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【殺人鬼と三角関係】第3話 汚い野良犬が懐いてくる

エドワードが家にやってきてから一週間ほどが過ぎた。エドワードはよくやってくれている。率先して身の手伝いをしよく働きよく気遣う。実典の心象も初対面の頃より随分と改善されてマイナスから始まっていた関係性は漸くプラスへと変わりつつあった。そんな時実典の携帯に天国からの電話が入ったのだ。明日の午後一時に近くの公園で待ち合わせようという内容だった。実典はいつものようにエドワードと食事を取りながらそのことを話した。

 「明日、定期的に行う経過観察で鈴木さんと会うんです」
「そうか」
 エドワードは新聞に目を通しながら返答した。
「実は俺も明日から二日間家を開ける。仕事に就く前に検査と試験を天国で受けるんだ」
「そうなんですか」
 実典は齧ったパンを飲み込む。
「が、頑張って…ね」
「ああ、ありがとう」
 エドワードは優しく微笑んだ。エドワードがここまで歩み寄ろうとしているのだ。自分も頑張らねばと実典は思った。
「ちゃんと戸締りをして夜は気をつけるんだぞ、女一人は危険だからな」
「そんな大丈夫ですよ、心配しないでください」
 実典は苦笑した。エドワードはこういう古めかしいところがある。そして二人はその日、翌日に必要な書類をまとめ準備をしてからそれぞれ就寝した。穏やかに続く日常のちょっとした変化だ。何故だか胸が高鳴った。

 

*


 一夜が明け約束の日、エドワードは身なりを整え家を出た。
「行ってくる」
「頑張ってくださいね」
「ああ」
 実典はエドワードの後ろ姿を見送ると、外出の準備をした。ふと、天国とはどうやって行くのだろうと疑問に思ったが深くは考えないことにした。
 エドワードを見送ると実典も身なりを整え家を出た。待ち合わせ場所である最寄りの公園まで歩くと鈴木がすでに実典を待っていた。公園は狭くひどく寂れていた。遊具は錆びてボロボロになり、数年前まであった籠型のブランコも撤去されていた。
 寂れた公園で鈴木はブランコに座って静かに揺れていた。こちらに気付くと作られた笑顔で手を振った。
「こんにちは!どうですか?なれましたか?殺人鬼との生活は」
「はい、だいぶ慣れました」
「それはよかった」
 鈴木は笑うとブランコから立ち上がった。
「エドワードさんはいい人ですよ。家事も率先して手伝ってくれるし私にも優しいです。目つきは怖いけど」
 実典は浮かれるように言った。
「そうですか、今日から二日間、エドワードさんは就労検査と研修です」
「久々に一人でゆっくりできますね」
「一人?誰がそう決めましたか?」

