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【殺人鬼の恋】第4話 何かがいる

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 それから数日が経ち、女は非日常から日常へと戻っていった。森の中で出会った異形の怪物との記憶は女の中の思い出の1つとして大事に仕舞われた。

 女には結婚の日が迫ってきていた。次第に厳しくなる制限、周囲の目が女の自由や思い出を少しずつ束縛していった。彼女に残された時間も後わずかしかない。

 女は仕事終わりの夕暮れ時、駅から降りると携帯を確認すべくバックから取り出した。スリープモードにした携帯を起動するとそこには不審な着信が記録されていた。

 数分前の非通知による不在着信。女からしてみればそれは珍しいものだった。発信者がほとんど特定される現代で、非通知の不在着信は一際目立つものだ。

 女は携帯をバッグに戻すとそのまま歩き始めた。
いつも通りだ。いつも通りの変わらない街並み、変わらない歩道、変わらない景色。変わらない夕暮れ時。何1つ乱されることはない。なのになぜだろうか、焦燥が女を支配していく。一刻も早くここを立ち去らなければいけない。そんな錯覚にとらわれていた。

 女の足が無意識に早まる。何も変わらないはずだ。並木道を通り、通路を曲がって少し歩けば家に着く。焦る必要はない。焦る必要はない。女はただひたすらに自分に言い聞かせた。

 ハイヒールの音がコツコツとなる。その背後でペタペタと何かが付いてくる音がする。その足音は女が歩を早めると同様に早くなった。


コツコツコツコツコツコツ。
ペタペタペタペタペタペタ。

 

コツコツコツコツ。
ペタペタペタペタ。

 

 女の息が乱れ始める。自身の耳元で獣のような低い吐息がグルグルと鳴る。そんなはずはない。獣などこの都会にいるはずがない。おかしな錯覚だ。今日の自分は疲れている。

 

 コツコツコツコツ。
 ペタペタペタペタ。

 

 止まない足音。

 このままではラチがあかない。女は意を決し、歩みを止めた。そして息を整え、ゆっくりと背後を振り返った。


 何もなかった。


 女はホッと息を吐いた。当たり前だ、何もいないはずなのに、そこに"いる"わけがない。

 通路のカーブミラーにも街のガラスにも自分を追いかける男の姿などありはしなかった。全ては女の思い込みだったのだ。

 女は踵を返して帰路に着いた。

 

 アパートに戻ると、女は着替えもせずベッドに倒れこんだ。こんなことができるのは今だけだ。結婚すれば絶対に許されない。女は手元にあるバッグから携帯を取り出して確認した。着信はなかった。女は安堵した。

 自分の城に戻ったことで安心したのだろうか、女は次第に微睡みに取り憑かれていった。