HeavyNovel |二次創作小説・Web小説サイト

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

【殺人鬼と三角関係】第13話 欲望渦巻く聖夜

f:id:tableturning:20161105080124j:plain

 12月24日。
 ついにクリスマスを迎えた。モール街の中央には大きなクリスマスツリーがそびえ立ち、きらびやかな装飾で飾られていた。周囲には七色のイルミネーションで馬を模した置物や可愛らしいミニハウスが飾られ、モール街の店はいつもより活気にあふれていた。サンタを模した格好の店員たちが高らかな声で客引きを行っている。カップルたちが寄り添い街を歩いていく。家族連れの幸せそうな人々が笑っている。そして多くの人の目が釘付けになっていた。ツリーではなく大男3人に。

 「わーー!キレイだね!ケヴィン!」
 醜悪な殺人鬼のウィリアムは子供のようにはしゃいでいた。隣に立つ二人の殺人鬼に向かって喜びをあらわにする。エドワードとケヴィンの二人は冷めた表情でただはしゃぐウィリアムを見ていた。
「クリスマスイブなのに男3人」
「なんで僕がエドワードさんとデートしなきゃいけないんですかー!もう嫌です!こんなの!帰りましょうよ!」
 銀髪の美しい殺人鬼、ケヴィンは泣きそうになりながら駄々を捏ねた。悪い意味で周囲の目を引く。
「それはこっちのセリフだ!ウィリアムを街に連れてってやれってミノリに言われたんだから仕方ないだろう!」
 スキンヘッドで強靭な肉体を持つ殺人鬼、エドワードは反論した。
「ケヴィン、エドワード。俺のせいで喧嘩してる?……」
 口論している二人を見ると、ウィリアムが申し訳なさそうに俯いた。
「い、いやそんなことはない!喧嘩なんかしてないぞ!ほら!仲良しだ!!」
 エドワードはケヴィンの肩をがしっと掴んだ。ケヴィンはあからさまに嫌そうな顔をしたが無理やり笑顔を作った。
「はぁ、結局ミノリの誤解も解けてないし。最悪のクリスマスだ」
 ケヴィンはそんなことをつぶやきながらアイスクリーム屋に並んだ。ショーケースには様々な種類のアイスが並んでおり、その中から好きなものを二つ選んでそれぞれをコーンにセットしてもらった。種類はチョコレートとオレンジを選んだ。注文したアイスを両手に受け取ると、その一つを食べながら二人の元へ戻った。そしてもう一つのアイスをウィリアムにあげた。
「わーーーい!アリガト!ケヴィン!」
 ウィリアムは喜んでアイスクリームを食べた。
「おい!俺の分は!?」
 ケヴィンは無視して自分の分を食べた。
「ケヴィン!ケヴィン!あの店行きたい!!」
 ウィリアムは店の看板を指差して言った。
「はぁ?何あれ?」
 看板には奇妙な文字が書かれている。デザインはシックで明るい色を基調としておりおそらく女性向けの店であることが予想できた。
「天然石ダッテ!」
 ウィリアムは笑って言った。その様子をエドワードは黙ってみていた。そしてとある事実に気付き、静かに口を開く。
「ケヴィン、お前……」
「ん?」
「ウィリアムに学力抜かれてるのな」
「うっ……」
 その言葉は正確にケヴィンのプライドを傷つけた。

 3人は天然石の店に入ると商品を眺めた。
「ウィリアムこういうのに興味があったの?」
 ウィリアムは台座に垂れ下がっているネックレスをしばらく見つめているとその中からピンク色の石をあしらったネックレスを手に取りレジに持って行った。財布からお小遣いを取り出し店員に差し出す。店員は一瞬驚いていたが問題なく精算を終わらせネックレスを小さな紙袋に入れてリボンの飾りをつけた。可愛らしく包装された商品を受け取ると二人のもとに戻っていった。
「サァ!イコウ!」
 ウィリアムははしゃぎながら店をでた。二人の殺人鬼もウィリアムの後について行った。
「なんかこういうのもいいかもしれないな」
「は?何が?」
 エドワードの問いに対してケヴィンが眉をひそめる。
「ここは何不自由ない。平和で穏やかで常に誰かの保護下にある。俺が生きてきた中では絶対に考えられなかった」
「……」
 ケヴィンは黙り込む。そんな風に考えた事はなかった。
「ほら、やるよ」
 エドワードはケヴィンに手のひらに収まるサイズの包みを差し出した。紺色の包装紙に包まれシンプルなリボンの飾りがついている
「なんだよ、これ」
「ボールペンだ。少しはお前も勉強しろ」
 嫌味を含んだ言い方をするとエドワードはウィリアムを追って行った。
「なんだよ、あいつ」
 余計なおせっかい。うっとおしいほどの善意。全くめんどくさい世話焼きだ。

