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【殺人鬼の恋】第8話 誘拐

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 レイスはいつも通り公衆電話から電話をかけていた。この瞬間のためになけなしの金を全てはたいた。日々貯めてきた小銭を全て水に捨てた。無駄だとわかっていても彼女に電話をかけたかった。

 いつも通りの着信音。彼女が取らないことはわかっていたがそれが日課になっていた。ある意味自分の存在証明だ。着信が残っていれば自分が彼女をまだ思っていることを伝えられる。ただそれだけのためのレイスは着信をかけ続けた。取らないと思っていたはずの電話。意外なことに電話の奥から女の声が聞こえてきた。
「はい」
 無機質な女の声。思わずレイスは言葉を失う。
「もしもし、どちらですか?」
「あ、あのぼくです!レイスです」
 動揺しながらレイスは答えた。思わず声が上ずり指は小銭を探る。
「レイス!待ってたよ!お願い私の言うことを聞いて!」
「えっまって…」
 レイスは即座に公衆電話のコイン投入口から手持ちの小銭を入れた。
「私を迎えに来て、すぐに!家族に囚われてるのお願い!」
「囚われてるって?え!?」
「私の実家よ!わかるよね!すぐに迎えに来て!」
「まっ…」
 レイスが問い返す間もなく電話は途切れた。公衆電話からでは長く通話はできない。レイスは受話器を置くと即座にその場から離れ女のいる場所へと向かった。

 

*

 

 女の実家である屋敷に着くとレイスは透明化した状態で屋敷を観察した。幸い女はすぐに見つかった。大きなガラス戸で締め切られたその部屋に女が立っていたからだ。その部屋は道路に面しておらず向かいが広い庭になっておりその先は林で囲まれている。外から入り込むのは難しいが内部の人間が監視するのは都合のいい場所だろう。レイスのような特殊体質でなければ忍び込むのは容易ではない。レイスは暗闇の中、女の部屋へと駆け寄った。

 

 女は部屋でただひたすら助けを待っていた。祈るように手を組みひたすら待ち続けた。

 そして女はレイスの気配を感じ取る。レイスは女の部屋に連なるバルコニーから女を見ていた。一目でいいから女に会いたかった。最後に一度だけ彼女の姿が見たかっただけだ。そう思わせるほど女を愛していた。
 しかしそれほどまで恋い焦がれた女は、カゴに閉じ込められた小鳥のように部屋に囚われている。胸を締め付けられるような切なさがこみ上げた。

 女はガラス戸を開け、バルコニーに出るとレイスの胸に体を預けた。レイスにとってそれはひどく官能的だった。うす紅に染まる女の頬、甘やかな香水の香り、熱い女の体温。レイスを誘惑するそれはレイスの心をかき乱した。今すぐベッドに押さえつけて犯したい衝動に駆られる。強い意志でなんとか理性を保っていた。だが女はさらに魅力的な要求を口にする。
「準備も覚悟もできてる。お願い、私を連れて行って」
「…できない」
 駆け落ちの懇願。レイスが心から願ったものだ。レイスは僅かな理性でその誘惑を拒絶する。引きつった声で。
「どうして…」
 女は一瞬、酷く絶望した顔をした。罪悪感と後悔の中、レイスは続けた。必死に欲望を押さえつけながら。
「あなたは知らないかもしれないけど、だって僕は…」
「人殺しなんでしょう?」
 女は淡々と呟く。レイスは目を見開いた。
「いつから…」
「知ってたよ、最初から」
 女はレイスを見ずに言った。
「私ね、あなたと出会った時、森に迷い込んだ時、死にたかったの。死にたいと思うと体がふらりと勝手に動くの。普段は耐えてるけど、ふと死にたくなるの」
 女は糸が切れた人形のようにその場に跪く。
「私は誰かに操られて感情もなくして死んでいく。子供を産ませられて、育てるためだけに生かされて、その役目が終わったら何事もなかったかのように忘れられる。私ってなんなの。これじゃあ生きてるって言わない」
 女は涙をこぼし嗚咽を漏らす。
「ふと気づくとね、死ぬことを考えるの。それを実践しようとするの。すんでの所で止めるけど、最近はそれもままならない。だって知ってしまったから感情と意志。自分の気持ちで行動する喜び……」
 顔を上げてレイスを見上げる。
「お願い、私をさらって。そして」

 私を殺して。

 レイスの理性は簡単に切れた。レイスは女の体をつかみ肩に担いだ。そしてそのまま自分の欲望に従って連れさらって行った。