 鈴木は表情を変えないまま問い返す。
「えっ?」
「今日からもう一人殺人鬼を受け入れていただきます」
 実典の背筋に冷たいものが走った。恐る恐る鈴木が指を指す方向を見た。大きめの木々が植えられておりそこに黒い人影が隠れていた。遠目からでもそれはすぐわかった。エドワードと同じく長身だったからだ。ただし体つきはエドワードより華奢だった。すらりとした長身に程よい筋肉質。頭から黒いマスクを被り、体はゴミ袋を引きちぎったものを何重にも重ねている。ズボンはボロボロで半ズボンになっていた。靴は履いておらず雑巾のようなボロボロの布を裸足に巻いていた。体は泥と砂で汚れ肌の色は褐色になっている。獣と枯葉が混じったような野生の匂いがした。完全にホームレスだ。そしてそれは大きな身を必死にかがめて木の裏に隠れ臆病な目でこちらを観察していた。
「あれは?」
「ケヴィン君です。さあケヴィン君、実典さんにご挨拶を」
 名前を呼ばれた青年は恐る恐る木から離れ実典に近づいた。ケヴィンは実典を見つめると小さい声で呟いた。
「ケヴィンと言います……よろしくお願いします。ご主人様……」
 マスクから覗く目は虚ろだった。瞳には輝きがなくぽっかりと穴の空いたような空虚な目が印象的だった。エドワードと違い意思や強さと言ったものが全く感じられない目。
 実典は絶句していた。目の前に立つのは薄汚い野良犬のような大男。唯一伺える目は浮浪者にように意思が感じられない。異質な外見、異様な風貌、早くこいつを家に押し込めなければ。完全に近所から不審がられる。最悪な第一印象だった。自分の名を名乗ることすら忘れて完全に目が点になっていた。
 実典はすぐさまケヴィンと鈴木を連れて一度家に戻った。そしてすぐに風呂を沸かし早急にケヴィンに体を洗うように命じた。
「わ!すごく綺麗な家ですね、お風呂も広い……」
「タオルと衣類はここに置いておきますから…今着ていらっしゃるゴミ袋やマスクは捨てていいですか?」
「あ、はい大丈夫です」
「では、ごゆっくり。終わりましたら服を処分しますので声をかけて下さい」
 実典は早口でそう言うとぱたりと脱衣所の扉を閉めた。
 泥で汚れた玄関が視界に入る。実典は嫌悪感でため息をついた。掃除は嫌いだ。そして玄関をなるべく汚れた玄関を見ないようにしながらリビングに向かった。
「いかがです?新しい殺人鬼は。実典さんが気に入りそうな子を選んだんですけど」
 テーブルについていた鈴木はくすりと笑った。
「ふざけないで下さい。私は殺人鬼コレクターじゃないんですよ」
 実典はむっとして言い返した。
 そうしているとリビングの扉が開きケヴィンが入って着た。
「お風呂ありがとうございました」
 相変わらず身なりはボロボロで服も汚いままだ。
「ケヴィンくん、お風呂はちゃんと入りましたか?」
「はい、お湯が勿体無いのででタオルを濡らしてそれで体を拭いました」
 実典は表情を変えず、無表情のまま鈴木に向き直った。
「すみません、少し手荒になってしまいますがよろしいですか?」
「いいですよ」
 鈴木は笑顔のまま頷いた。
「ケヴィンくんもう一度こちらへ」
「はい?」
 実典はケヴィンの手を握り風呂場へ引っ張って行った。
 脱衣所に入り鍵を閉めるとケヴィンを風呂場に押し込め見に纏っていたものを引っぺがした。
「きゃーーーーー!変態!!」
 ケヴィンは慌てて身を縮めて体を隠した。実典は構いもせずケヴィンのマスクもゴミ袋も引っぺがし、袋に突っ込んだ。カランを回して熱いお湯を最大まで流し思いっきりケヴィンの頭からかける。
「いやーーー!濡れる!濡れる!やめて下さい、恥ずかしいです」
 ケヴィンは頭を隠して叫んだ。
「静かになさい!じっとしていればすぐに終わります!暴れるともっと時間がかかりますよ!」
「ううっ……」
 ケヴィンは無言でじっと耐えた。実典は自分が使用している女性用シャンプーをケヴィンの髪につけてもしゃもしゃと泡だてた。あらかた汚れが落ちるとシャワーで洗い流す。そしてスポンジに石鹸をいれて泡立てるとケヴィンの体をゴシゴシと擦った。
「……」
 ケヴィンは顔を真っ赤にしたままひたすら耐えていた。無論、実典も好きでやってるわけではない。だがこの世間知らずを家に置くのであれば最低限これくらいしないと無理だ。あいにくエドワードとの共同生活で多少のことでは動じなくなった。自分でもかなり成長したと思う。
 他者の体を洗う嫌悪感に耐えながらケヴィンの体をゴシゴシと洗った。性的対象にもならない年下だから良かった。年上の男は生理的に無理だ。こいつも30近い女に体を洗われたところで興奮などしないだろう。
 実典は桶で風呂の湯を救いケヴィンの頭から勢いよくかけた。ケヴィンはひたすら目を瞑って耐えていた。泡があらかた落ちきるとケヴィンを立ち上がらせ風呂の中に押し入れた。勢いよく飛沫が上がる。実典の服はびしょびしょだ。
「お湯に肩まで浸かって100秒数えること!そうでなければ湯から上がることは許しません!それがあなたがこの家にいる条件です!いいですね!」
 実典はぴしゃっとケヴィンに向かって言いつけた。
「わかりました!」
 ケヴィンはお湯に浸かったまま威勢の良い返事で返答した。浴室から出た時実典はぐったりと疲れていた。何が楽しくて成人男性の体を洗ってやらないといけないんだ。しかも見たくないものまで見せつけられた。ふらふらと二階に上がり服を着替えて鈴木の元へ向かった。
「ご苦労様です。実典さん」
「私、間違えましたかね。男の人の体を乱暴に洗うなんて」
「いいえ、ケヴィンくんに対してはいい行動です。彼はあんなですから」
 鈴木は整った顔に素直な笑顔を描いて言った。
「エドワードさんにもそろそろ慣れたようですし、そろそろ新しい殺人鬼の面倒も見てもらいたくてお連れしました」
「一人じゃなかったんですね」
 実典は思い出す。そう言えば鈴木は殺人鬼のことを"彼ら"と言っていた。
「ケヴィンくんの魂も浄化し刑に服しましたが魂はかなり劣化してしまっているのです。彼に正しい人としての姿を思い出させてあげて下さい」
「一人も二人も変わりませんよ」
 実典は力なく笑った。納得したのではない。諦めているだけだ。
 そうこう話していると、男性特有の重い足音を立てて扉が開かれた。
「ご主人様、お風呂上がりました」
 爽やかな声とともにその青年は現れた。その姿を見て実典は再び絶句した。
 首元くらいまで伸びたプラチナブロンド、瞳は空虚で虚ろだが金色に染められ美しい透明感を持ち、その顔立ちは美しく整っていた。肌は白く一見女性と見まごうほどの綺麗な顔立ちだった。身長は2メートルほどあったが筋肉質でありながらすらりとしている。服はエドワードの着ていた白いシャツと短パンを履いていた。シンプルを超えて簡素過ぎるほどのファッションだが異様な美しさを放っている。
 誰だ、こいつは。実典は頭の中で問いかけた。震える目で鈴木に向き直る。
「だからケヴィンくんです」
 鈴木は実典の心を読んだかのように答えた。
「今度は完璧でしょう?ご主人様が洗ってくれたから、ほら!髪がサラサラですよ!まるでご主人様の髪みたい!ありがとうございます!ご主人様!」
 実典は顔を真っ赤にして俯いた。
「実典さん、恥ずかしがっているところ悪いですが、ケヴィンくんを外に連れて行ってあげて下さい」
 鈴木は俯いた実典を覗きこんで言った。