 

 3人は一通り街を回ると家に帰った。行き交う恋人たちの中、男3人でクリスマスを過ごすことほど惨めなものはなかった。本当は隣にいて欲しい人がいない。そのことが辛かった。
「タダイマー」
「今帰ったぞ」
 殺人鬼たちがガヤガヤと騒ぎながらリビングのドアを開ける。
「ハッピークリスマス!!」
 紙吹雪が破裂音とともに舞った。ひらひらと銀紙が舞い落ちる。視界には華やかに装飾されたいつもとは違うリビングの姿が会った。装飾のひとつひとつは雑ではあったがテーブルにはピザやチキンがセッティングされ、そして中央にはイチゴのホールケーキが置いてあった。いつもより圧倒的に豪勢な食事。それが意味することはただ一つ。
「コレッテ……」
 ウィリアムは思わず言葉に詰まる。
「クリスマスだよ!」
 実典は華やかな笑顔を作るとウィリアムに言った。
「ミノリさんクリスマスはやらないんじゃ……」
 ケヴィンは思わず問うた。
「そのはずだったんだけどさ」
 実典ははにかむように笑った。
「家族だから」
 その言葉を聞いたウィリアムの目には涙が浮かんでいた。家族で迎える初めてのクリスマスだった。
「ほらほら早くご馳走を食べましょう!ピザが美味しいよ!」
「ワーーーイ」
 ウィリアムは実典の隣に座りピザを頬張った。
「オイシイ!!」
「ミノリ、シャンパンを買ってきてあるぞ」
「エドワードさんよく分かってますね!!気が利く!」
 実典はシャンパンを受け取るとすりすりと頬ずりした
「開けてやるから寄越せ」
 エドワードはぶっきらぼうに言うとシャンパンを受け取り慣れた手つきでコルクを開けた。実典のワイングラスに黄金色の液体がとくとくと注がれ泡を立てる。実典はシャンパンを口に運びとぶどうの果汁と酸味そして独特な味わいを楽しんだ。程よいアルコールが体に周りとろけそうになる。
「美味い」
「それはよかった」
 エドワードは満足げにその様子を見た。そして自身もワイングラスに口をつける。ケヴィンは酒を飲まずウィリアムと同じオレンジジュースを飲んだ。
「ミノリ、これプレゼント!」
 ウィリアムは小さい袋を実典に差し出した。実典はテーブルに置いていた布巾で手を拭ってから紙袋を受け取った。紙袋にはシンプルなピンク色のリボンが飾られてる。
「これってクリスマスプレゼント?ありがとうウィリアム!大好きよ」
 実典は笑って言うとウィリアムを抱きしめた。そして紙袋を丁寧に開けると中身を手のひらに広げた。銀のチェーンがしゃらりと手のひらに落ちて、ピンク色の小振りな石が転がる。
「わあ綺麗!ローズクォーツのネックレスだね!大事にするよ」
 実典はネックレスを首にかけた。黒い服にそれはよく映え似合っていた。
「じつは私も用意してあるのよ」
 そう言いながら実典はバッグから包みを取り出して差し出した。ウィリアムは包みを受け取って包装を取る。そこにはシルクのような手触りの良い宝石箱があり、フタを開けるとゴールドカラーのロケットペンダントが入っていた。
「正直何がいいかわかんなかったんだけどね。海外だとお守りにしたり子供にあげたりするらしいから」
 ウィリアムはロケットペンダントを見つめていた。そして体を震わせて涙を流す。
「アリガトウ、ミノリ」
 二人は笑い、優しく抱擁した。
「ミノリ、オレからもプレゼントさせてくれ」
 エドワードからのプレゼントはシンプルなデザインのボールペンだった。輝くような高級感があり、手に持つと重みを感じる。おそらくブランド物のボールペンだろう。
「ありがとうエドワード」
「いつも世話になっているからな」
「じゃあ私も」
 そして実典もエドワードに包みを差し出した。中身は皮の財布だった。
「感謝する。ミノリ」
 短いやり取りではあったがその間には、信頼関係が読み取れた。ケヴィンはその光景を見ているだけでなんとなくプレゼントを渡せなかった。原因は嫉妬だ。やっぱり二人だけの夜を過ごしたいと思っていた。自分はワガママなのだろうか。
「ケヴィンは渡さないのか」
「用意してないです」
 ケヴィンは嘘をついた。エドワードは少しだけ困ったような顔をしたが普通に食事を楽しんだ。ケヴィンは結局、プレゼントを渡しそびれてしまった。パーティが終わり静寂がリビングに下りるとケヴィンは自室へと戻って行った。ケヴィンの不機嫌な様子を確認するとエドワードは椅子から立ち上がった。
「今から少しコンビニに行ってくる」
 エドワードは言った。
「そうなの?」
「ああ、ウィリアム。お前も来い」
 ウィリアムは不思議そうに首を傾げたがおとなしくエドワードについていった。パタリ、と玄関の戸が閉まる。誰もいなくなった部屋は途端に静かになった。
「あ、そうだ」
 実典は静かになったせいで忘れていたことを思い出す。かばんの中から最後に残った一つの包みを取り出すと二階へと上がって行った。

