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【殺人鬼と三角関係】第10話 摂理に反した異端者

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 殺人鬼は色恋で混じった目でいつも自分を見ていた。何度かけん制したが歯止めは効かなかった。少し辛いことも言った。それはあくまでも本人のためだ。だが理性を失った男を止めるには至らなかった。
 殺人鬼の告白を受けた翌日。実典は一人、公園にいた。家にはケヴィンとウィリアムがいる。そしてエドワードも。皆強くたくましい殺人鬼だ。それぞれに勉強し人としての生活を取り戻すために努力している。そんな家で普通の女である実典は一人になれなかった。だから一人になりたかった。今は誰とも関わりたくない。この公園は奥まった場所にあり、誰もこない。実典の周りには誰もいない。都合のいい場所だ。実典はふらふらとブランコに座った。隣には天使が座っていた。殺人鬼たちを自分の家に連れてきた神の僕。実典は頭を抱えた。
「あの人に言われたんです。好きだって」
 低い声で静かに呟いた。
「あの人、ずっと前から私を見てたんです。下心の混じった目で。私気づいてた。でも見ないフリをしてた」
 実典は続けた。呪いの言葉を吐くように一言一言が自分の首を絞めた。
「最初はね、ただの下心だと思ってた。だから平気。でも違った。私は知ってたから、それが真実を帯びていくのがわかったから。わざと突き放したんです。これ以上変な期待を持たないように。あの子、私を見ながらずっと悩んでた。だから距離を置いたの。でもダメだった」
 実典は頭を掻き毟る。
「言われなければいいと思った。気づかないフリをすれば楽だったから!でもあいつは私に言ってきた!ついに私に答えを求めてきた!」
 どうすればいい。どうすれば。どうすればあの怪物は納得する?いっそのこと付き合うか?あの怪物に抱かれて、キスをして、愛し合って?殺人鬼と1つに?実典はぴたりと手を止めた。身震いがした。
「私、好かれてるの。男の人から。私よりも若くてかっこよくて美しい男の人。私、愛されてる。求められてる。好きだって。ああなんて嬉しいの。好きって…ケヴィンが私のことを、好き。私も…ケヴィンのことが…」
 実典は呪文のように唱えた。そして歪な笑みを浮かべた。

 ガシャン!!

「嫌っ!!!無理よ!!無理!絶対無理!!だって殺人鬼よ!?人殺しなのよ!受け入れられるわけないじゃない!何人殺したの!?何百人殺したのよ!!殺してる時何を思ったの!!?どうして殺したの!!?どうしてよりによって私なの!?どうしてよりによって殺人鬼なの?!何で!?何で!!何で!!どうしてなのよ!!」
 実典はブランコを蹴り飛ばし絶叫した。ブランコは跳ね返り乱暴に揺れた。そして実典は跪き静かに泣いた。
「ううっ…うう」
 実典は嗚咽を漏らす。その声は悲痛で痛ましかった。実典の懺悔を天使は黙って見ていた。
「実典さん」
「おしえて…私は、どうすればいいの」
 天使は答えない。実典は願う。誰か、教えて欲しい。
「付き合えばいいじゃないですか、ケヴィンと」
 天使は実典が言ってほしくないことを言った。
「それで彼が納得するんでしょう?喜ぶんでしょう。それで問題は解決。あら何?これでもう終わり?あっけなかったわね」
「……」
「いいじゃない。ケヴィンくん。素敵な男性じゃない。美形で無垢で。少し狂ってるけどあなたにご執心よ。優しくて真面目であなた一筋」
 実典は固まったまま動かない。天使は顔を背けたままでいる実典の髪を掴み無理やりこちらに向けた。
「運命を変えてもらえる?神様が救ってくださる?少し頑張っただけで?バカね。あなたはそこまで神に愛されてなんかいない!体ぐらい男に開いたらどう?股ぐらい開けよ!心ぐらい男に売ったらどう?それで未来が動くなら安いものでしょ!」
 天使は実典に怒鳴りつけた。美しい顔を怒りに染めて神の怒りを再現する。ただひたすらに残酷な言葉を実典に突きつけた。
「だって、だって相手は人殺しなのよ」
 実典は泣きじゃくるように、涙を流しながら救いを求めた。
「そうよ、人殺し。ただの人殺しじゃない。いまこの瞬間だって何千人もの人が死んでるわよ。戦争で、貧困で、病気で、拷問で。人間の身勝手で幾多もの命が殺されてる。それと何が違うの?ケヴィンくんなんてたった数百殺しただけじゃない?あなただっていつも肉を食べてるじゃない。虫を殺してるじゃないの」
「それは…」
 それは、その考え方は人の摂理に反している。言いかけてやめた。こいつは人ではない。天使だ。人でないものに人の摂理を説いても無駄だ。
「実典さん、未来の話をしましょう?あなたの本当の未来」
 天使は微笑む。そして実典の耳に唇を近づけた。
「あなたの結婚相手は…」
 実典の目が大きく見開く。一瞬にしてその目が憎悪に染まった。