「わ、わかりました……」

 実典はフラフラと立ち上がり、リビングを出た。

「あ、あれ」

 玄関を見ると先ほどまで汚れていた玄関が綺麗に掃除されていた。思わず目を疑う。

「あ、さっき僕が掃除しておきました」

「ありがとう」

 気が利くな、と実典は思う。そしてそのまま身支度をするとケヴィンを連れて外へと出かけた。

 

*

 今回は電車乗って遠出しようと考えた。というよりも鈴木にそうしろと命令されたのだ。ケヴィンはエドワードと違い勉強家ではなかった。社会常識のことなど全く知らないし読み書きもほとんどできない。会話だけは辛うじてできる。
「ケヴィンくん、靴はいかがですか?」
「はい、履くものがあるだけでうれしいです」
 いや、サイズは合っているかどうかが聞きたかったが言いかけてやめた。ケヴィンは靴を持っていないためエドワードのために買ったサンダルを貸した。サイズが少し大きいように見えたがケヴィンは満足気だった。
 切符売り場で二人分の切符を購入しケヴィンに渡す。
「これを改札に入れると入れるようになるから。駅から出るときも必要だから無くさないでね」
「はい、分かりました」
 改札を通る実典を真似してエドワードも改札を通った。しかし何を手違えたのか切符を取る際にもたつき勢いよく改札が閉まってしまった。
「うわああ!」
 ケヴィンは突然しまる改札に驚いて慌てていた。
「何やってるんですか。ケヴィンくん」
 ケヴィンは駅員の力を借りて何とか改札から脱出した。騒ぎを起こしたせいか悪目立ちしてしまった。周囲の客が一斉に自分たちを見ている。モデルと見まごうケヴィンを皆熱い瞳で見つめていた。そして同時に、実典のことも。その視線が酷く不快だった。実典は目立つのが好きではない。
「ケヴィンくん、行きましょう」
「どうかしましたか、僕、何か悪いことでも……」
 早足で歩く実典。ケヴィンは虚ろな目で実典の背中を見つめた。
「誤解されてるんですよ。私とあなたを国際結婚したカップルとでも思ってるんですよ」
 実典は小さく付け加えた。
「えっ、僕たちがカップル!」
 ケヴィンは虚ろな目を初めて輝かせた。
「あなたが美形だからみんなが期待するんですよ。私とあなたがカップルだったら自分にも可能性があるかもって、人は信じたいことを都合のいいように解釈するから」
「そんな!カップルだなんて僕照れちゃいます」
 ケヴィンは聞いていなかった。実典は内心呆れつつホームに来た電車に乗り込んだ。