 



「ミノリと二人きりが良かったな……」
 女々しいと思うがやっぱりそう思ってしまう。誤解も解けずプレゼントも渡せず最悪のクリスマスだ。あんなにがんばったのに。のどの奥から苦いものがこみ上げてきた。このまま実典に近づくことができないまま夜を越えてしまうのだろうか。ケヴィンがひざを抱えたまま落ち込んでいると扉がコンコンとノックされた。ケヴィンははっと顔を見上げる。エドワードとウィリアムはノックなどしない。いつも無遠慮に入ってきては自分勝手に出て行く。で、あれば思い当たるのは一人だけだ。
「ど、どうぞ」
 ケヴィンは控えめに扉を開けるとその人物を招き入れた。夜中に女性を部屋に入れるなど緊張してしまう。
「寝てるところごめん」
 実典は無表情でケヴィンの部屋に入ってきた。そしてケヴィンと向かい合う体制で座る。目の前に実典の顔がある。心臓の音が高鳴った。
「実はケヴィンにもプレゼントあるんだ。さっき渡しそびれちゃったけど。ほら」
 ケヴィンの手に渡される包み。開けるとそこにはケースがあり、中には銀発色の腕時計が収められていた。盤面にはクリスタルの石がはめ込まれており品があって美しい。
「あ、これって……」
「メリークリスマス、ケヴィン」
 実典はそれだけ言った。そして用を終えると立ち上がり部屋から出ようとした。
「待ってください」
 思わず止める。実典は振り向いてケヴィンを見た。
「これ、僕から」
 ケヴィンは派手に包装された小さな小包を差し出した。実典は一瞬驚いた顔をすると包装を解いて中身を開けた。そして全身が固まる。
「ケヴィン……これ」
 詰まるような声で言った。
「ご、ごめん!気に入らなかった!?」
 ケヴィンは慌てて弁解の姿勢に入った。
「そうじゃなくて、これかなり高かったでしょう?」
 実典はケヴィンを見つめた。
「そんなことないです」
「嘘、わかるのよ。これくらい。ケヴィン無理してない?」
 実典は心配そうな顔をして言った。年の若い小娘であれば渡された品物が高級なものであるかそうでないか見分けも付かないかもしれない。だが、今渡されたものが極端に高額なものであることくらい実典には易々とわかる。そしてそれを受け取ることの重さも良く知っていた。
「無理なんて、してません。いつもたくさんのことしてもらってるからこれくらいしたかったんです」
 ケヴィンはしどろもどろに言った。なぜか悪いことをしている気分だ。実典はそんなケヴィンを見ると優しく微笑んだ。
「ありがとうケヴィン、すごくがんばってくれたのね」
 目一杯の優しい笑顔がケヴィンの前で咲いた。その笑顔だけで頑張った甲斐があったと思う。ケヴィンは幸せな気分になった。にこにこと二人は見つめ合う。そしてそのまま数分が過ぎた。
「さてと、こんなにすごいプレゼントだったら、その腕時計じゃつりあわないよね、今からプレゼントもう一個買いに行こうか。何か欲しいものある?」
「じゃあひとつだけおねだりしていいですか!?」
 ケヴィンは目を大きく輝かせて実典に詰め寄った。肩を掴み距離を縮める。顔が近づきその距離は数センチしかない。ケヴィンの金の瞳が実典を捉え、妖艶に実典を見る。ケヴィンの浅い呼吸が肌にかかった。これにはさすがの実典も鼓動が早くなる。
「い、いいよ!なんでも言ってごらん!」
 実典は平静を装って意気揚々と答えた。
「本当にいいんですか?」
「うん!何でもいいよ」
 ケヴィンは息を一杯に吸い込み、喜びに満ちた顔で笑った。
「セックスさせてください」
「……は?」
 実典の声が急激に低くなり、目は一瞬で暗くなった。ケヴィンは返事も聞かず実典の肩をゆっくりと押し、優しく布団に組み敷いた。そして腕一つで自身の体を支えて上から実典を見つめる。
「ダメダメダメ!!」
 実典は我に変えると激しく拒絶した。焦りで声が裏返る。
「どうしてだめなんですか?」
 ケヴィンはうっとりした顔で実典の髪を撫でた。
「いやダメだって!一年待てって言ったやん!」
 実典はケヴィンの胸を押した。力を込めてもたくましい体はびくともしない。
