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【殺人鬼と三角関係】第7話 偽善者の決断

実典は目を細め覚悟を持ってそれを見た。予想されるのは歪んだ顔を持つ殺人鬼。体が捩れ顔が歪んだ醜い外見の殺人鬼だ。最後の殺人鬼は醜く人の姿をしていない。それは一応事前情報として与えられてはいる。だから覚悟はしていた。しかし実際対面するとなると緊張するものだ。

  不細工であるとか醜いとかそういった次元を超えて眼球が飛び出ていたり、顔が腐っているとかそういうアンデットな状態になっていれば見た瞬間のショックは想像に容易い。目の前の魂が実態を持ち、人としての形を形成し始めると実典はゆっくりと目を開きその外見を確認した。
 実典は心臓を落ち着けて第三の殺人鬼を見た。そしてほっと、胸を撫で下ろす。目の前に立つ少年は確かに垂れ目で顔の骨格が歪んでいた。たしかに人間の普通の外見とは程遠く醜い。体の骨格も捩れている部分が多かった。体は斜めに立ち、骨は一度折れて治療もせずに放置したのだろう。いびつに歪んだまま固定されてしまっている。体のところどころには釘のようなものが深く刺さっていた。確かに醜い。外に出れば人の目を引くだろう。だが一応、実典の許容範囲だ。その目には悪意が感じられず子犬のような怯えが見て取れた。身長はやはりエドワードやケヴィンのように巨大だったが見た目はまだ10代かそこらの子供だ。第一印象は子犬そのものだった。理性のない純心な獣。その印象が頭から離れない。
「私は典実っていうのよろしくね?あなたの名前は」
 実典は席から立って少年に近づくとやさしく微笑んで手を差し出し握手を求めた。
「う……あ…」
 その少年は実典を見ると震える腕で実典の手を握った。
「しゃべれないの?」
「うう……」
 少年は不安げな瞳で実典を見つめた。その目があまりにも悲しげで実典の胸が締め付けられるようだった。この目を実典は良く知っている。
「彼は舌の先を切られているんです」
 鈴木は言った。その顔に感情も乗せず淡々と。
「なんて酷いことを……」
 実典は察した。舌を切ったのは天使でも悪魔でもない。おそらく人間だろう。
「一応教育はしましたが人の言葉を理解しているのかどうかも分かりません。本当にいいのですか?」
「大丈夫です」
 実典は即答する。
「分かりました」
 鈴木は実典に近づくと実典の手を取り、左手の中指に指輪を嵌めた。指輪は銀で作られており表面と裏側にびっしりと文字のようなものが刻まれている。
「何ですかこれは?」
「えーーっとですね……今までずっと忘れてたんですけど」
 鈴木はばつの悪そうな顔をする。
「その、指輪を嵌めていれば彼らがあなたに害をなそうとしたときに守ってくれますから」
 鈴木は笑った。そう、笑ったのだ。
「え、守って……ていうことは今まで無防備だったってことですか……?」
 実典の顔は引き攣った。
「ま、まあ。でも。彼ら魂は浄化済みですし。あなたがきちんと正しく徳を積んでいれば彼らも悪いことはしませんよ。彼らにとってあなたがすべてですから」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「じゃあ彼のことよろしくお願いしますね」
 鈴木の体が透け始めた。
「ちょっとまって、この子の名前は!?」
 止めに入るが遅かった。鈴木は消えて天に帰ってしまった。
「はぁ、何よもう」
 エドワードは腕を組み壁にもたれかかっていた。
(忘れていただって?)
 眉を潜め、怪訝に顔を顰めた。