 電車を降り、駅から出るとすぐに大型のデパートに着いた。周囲の客はずっとジロジロと自分たちを見ていた。エドワードとは明らかに違う好奇の目。その目は一様に期待を帯び、熱を持っていた。美しく妖艶な殺人鬼に視線が注がれる。実に滑稽だ。
 実典はケヴィンを外国人向けのメンズショップに連れて行った。前に行った店とは違いオシャレなブランドで埋め尽くされていた。
「私は待ってますからケヴィンくんが好きなのを選んで下さい」
「ええっ!一緒に選びましょうよ」
 ケヴィンは首を傾げ虚無の瞳で実典を見た。実典は目をそらす。この目を見ているとおかしな気分になるからだ。自分が自分で無くなってしまいそうな、気味の悪い感情。ケヴィンの中に秘められた狂気が伝染し始めていた。
「分かりました」
 実典はケヴィンの先を歩き店内をざっと見回した。サイズはなんとなく把握している。一度エドワードと買い物に来て良かった。
「これなんていかがですか?」
 実典は服を一式取りケヴィンに渡した。
「試着して見ましょう」
 実典は店員に声をかけてからケヴィンを試着室まで誘導した。
「ご主人様も一緒に…」
「ふざけないで下さい!」
 実典はぴしゃりと言うとカーテンを閉じた。
 どんなに見た目が美しくても初対面の男だ。慣れるわけがない。よく知りもしない男の裸など見ても嬉しくはないし、鈴木は実典が気にいると言っていたが殺人鬼を好きになるはずがない。
 実典は椅子に座り溜息をついた。気疲れだった。目立ちすぎていることにも疲れるしあらぬ誤解を受けるのも不服だ。ようやくエドワードに慣れて来たところで今度は世話のかかる猛獣を面倒見ろと言う。人使いが荒いにもほどがある。
「ご主人様、どうでしょう」
 カーテンが開きケヴィンが実典に寄って来た。

 だいたいなんでこいつはこんなに懐いてくるんだ。実典は不思議に思った。そしてその瞬間、実典は異様な気配を感じ取った。周囲を見渡すと客が集まり実典とケヴィンを見ていた。一瞬バカなケヴィンが服とズボンを間違えたのかと思ったが違った。ケヴィンは実典が選んだ美しい紳士服を身に纏いロングコートを羽織っていた。それはスクリーンの中だけで見ることができる外国人モデルそのものだった。煌めくプラチナブロンドをなびかせ異界の美しさを奏でていた。
「まずい」
 実典は無意識に呟く。その瞬間ケヴィンの虚ろな目は更に暗くなった。
「似合いませんでしたか…」
 暗い声で落ち込むケヴィン。がっくりと肩を落とし項垂れている。その様子にさらに実典は焦った。ケヴィンを傷つけてしまった。速やかにフォローしなければ。
「いや、そういう意味じゃない。好きだよケヴィン」
「えっ」
 ケヴィンの目が輝いた。実典はその瞬間、大きな間違いを犯したことに気づく。言い方を完全に誤ってしまった。焦っていたせいで色々と省略しすぎた。最悪だ。
 周囲の目線は次第に強くなった。普遍的な日本人女性と異界の美しさを持つ長身の外国人男性。その組み合わせに彼らは夢を見ている。このままでは外堀を埋められてしまう。
「この服と靴、おいくらですか。このまま着せて帰ります」
「5万4300円です」
(高えなおい)
 実典は心の中で呟いた。
「一回払いで」
 実典はクレジットカードで支払いを済ませるとケヴィンの腕を引っ張って速やかに退店した。

 

