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【殺人鬼の恋】第2章 帰りたくない

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 かくして女は異形の男と共に行動することとなった。女が迷い込んだ廃車工場の跡地は周囲がコンクリートの壁で覆われており、2つの鉄の扉を開ける以外の方法がなかった。幸いレイスが脱出する方法を知っていた。工場内の発電機を起動することでドアが開くようになると聞いた女はレイスの案内で発電機を回ることとなった。

  ペタペタと裸足で女の先を行くレイス。その後を見失わないようについていく。時折レイスが女に振り返り、何度も確認していた。まるで子犬が飼い主の位置を確認するようだった。愛嬌があるな、と女は思った。
 女は発電機を起動しようとするものの、慣れない機械操作に何度か手間取っていた。予想以上に時間をかけている女の背後で暇だったのかレイスはカンカンと鐘を鳴らしていた。意味も泣く透明になったり元に戻ったりを繰り返している。
「それすごい手品だよね」
「??」
「透明になったり、戻ったり」
 女は感心した様子でレイスの手品を見ていた。褒められて調子に乗ったのか、レイスは何度も鐘を鳴らした。正直うるさくて集中できなかったがレイスが嬉しそうにしていたので止めなかった。

 廃墟を周回し、発電機を修理している間二人は色んなことを話した。働いている職場の愚痴や家族のこと。住んでいる故郷の思い出など話に花が咲いた。レイスは女が思った以上に紳士的だった。過保護と言えるほど女の身を気遣いながら歩いていた。

「このあたりは棘の生えた草が茂ってるから通らないほうがいいんです」

 レイスは雑草をわざわざ避けて遠回りする。女もそれについていく。

「ここは危ない廃棄物が捨てられてるので避けて通りましょう」

 レイスは廃棄物を大きく避けて遠回りする。女もそれについていく。

「あ!この重機は不安定なんです!落ちてきたら危ないから僕から離れないでください!」

 レイスは女を自分の胸で隠すと慎重にクレーン車の下を通った。エスコートというよりも親が子供の手を引くようだった。あまりにも滑稽で何度も笑いそうになった。

「さて、これで最後」
 最後の発電機の修理。長く時間がかかってしまったがこれで終わりだ。女は息を吐き発電機のスイッチを押した。通電が完了し扉のランプが光る。それは二人の別れの合図だった。
「待って待って!」
「何よ」
 レイスは小走りにかけると地面を指差した。そこには工具などが収納できるような重厚なチェストがあった。木製のチェストはところどころ腐食しており木が傷んでしまっている。女がチェストを開け中を探ると救急箱があった。
「あ……」
 女はそこで初めて自分の状態に気づく。足に擦り傷ができていた。恐らく走ったときにできたものだろう。
「ありがとう!優しいのね」
 レイスは照れた様子で目を逸らした。感謝されて純粋に嬉しかった。
「さて、扉を開けたらお別れだね……」
「……」
 レイスの落胆振りは凄まじかった。しょんぼりと項垂れ寂しげに地面を見つめていた。孤独な森の中の生活でようやく会えた生きた人。それももうお別れだ。女は元気を失い落ち込むレイスを見て少し悲しくなった。不思議な廃墟で出会えた希少な友人。初めて心から笑い、打ち解けることができた。ここで分かれるのは惜しい。もしかしたら一目惚れとも言えるかもしれない。もう少し早く出会ってもう少しだけ長く一緒に入られたのなら付き合っていたかもしれない。初めて出会ってここまで気が合う人はなかなかいないものだから。
「レイス、エスコートしてくれるんだよね?キャンプまでついてきてくださる?森の中で一人は心細いから……」
 女はレイスに笑いかける。レイスは目を丸くして輝かせ軽やかな足取りで女についていった。その様子は犬そのものだった。
 レイスは知らなかった。女が抱いてきた長年の恐怖心を。1人でいたらどうにかなりそうだった。殺人鬼でもいいからそばにいて欲しかったのだ。そうでなければ彼女は。
「そういえばずっと気になっていたんだけど」
「?」
 出口の前で女が口を開く。
「ここってフックみたいな置物がたくさんあるよね、あれって何なのかしら?」
「……ッ!!!」
 レイスは言葉に詰まった。目の前が一瞬で白くなり、頭が冷えていく。額には冷や汗が浮かび無意識に手には力が込められた。ここで犯した男の罪を、この女に知られるわけにはいかない。
「まあ、ただの飾りよね。こういう廃墟って意味のないものがよくいたずらで設置されていたりするのよね。ふふ…面白いなぁ」
 女は自己完結する。レイスは息を吐き、胸をなでおろした。女はフックを儚げに見つめ、そこに吊り下げられる自分の姿を想像した。あれだけ廃墟を周回したのだ。この土地が忌まわしい場所であることなど気付かないわけがなかった。