪はサファイアの石を太い金のフレームで装飾したものだった。
「ありがとうございます」
 女は笑顔を夫人に返す。その目には疲れが見えていた。キャンプにきてからずっとこの調子だった。気が休まらない。常に人目を気にして気を配りながら行動していた。キャンプの参加者は、女の婚約者とその家族だ。家同士の親交を深め女を婚約者の親戚に紹介する名目で開かれた。要は新しく妻となる女の品定めだ。
「どうだい?みんなとはよくやってる?」
 そんな中、婚約者が女に問うた。整えられた黒髪、端正な顔だち、程よく引き締まった肉体、誰が見ても「ハンサムだ」というだろう。加えて彼の家は雑貨屋を営んでおり、資産家で家柄も悪くはなかった。
「うん、大丈夫」
女は気品のある微笑みを浮かべて言う。婚約者は爽やかな笑顔を作り女の元を離れた。 婚約者のことは嫌いではない。真面目で悪事を知らない真っ直ぐさ、少し気の強いところはあるが純情で爽やかだ。悪人ではない。ただこの婚約はすべて女の父が用意したものだった。ある日女はディナーに招待されそこでこの青年と出会った。すべて他人がお膳立てをし土台を作り上げ女はそれに従ったまでのことだ。女は他人に用意された道を言われるがまま歩き続け、人がしてもらいたいと思うことを率先して行った。どういう表情をすれば良いのか、どういうことを言えば良いのか、そういった人の望みを察して実践することしか許されなかったのだ。そしてそれは女の精神を大きく圧迫していた。
 女はため息をつくと、一人の時間を求めてその場を離れた。ほんの数分、散歩するだけのつもりだ。しかしそれは女を迷わせるのに十分だった。