*

 実典とケヴィンは駅から少し離れたステーキ屋に入り、奥の人目につかない席へ陣取った。席は個室制でカーテンで仕切られていた。運が良かったと実典は胸をなでおろす。
「ステーキ……食べていいんですか?」
「え、あ。いいよ。好きなのを頼んで」
 この数日の間に一体いくらの金を使ったのだろうか。金が湯水のごとく流れていく気がする。
「僕たちがカップルなんて、ふふ」
 ケヴィンは気持ち悪い笑みを浮かべた。
「そんなに嬉しいんですか」
 実典は特に興味もなさそうに携帯をいじっていた。実典は基本、年下の男に興味はなかった。30間近の女と20代前半の青年。どう考えても自分が相手にされないのはわかっていたし若い男は心変わりが早い。最初から期待を持つだけ無意味なのだ。実典は長い人生においてそれをよく理解している。
「嬉しいですよ。ホームステイ先が決まったときも嬉しかったんですよ。お相手は若い女性だって聞いていたから」
 ケヴィンは照れたように続ける。
「実際会って見たらこんなに綺麗な女性で、しかも優しくて僕のことを気遣ってくれて、ご主人様とカップルだと思われるなら本望です」
 携帯を操作していた実典の指が止まる。
「僕、今まで生きることなんてどうでもいいと思ってたけど、これを機に変われるような気がします」
「……綺麗っていうけど」
 実典はぽつりと呟いた。
「どうみても私より君の方が美しいじゃない。見え透いた嘘つかないでよ」
 声は感情を抑えているが微小な怒りを含んでいた。
「ご主人様は美しいですよ」
「どこがですか?」
 実典は輝きのない目でケヴィンを見据えた。
「黒くて長い黒髪のストレートヘア、すごく綺麗です。肌もつやつやですし黒い瞳も!年齢だって僕と変わらないでしょう?僕たち気が合いますよ」
「……」
 本気で言っているのか?と実典は思案した。外国人の感性はよく理解できない。これ以上この件に関して話したところで平行線だろう。
「じゃあもし私が結婚できなかったらケヴィンくんが私と結婚してください」
 実典は嫌味で言った。ケヴィンは虚ろな目を輝かせた。
「僕で良かったら是非結婚しましょう!」
 実典は立ち上がりカーテンをめくる。
「私はお手洗い行ってきますから大人しく待ってるんですよ」
「はい!」
 実典が立ち去るのを見送るとケヴィンは呟いた。
「母さん…僕、はじめて彼女ができたよ……!」
 そのつぶやきは実典に届くこともなく、空間に溶け込んで消えた。

 

*


 実典がテーブルに戻るとすでにステーキができていた。
「うわ、ケヴィンくん……」
 ケヴィンは今まさに手づかみでステーキを食べようとしているところだった。実典はケヴィンを制止するとフォークとナイフを彼にもたせた。
「いきなりできなくても構いません。少しづつ一緒に覚えていきましょう、食べ物を食べるときはこうするんです」
 ケヴィンは実典の食べ方を真似した。その動作はぎこちなくカキカキと食器の耳障りな金属音が響いた。
「うまくできなくてごめんなさい」
「大丈夫、私は気にしませんから。一緒に練習していきましょう」
「ご主人様は優しいんですね」
「私は優しいですよ。あと私のことも名前で呼んでください。危ない人だと思われますから」
「はい、分かりました。ミノリ」
 ケヴィンにじっと見つめられ実典は少し照れた。野良犬の面倒を見ている気分だが嫌な気はしなかった。鈴木が言った気にいるというのはこのことだったのかもしれない。

 

*

 2日が経ち、エドワードが天国から帰宅するとそこには見知らぬ男がいた。
「誰だお前は」
 プラチナブロンドをなびかせたエドワードと同じくらいの身長を持った男。エドワードは外見の美醜よりも頭脳を優先する男だったため男の美貌には全く興味がなかったが、そこに実典が絡むとなると別だ。ケヴィンはエドワードを見るとその目に敵意を隠すことなく表し睨みつけている。
「お帰りなさい。エドワードさん。この方はケヴィンくん。新しい殺人鬼です」
「ミノリ、だれこの人」
「この人はエドワードさんといってケヴィンくんより先に来た殺人鬼です」
 実典は自分で説明しながら何を言っているんだ自分は、とバカバカしくなってきた。
「聞いてません」
「俺もだ」
 エドワードとケヴィンは睨み合っていた。まずい、実典は内心焦る。この二人は根本的に相性が悪い。実典は一瞬の間に多くのことを悟った。
「二人とも仲良くしてください。喧嘩をしたらこの家にはいられませんよ」
「……分かった」
 エドワードは身を引いた。それを見るとケヴィンも悪い人間だと思われたくなくて身を引いた。
「ごめんなさい、ミノリ」
 その言葉を聞いた瞬間、エドワードに目が一瞬だけ憎悪に染まった。その憎悪は一瞬のうちに消えたが実典はそれを見逃さなかった。たとえ人の姿をしていても殺人鬼には変わりない。たった数分でそれを思い知らされたのだった。