 エドワードは見逃さなかった。鈴木の涼しげな顔に潜められた算段を。鈴木はもとよりこの女の身の安全などどうでも良かったのだ。だとすると何故この期に及んでどうでもいい女の保護などかけたのか?エドワードの冷徹な頭脳が高速で回転し、優れた可能性を算出していた。
「名前はわかる?」
「み、ミノリ……」
 実典は少年の悲しげな目を一生懸命見上げ、言語による交流を図っていた。
「あなたの名前は?」
「うう……」
 少年は首を振った。
「じゃあ名前をつけましょうか……なにがいいかなー」
 実典は気楽に言った。ずいぶんとまあ根性が座ってきたものだ。エドワードは実典の様子を見ながら思った。はじめの頃は怯えが隠せないほどにひるんでいた。だが今は違う。実典は慣れきってしまっている。自分よりはるかに大きな男を目の前にし、次は薄汚れた汚いホームレスだ。そして今度は醜い怪物。割と我慢強いタイプなのかもしれない。
「エドワードさんなにがいいかなー」
 そんなことを考えていると実典がこちらを見て問いかけた。
「知るか、自分で考えたらどうだ?」
「えーーー、じゃあ」
 実典は少年を見た。少年は怯えたようにびくりと身を震わせる。
「うーちゃんにしましょう!」
「はぁ!何だそのネーミングセンスは!」
「呼びやすいからいいじゃないですか」
「ペットじゃないんだぞ!人間にそういう名前をつけるな!」
「いや、でも子犬っぽくて可愛いじゃないですか!」
 実典の目は本気だった。
「どけ!俺が考える!」
 エドワードはずかずかと会話に入り込み少年を見つめた。少年の目に警戒心が宿った。実典はそれを見て思う。何故殺人鬼同士はこうも仲が悪いのだろうか。
「ウィリアム、どうだ良い名前だろう」
「略してうーちゃんですね!よかったね!うーちゃん」
「略すな!」
 少年……ウィリアムは不安そうな目で実典を見つめた。
「ささ!うーちゃん部屋まで案内します!こちらへどーぞ!」
 実典はウィリアムの手をひっぱって二階へと連れて行った。
「まったく……」
 エドワードは実典を見送るとテーブルに着いた。そこに丁度よく玄関のドアが開く音が聞こえ足音を立てながら大男が入ってきた。
「お前、今帰ってきたのか」
 時刻は深夜一時だ。ケヴィンが疲れた顔で家に帰ってきたのだ。
「飲み会の後何をしていたんだ?俺はミノリのことが心配だったからすぐ家に戻ったが、お前は女と一緒に急にいなくなったようだな」
 エドワードは言った。
「ホテルに行ってました」
 ケヴィンは枯れた瞳で行った。
「そうか」
「でも何もしてません」
 ケヴィンは台所からコップを取り出すと水を注ぎ飲み干した。
「だが魅力的には感じたんだろう?」
「……」
「だからはっきりと言えないでいる。自分の考えが正しかったとお前は断言できないんだ」
「そんなこと……」
「お前の考えはただの欺瞞だ。自分を肯定するために言い訳を重ねているだけだ。お前は外の女を見て実際ミノリよりも綺麗だと思ったんだ。そしてその手に抱きたいと思った。その気持ちと実典に対する気持ちはどう違うんだ?」
 ケヴィンは何も言わなかった。疲れが体を支配していた。当たり前だ。都心から家まで歩いて帰ったのだ。電車の乗り方も分からないケヴィンはただひたすら歩いて家まで帰った。だが肉体的な疲れより精神的な疲れのほうが大きかった。あのまま財布の中の五千円に気付かなければ今頃ケヴィンはあの女性と夜を過ごしていただろう。
「少し距離を置いたらどうだ。そうすれば見えてくるものもあるだろう。このままミノリのそばにいればお前は自分を失う。そうなったら本当の恋もできなくなるぞ」
 こいつは今日に限って饒舌だ。疲れきった自分に容赦なく止めをさしてくる。今はただそっとしておいて欲しい。ケヴィンはただそう願った。