(力強え……)
実典は絶句した。
「一回だけでいいんです。一回だけ」
「一回じゃすまねえって!癖になるから絶対!」
 強い口調で反論する実典。ケヴィンは自身のネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。するりと着衣が解け白い肌が露になる。
「ギャーーー!」
 目の前で露になる男の裸に実典は叫んだ。男の生の裸なんて久しく見ていない。そのせいで過剰反応してしまった。このままだと本気でまずい。この家にはエドワードもウィリアムもいる。いや、今は外出しているがいずれ帰ってくる。故にとてもその気にはなれない。だが本気でケヴィンに抵抗すると指輪の守りが発動してケヴィンを傷つけてしまう。上手く自分の感情をコントロールし、ケヴィンを受け入れつつ場を収めなければならない。なんてハードモードだ。大体なんでこいつはいつもこんなに恋愛脳なんだ。実典はそんなことを考えながら必死で策を巡らせた。心臓がバクバクと鳴る。同時に頭が混乱する。
「ミノリ、愛してる」
 ケヴィンは実典に顔を近づけた。同時にちらりと、指輪を確認する。反応していない。ということは迫られている実典の気持ちはそういうことだ。ケヴィンは喜び自信が湧いてきた。
「待て待て待て!ちょっと待て!」
 実典は自分の意思に反して必死で叫んだ。
「もう、何なんですか。さっきから。何でそんなに嫌がるんですか?せっかっくのムードが台無しじゃないですか」
 あまりにも色気のない抵抗に対してケヴィンは拗ねたように言う。だが、実典の上から一切退こうとはしない。
「僕のこと、愛してないんですか?」
 そして目を細めて実典を見る。
「そうじゃない!そうじゃない!愛してる!愛してる!」
 取り繕ったような言い方だ。
「じゃあ何で嫌がるんですか?」
「ほら、妊娠とかあるからさ。責任取れないし私」
 実典は極めて冷静に至極、当たり前のことを言った。
「ああ、そんなことですか。それなら、安心してください。ちゃんと用意しておきましたから」
 ケヴィンは脱いだジャケットを手繰り寄せると、懐のポケットから箱を取り出した。
「出すな出すな出すな!見せるな見せるな見せるな!」
 実典は表情を変えて必死にケヴィンを制止する。
「え?いらなかったですか……?」
 ケヴィンは不思議そうに実典を見た。そしてしばらく思考を逡巡させ実典の言葉の意図を探った。
「もーー、そうじゃなくて」
 さっきから全くといっていいほど話が噛み合わない。実典は頭に手をやるとしばし心を落ち着かせた。
「この家にはエドワードもうーちゃんもいる。そういう気にはなれない」
 実典は低く真面目な声で言う。ケヴィンは実典を見つめるとその上から退いて起き上がった。実典から離れシャツのボタンを留めなおしその上からジャケットを羽織る。
「あ、諦めてくれた……?」
 実典はほっと息をついた。体を起こして伸びをする。
「いいえ、ラブホに行きましょう。そこなら二人になれるし。僕お酒飲んでないから運転しますよ」
 ケヴィンは笑って言った。
「いや!行かないよ!大体どこでそんな言葉と公共サービスの使い方を覚えたんだ!私は教えてねーよ!!」
 先ほどからケヴィンは全く引き下がろうとしない。かなり強情だ。実典の額に汗が浮かぶ。このままだと本当に流れに飲まれて一夜を過ごしてしまう。それだけは避けなければいけない。
「そんなに行きたくないんですか?」
「そもそも今日はクリスマスイブだからどこのホテルも満室だよ!行ったところで無駄足だ!忘れたか?今日は性夜だぞ」
「……うーんそれじゃあ仕方ないか」
 ケヴィンはがっくりとうな垂れた。ようやく折れてくれたようだ。実典は心の底から安堵した。あと少しで流されて一線を越えてしまうところだった。数分のことなのに何時間も問答していた気がする。思わず全身から力が抜けた。
「はー、生殺しじゃないですか」
 ケヴィンは布団の上で胡坐をかくと遠くを見つめ切なげに言った。愛し合うにも条件がそろわなければいけない。ケヴィンは男女交際の難しさを思い知った。
