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短編 狂った殺人鬼~レイスの過去~

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 若き青年、フィリップ・オジョモは故郷を離れ都会の街へとやってきた。持つものはその身ひとつ。金も寝る場所も彼にはなかったが新生活に対する期待と希望を胸に栄えた街並みを眺めていた。

   彼はその足で多数の求人が集まる就職斡旋所に向かった。「ちょうど良い仕事がある」と紹介人はひとつの求人をフィリップに渡した。オートヘブン廃車工場という車の解体作業を行う仕事だった。
  斡旋所の紹介人によりフィリップはさっそく面接を受けることができた。面接官を務める男はフィリップの上司となる男だった。厳つい体型と強面の顔が印象的だった。作業員というよりもヤクザの方が近い。男は名を「アザロフ」と名乗った。
 「今日はよく来てくれた。歓迎するよ」
 「ありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
  フィリップは笑って言った。面接は上手くいった。話に花が咲き、フィリップは快く受け入れられた。フィリップが若いからかはたまた運が良かったのかはわからなかったが面接は合格した。上司は笑ってフィリップを受け入れた。そう、笑ったのだ。
  すべてがうまく行っていた。この時フィリップは本気でそう思っていた。


  会社の社員として正式に迎えられるとしばらくは平穏な日々が続いていた。生活基盤が整い、工場の敷地を把握し基本的な業務を覚えるとフィリップは粉砕業務を任されることに決まった。粉砕業務はパターン化されており、決められた工程に忠実に従えば誰にでも務まる仕事であった。ガソリンの抽出やタイヤの解体は前工程ですべてすんでおりフィリップは決められた操作で機械を操作し車を粉砕するだけで良かった。真面目で純朴なフィリップに適した業務だった。
  だがフィリップにとって上司は決して好ましいタイプの人間ではなかった。品のない笑い、下品な言動、高圧的な態度、挙げればキリがない。だが黙々と作業する彼の業務で、それはさして大きな問題ではなかった。フィリップは色々と思うところはありながらも社員として仕事に従事したのだった。


  会社で働き数ヶ月もすると会社の持つ独特な空気を感じるようになった。フィリップの故郷は犯罪が跋扈する地域であった。犯罪が絡む空間には独特の匂いがするものだ。
 「いつも贔屓にしてくれてありがたい。こらからもよろしく頼むよ」
 「こちらこそ」
  交わされる多額な金銭、買収された警察官、犯罪の匂いは日増しに強く感じさせ 、会社が裏社会と通じていることを否応なしに感じさせた。それが如何なるものであったか具体的なことまではわからなかったがフィリップは気にも留めなかった。犯罪など珍しいことではなかったし彼自身の業務は犯罪とは無関係だったからだ。犯罪が当たり前の世界で生きてきた彼にとって大したことではなかったし、自分が犯罪にかかわっていないならそれでいいと彼は考えたのだ。

  フィリップは与えられた仕事を淡々とこなした。流れてくる廃車を粉砕機にかけ鉄の塊に変えて行った。平穏と安寧の日々、それを終わらせる運命の日は唐突に訪れた。


  とある日、いつも通り粉砕業務を行っているとトランクから血が滴り落ちているのを発見した。訝しげに廃車を眺めた。正直トランクを開ける決心はなかなかつかなかった。もし彼の予想が正しければ、この中に秘められた真実は彼の一生を堕天させることになる。恐る恐る、震える手でフィリップはトランクを開けた。自分の想像した未来が違っていることを祈りながら。
 「ひっ……」
  刹那、フィリップは飛び退いた。トランクの中には若い男が縄で縛られ、体を限界まで丸め込まれた状態で詰め込まれていた。男はフィリップを見ると恐怖に怯えた目をさらに歪めて声にならない悲鳴をあげた。腕には多数の注射跡があった。それが何を意味するかは考えなくとも分かった。
  フィリップは訳がわからなかったが、ともかく男の拘束を解き逃した。男は駆け出し一命を取り留めた。フィリップがホッとしたのも束の間、その男は上司に捕まりその場で首を掻き切られた。
  目の前で飛び散る血飛沫。何の躊躇いもなく人を殺す上司の鮮やかな動作。あまりにも非現実的な光景にフィリップは呆然としていた。どさりと地に落ちる死体を見、目の前に立つ上司を見、フィリップは否応なしに気づかされた。そうだ。聞かなければならない。トランクに詰め込まれた人間、目の前に転がる死体、今まで僕は何をしていたのか!と。
「どういうことなんですか!これは!なんで廃車の中に人が入ってるんですか!!なぜ彼を……」
  殺したのか?

 「お前は選ばれたんだよ。執行人としてな」
  そして明かされた事実はあまりにも理不尽で残酷なものだった。解体業は名目でありその実は殺人を請け負う殺人工場であったこと、自分が殺人を執行する処刑人だということだった。フィリップは絶句した。
 一瞬の間に様々な思考が頭を巡った。自分は知らない間に数多くの人間を殺していたのだ。今まで数多くの車を粉砕機にかけた。何度も何度も人間を粉砕機にかけた。殺人の工程が頭を巡った。そして殺人者としての自分の生きる道を考えた。
  普通の人間には戻れないと思った。死ぬ勇気もない。数多の人を殺して警察に追われ殺人鬼として生きるしかない。今まで犯罪を犯さす、真面目に正しく普通の人間として生きてきた。なのにたった一度の決断で殺人鬼にされてしまった。これからはもう人殺しとして人を殺し続けるしかない。そう考えた瞬間、彼の精神は崩壊した。否、彼自身が崩壊することを選んだ。自分の意思で殺人を犯すより、狂って分別がわからなくなった結果人を殺してしまう方が楽だったからだ。そして同時に激しい怒りが爆発した。自分を殺人鬼にした、自分の人生を滅茶苦茶にした上司に凄まじいほどの憎悪が湧き上がった。踵を返して立ち去ろうとする上司の背を、ゆらり、ゆらりと静かに近寄った。手にした工具を上司の脳天に強く叩きつけた。
  脳天に響く破裂音。ボンネットに衝撃が加えられ大きく凹むように、上司の頭に激痛が走った。
  一瞬の出来事に狼狽する上司の顔を、フィリップはさらに工具で叩きつけた。鼻が折れ、目が潰れ、歯が欠け、もはや元の顔すらわからなくなったころ、まだ意識のある上司を粉砕機の中に放り込んだ。
  大きな鉄の歯車に、男の体躯が押しつぶされ引き千切られていく。ゆっくりと時間をかけながら鉄のギシギシという金属の擦れる音よりも、骨が折れて摩擦するような重低音がこだました。
  腕と肩が外れ男の足がもげる。体はあらぬ方向に折れ曲っていた。人とは酷なものだ。そうしてもなお、まだ生きているのだから。
  ちょうど歯車が首にかかった時、フィリップは機械の動作を止めた。フィリップは上司の体に近づくとその首を引き抜いた。こんなものではまだ甘い。崩れた思考の中、頭の奥でそう鳴った気がした。
  フィリップはあどけない少年のように、音を探る子犬のように首をかしげると、上司だった男の残骸を一瞥した。そして踵を返し走ってその場から立ち去った。彼の行方を知る者はいなかった。いや、知ろうともしなかった。彼に出会った時、そこには死が待っているだろう。