 



 翌朝、ケヴィンが目覚めてリビングに向かうと見知らぬ少年がいた。顔はひどく歪み垂れた目と小さな鼻が印象的だった。身長は自分より少し低い。新しい殺人鬼だろうか。見た目の異形さは自分も同じようなものなのでとくに何とも思わなかった。
「ケヴィンくんお帰りなさい。そしておはよう」
 実典はいつも通りの笑顔で話しかけた。ケヴィンは何となく後ろめたい気がして目を逸らした。そして挨拶もせずに席に座った。
 実典はふわふわのスクランブルエッグとボイルされたソーセージ、そしてレタスを乗せた皿をケヴィンの前に出した。
「ありがとう」
 ケヴィンは実典の目を見ずに言った。
「この子はね、うーちゃんって言うの。よろしくね!ってはいうーちゃんケヴィンくんにご挨拶」
 実典は席に座っていたウィリアムの後ろ側に回り込みその肩に両手を乗せて言った。きょとんとしているウィリアムの両手をひらひらと振る。
「よろしくお願いします…」
 ケヴィンは静かな声で言った。実典は思う。明らかに元気がない。何かあったのだろうか。おそらく一週間の職場体験のせいだろう。日本来て初めての労働なのだ。精神的に参ったとしても仕方がない。……それとも他に理由があるのだろうか?あったとしても実典にはどうしようもないことだ。
「ケヴィンくん。お疲れ様。何か食べたいものがあったら言ってね」
「別に……」
 ケヴィンはそっけなく言った。そして朝食を食べ終わると立ち上がりリビングを出ようとする。
「あ、まって」
 実典は階段を上ろうとするケヴィンを呼び止めた。ケヴィンのTシャツを軽く掴む。ケヴィンはめんどくさそうに実典を見る。
「疲れてるところ悪いんだけど今日は一緒にいてくれないかな」
 実典はひどく申し訳なさそうに言った。ケヴィンはそれを見下ろし怪訝な顔をした。
「どうして僕が?あの子と一緒にいればいいじゃないですか」
 自分でもなぜこんな冷たい言葉が出てくるのか分からなかった。実典は一瞬だけ悲しげな顔をしたような気がしたがすぐにいつも通りの表情に戻っていた。
「ごめん。私やっぱり初めて会う人は緊張してしまって…今日はエドワードさんも外出してるし…ケヴィンくんがいてくれると助かる」
 その言葉にケヴィンは失望する。なんだ、やっぱり自分のためか。
「どうして?僕だって人殺しなんですよ?」
 人殺し。それは自分の舌を切り裂くほどにケヴィンにとって忌々しい言葉だった。
「最初から受け入れなんてしなきゃいいじゃないですか。自分にできないことをどうしてするんです?」
「……ごめんなさい」
 実典はひどく申し訳なさそうに言った。その通りだと思った。ケヴィンを受け入れた時もそうだ。エドワードの気持ちなど考えていなかった。その結果、二人は険悪な関係になっている。他人から押し付けられたから自分は悪くない。そう思っていたのかもしれない。
「わかりましたよ。いればいいんでしょう?」
 ケヴィンは踵を返してリビングに戻った。醜い少年を横目にテーブルに着く。自分でもなぜこれほどポンポンと実典を傷つける言葉が出るのか分からなかった。本当はこんなことしたくないのに。
 実典は押入れから小学生用の国語の教科書を持ち出してリビングのテーブルに広げた。
「うーちゃんはまずひらがなの勉強からはじめましょうね」
「う、うう……」
 ウィリアムはじっと教科書を見つめていた。実典は彼の手に鉛筆を握らせた。勉強……。ケヴィンは冷めた目でその光景を見ていた。
「ケヴィンくんも一緒にしませんか?」
 実典は教科書を広げる。
「どうして僕が……」
「ごめんね、疲れてるから今日はやめておく?」
「いいえ、やります……」
 どうせやることがない。それに疲れてなどいない。すこし頭の中がモヤモヤするだけだ。ケヴィンとウィリアムの二人はもくもくと実典の説明のもと教科書の内容を進めていった。
「そうそうすごいうーちゃんは良くできる子だね」
 実典は褒める。ウィリアムは喜ぶ。そんな様子を横目で見ていると苛立ちが募った。
「もういいや」
 ケヴィンは教科書を閉じた。席を立った。
「えっとごめんね?私何かした」
「うるさいなあ、さっきから何なの?放っておいてよ」
「ごめん……」
 実典はそう言うとリビングに戻った。ケヴィンは無言で自室に向かった。布団を敷いて寝転がると、睡魔が襲ってきた。そしてそのまま眠りに身を任せた。

 



 エドワードが用事を終えて家に戻るとリビングには張り詰めた緊張感が残っていた。ウィリアムは実典の指導の下、読み書きの練習をしている。だが、何かが変だ。実典は今にも泣きそうな顔をしているし、あれほどまでに実典にべったりとしていたケヴィンがリビングにいない。
「おかえりなさい。エドワードさん」
 そう言って笑う実典の顔には元気がなかった。
「ああ、今帰った。ケヴィンは?」
「疲れて寝ちゃったみたいです」
「そうか……」
 エドワードは少し思考を巡らすと口を開いた。
「勉強か?」
「はい」
 ウィリアムは一生懸命、ノートにひらがなを書いていた。
「俺が見ようか」
 エドワードはウィリアムの隣に座った。
「エドワードさん、ありがとうございます」
「ケヴィンは少し悩んでいるだけだ。放っておけばいつもどおりに戻る」
「……」
 実典は黙り込んだ。目に涙を溜めて必死に感情の流出を堪えている。
「お前も少し休め、ずっと無理をしていただろ」
「あ……はい」
 ありがとう。と言おうとして喉がつっかえた。思わず泣きそうになってしまったからだ。この一ヶ月、様々なことがあった。色んなことを乗り越え、色々な変化に耐えた。今まで堪えてきたものが一気にあふれそうになった。
「ごめんなさい」
 実典はリビングから出ると自室に向かった。
「ミノリ?」
 ウィリアムはつぶやく。
「ミノリは少し疲れているだけだ。心配することはない」
 ウィリアムは頷くと、筆記の練習を続けた。