 夜。ケヴィンは家の近くにある公園にやってきた。奥まった場所にある人気のない公園。熱を出していたケヴィンだが栄養を摂り一晩休むと体はすっかりよくなった。捻じ曲がった腕も今は治っている。
 ケヴィンが公園にやってきたのはある人物に呼び出されたからだ。携帯を起動するとそこには実典からの着信があった。日本語が読めないケヴィンのためにわざわざ電話をかけたのだ。ケヴィンは指定された時間、すなわち夜に公園に訪れた。公園にたどり着くと人影があった。街灯の明かりに照らされて、その女性は立っていた。感情のない瞳で斜めにこちらを見つめた。その姿は妖艶で美しく見えた。異世界の美しさとでもいうのだろうか。幽霊や妖怪のように現実味がなく、ふとした瞬間堕ちてしまいそうな死の美しさを持っていた。ケヴィンが思わず見とれていると、その女性はゆらりとこちらに歩いてきた。
「ミノリ?」
 ケヴィンははっとする。様子がおかしい。実典はケヴィンの胸元に手をあて彼を見上げた。
「ケヴィン、少し屈んでくれる?」
 実典は昏い顔でそう言った。その目は艶かしく色っぽい。唇は夜露で濡れていた。思わずごくりと唾を飲んだ。ケヴィンは言われた通り身をかがめた。
 実典の腕がケヴィンの背中に伸びる。そしてしなやかな手がケヴィンの髪に伸びた。ほんの少しだけ力が込められ低い姿勢を強いられる。そして実典の湿った柔らかい唇がケヴィンの口に押し付けられた。一瞬、舌がケヴィンの唇を掠める。生暖かい感触がケヴィンを刺激した。永遠にも思える一瞬。それは脳髄を刺激し、心地よい激情となって全身を震わせた。
 一瞬の口付けが終わると実典はケヴィンの胸に手を当て唇を離した。
「受け入れてくれるってこと…?」
 ケヴィンは思わず驚いたように言った。絶対に拒絶されると思っていたからだ。この展開は予想外だった。実典は少し間を空け、頷いた。
「私ね、最初はケヴィンが浮かれてるだけだと思ってたの。本気じゃないって。でも違うってわかったわ。あなたの真剣さが伝わった」
 実典は顔を上げてケヴィンを見つめた。
「好きよ。ケヴィン。愛してるわ」
 ケヴィンは目を輝かせた。思わず笑顔になる。そして実典の肩に手を伸ばした。抱き締めようと思った。
「待って、でも待って!」
 実典は自身の体を抱いて少しだけ身を離した。声に焦りが混じる。男の抱擁の先に何が待っているのかはよく知っている。
「えっ?」
 少し急ぎすぎただろうか。ケヴィンはぴたりと止まった。
「少しだけ待って欲しいの。一年。一年でいい」
「どうして?」
 ケヴィンは問う。
「勿論その間、束縛しようとは思わない。他に好きな人ができたらそれでもいい。その時は諦める。私はあなたのことを何も知らないの。それが嫌。もっと知りたい。あなたの事を。そしてお互いのことがちゃんと理解できたら」
 実典は伸ばされたケヴィンの手を取り両手で包んだ。そしてケヴィンの目を正面からしっかりと見た。
「本当のセックスをしましょう」
 実典は首を傾げ不器用に笑う。その表情は艷めかしく妖艶だった。見つめられたケヴィンの体に震えが走った。そして喜びが湧いてくる。
「わかった。待つよ。でも他の女はいらない」
 ケヴィンは実典の体を胸に抱いた。一年。たった一年待てば実典と正式に付き合える。抱ける。自分の物にできる。そう思うと長い月日も魅力的なものに思えた。無理だと思っていた。受け入れられないと思っていた。だが受け入れられた。それどころか自分を愛してくれると言った。今はそれだけでいい。
 ケヴィンは実典を自分の腕から離した。そして二人で並んで帰路についた。喜びが胸を満たしていた。好きな人に愛されるというのはこんなにも嬉しいことなのかと思った。
「ミノリ、手を繋いでいい?途中まででいいから」
 実典はケヴィンを見ると微笑んだ。そしてケヴィンの大きな手を優しく握った。そして表面を撫でて握り直す。実典の手は暖かかった。
 実典は前を見つめた。その目には今までにはない強い意志が宿っていた。

 どんな手段を使ってでも変えてやる。運命なんてクソ喰らえだ。未来を変える。絶対に。そのためならば人殺しだろうと愛してみせる。自分の体なんていくでも売ってやる。他の人間が私を非難しようとも絶対に屈するものか。最後まで抗ってやる。
 凡庸な女は血で汚れた殺人鬼の手を強く握りしめた。殺人鬼は嗤う。何も知らずに喜んでいる。だがそれでいい。運命を賭けた女の戦いはここから始まっていた。

女はその夜から善良な凡人から人類の摂理に反する異端者へと成り下がった。