「ごめん、ごめんな。男性のそういう欲求みたいなのは良く分かるけどさ。ダメなんだよ。もっとお互いを良く知ってからじゃないと。私も年だしもう次がないから遊んでる暇はないんだ」
「……ミノリさんはガードが固いんですね」
 ケヴィンは寂しそうに言った。
「そういうことよ」
 実典ははにかむと立ち上がった。
「待って」
「な、何?」
 ケヴィンは退こうとする実典の腕を掴んだ。その目は納得していない。
「変わりに添い寝してよ、あのときみたいにさ」
 ケヴィンは恨めしげに実典を見つめた。
「だ…大丈夫?」
 実典は引きつった笑みで問う。
「無理かもしれない」
「じゃあだめ」
「くそっ、諦めきれないよ。今、目の前にチャンスがあるのに」
 実典の腕を握る手に力がこもった。実典はその様子をしばらく見て一息ついた後、その場に座りケヴィンと向かい合った。
「ケヴィンはさ……私の何が好きなの?」
 静かな声で問う。
「えっ……」
「ほら、私って美人でもないしさ。性格も女らしくないし君の前でオシャレもしてない。ケヴィンが一緒にいた女の子の方がずっと可愛らしくて良い子じゃない?」
 純粋な疑問だった。ケヴィンがここまで駄々を捏ねるほどの価値は自分にはないはずだ。そのことをケヴィンは分かっているのだろうか。
「いやその……」
 ケヴィンは戸惑った。考えてみれば良く分からなかった。
「最初は可愛いからだと思ってんだけど……」
 実際、他の女と歩いてみればそういうわけでもなかった。可愛い子も美人な子もありふれている。自分が何故これほどまでにこの女に執着しているのか分からなかった。それほどの価値はないと考えつつもいざ手離そうとするとその手を離せない。実典は優しい表情でケヴィンの返事を確認すると、立ち上がって電気を消し、扉に鍵をかけて布団にもぐりこんだ。
「え!していいんですか?」
 ケヴィンは実典の行動を斜め上の方向で捉える。
「いやしないよ」
 即答された。
「添い寝してあげるからさ。ほら、入りなよ」
 猫を布団に入れるような感覚で布団を持ち上げた。
「じゃあ、寝ている隙に……」
「そしたらこれが反応するから」
 実典は笑顔で中指の指輪を掲げた。ケヴィンの脳裏に鎖によってねじ切られそうになった自分の腕がよぎる。恐怖で顔が引き攣った。
「嫌ならいいよ。ケヴィンは私のベッドで寝てきなよ。私はもうここで寝るから」
 実典は目を閉じすうっと眠りに入っていった。
「寝ます!一緒に寝ます」
 ケヴィンは布団を捲って実典の隣に寝転がった。布団が狭い。ケヴィンは実典の体を自分に引き寄せた。力の加減ができていないせいで実典はそれなりに苦しかった。
(まあ、たまにはいいよな。いちゃいちゃしてやるのも)
 実典はケヴィンの胸の中でほくそ笑んだ。ケヴィンの熱い体温が伝わる。お互いの感触を肌で感じ、体温を共有する。ケヴィンは野良犬のような獣臭さがあったが嫌いではなかった。胸の鼓動が激しく高鳴るがこれは恋とは程遠い緊張感によるものだろう。
 恐らくケヴィンは今、恋愛の高揚感を楽しんでいる。せっかく新しい人生を生きているのだ。恋愛くらい楽しませてやりたい。更に言えば、ケヴィンが恋で頭が支配されている瞬間だけその目から狂気がなくなっていた。目には光が宿り生気に満ちている。あの邪悪さも狂気もなくなって輝きを取り戻している。初めて会ったときの生気のなさは異常だった。ケヴィンは今、完全に依存している。好きにさせておけばすぐ飽きるとおもっていたが実際は実典への依存心が日増しに強まっていた。形のない狂気が恋愛という形を持っただけでかなり良くない兆候だ。だが実典にはそれを打開する策を持ち合わせていなかった。ならば自分の身を犠牲にしてケヴィンの期待にこたえてやればいい。一緒にいて嫌ではない相手。ケヴィンもその一人だ。

 眠気が鉛のように体を支配し始める。泥のような眠りの中で実典はこれから起こる未来を考えた。ケヴィンと迎える幸せに包まれた冬の朝を。