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【殺人鬼と三角関係】第8話 殺人鬼とワルツを

 平日の昼下がり、家長である実典みのりが買い物から帰ってきた。ひどく機嫌が良い様子で足取り軽くキッチンに向かうとビニール袋に収められた食品を冷蔵庫に入れていく。リビングで勉強をしていた殺人鬼、ケヴィンとウィリアムもる実典みのりの楽しそうな様子を見ているとつられて嬉しくなる。

 「ミノリさん。嬉しそうですね。何かありましたか?」
 プラチナブロンドの美しい殺人鬼、ケヴィンが問う。実典はケヴィンに振り返るとにこりと笑った。
「うん、日曜日デートの約束をしたの!」
「デーーート!!?」
 ケヴィンの声が裏返った。そしてその日の夕方、実典家の家族会議が始まった。
「エドワードさん、聞いてますか?ミノリさんデートするんですって!」
 エドワードが仕事から帰ってくるとケヴィンは急いでエドワードにの元へ赴き開口一番そう言った。
「なんだと」
 エドワードの眉間が険しくなる。
「相手はどこの馬の骨だ」エドワードは間髪入れず問い返した。
「小学生時代の同級生です。買い物帰りに偶然会って話が弾んだとか」
 エドワードはずかずかとリビングに入り実典を探した。
「ミノリ、そいつと行くのはダメだ!」
 そしてリビングの入り怒鳴るエドワード。
 実典はきょとんとしていた。エドワードの鬼気迫る様子に同じく食事をしていたウィリアムも状況がつかめずキョロキョロとしていた。
「どうしたんですか?」
「男とデートに行くのはダメだ!」
 エドワードは続ける。実典は何も言わなかった。その光景を見ていたウィリアムは思う。デートってなんだ?
「どうして?」
「男は危険だ。狼だ。お前を良いように扱って無碍にする」
「そうですよ!僕も反対です!デートだなんて破廉恥です!だいたいミノリさんは僕と結婚するんじゃないんですか!?」
 実典は思わず口に含んだお茶を吐き出しそうになった。肺に水が入りゲホゲホと咳き込む。こいつあの時にいった冗談を本気にしていたのか。ゲホゲホと咽びながら実典は思った。ウィリアムは心配そうに実典の背中をさすった。
「ダイジョウブ?」
 垂れた目が不安をたたえていた。
「だ、大丈夫。ありがとう優しいんだね…げほ」
 大丈夫と言ったがその様子は明らかに大丈夫ではなかった。
「デートって言ってもちょっと二人で映画をみるだけよ。破廉恥とかなんで思うんだよ」
 実典は呼吸を落ち着けると枯れた声で言った。
「映画はダメだ!」
 エドワードは吠える。
「そうですダメです!」
 ケヴィンも肯定した。
「映画は暗いから痴漢が多いんだ!どさくさに紛れて触ってくるに違いない!」
「そうなんですか!じゃあ尚更ダメです!」
「どうせ見せられるのは最近流行りのポルノ映画だ!そんなものは健全じゃない!」
「むしろ僕と行きましょう!そんな男と行く必要ないじゃないですか!」
 二人とも言っていることが滅茶苦茶だ。実典は口を拭いながら呆れた。
「私が誰と何をしようが勝手でしょう?なんで食ってかかるんですか」
「お前が心配だからだ。お前が勝手でも俺は認めん!お前のためを思って言ってるんだ!デートなんてやめとけ!」
「その通りです!デートなんてしちゃいけません!」
 二人は声を揃えて反対した。耳元で騒ぐ二人に対し実典の腕が震える。白い指が苛立しげにコツコツとテーブルを叩いた。温厚な実典もさすがにイライラしてきた。
「若い女が男と歩く?そんなのダメだ!」
「きっと襲われちゃいます!」
「こいつみたいな顔だけの男に遊ばれて捨てられるぞ!」
「エドワードさんみたいな狡猾な男性に弄ばれて傷つく姿を僕は見たくない!」
 ギャーギャーと騒ぐ大男二人。ついに実典がキレた。
「うるっせえよ!!てめえら!!黙れ!!」
 実典の一喝がリビングにこだました。実典はテーブルを蹴り上げ立ち上がった。ガガン!という暴力的な音が場を支配する。二人は沈黙し部屋は一瞬で静かになる。
「てめえら何様のつもりだ?ああ?言っとくがな!私が誰と歩こうが私の自由だ!!私は大人だ!!勉強しろだの、仕事しろだの、男と遊ぶなだの私に指図をするな!!私はしたいときに好きなことをやる!ゲームもやるしアニメも見る!男と遊ぶし酒だって飲む!私の行動は私が決める!この家の家長は私だ!!私の行動に対して金輪際文句をつけるな!!大体お前はなんだ!!?私の親父か!!?違うだろ!?お前らは居候だろ!!?ああ?なにか文句あるか!?なあエドワード!!」
 実典はテーブルを叩きつけ盛大にキレた。静観していたウィリアムがおろおろと狼狽する。二人は返す言葉もなく実典の気迫に迫られ沈黙した。エドワードは瞳から反抗心も感情も消え、虚無の状態になっていた。
「寝る!」
 実典はそう呟くと片付けもせずに寝室に行ってしまった。
「エドワードさん、ダメでしたね」
 ケヴィンはそそくさとテーブルを片付けながら呟いた。エドワードは沈黙したまま動かなかった。
「居候……」
 穴から吹く隙間風のようなイントネーションでエドワードは呟いた。ケヴィンは老人のように無力になった大男の姿を不思議そうに見、決意を固めた。

 



 そして迎えくる日曜日。実典はこれ以上なくお洒落な服装で家を出た。高級そうなピンクの鞄。ブラウンのワンピースに紺のジャケットを羽織りコートを着る。髪はブローされ黒髪が艶やかに光っていた。ストレートの髪はサラサラだ。実典が振り向くと艶やかになびいた。化粧もいつもと違ってシンプルながらも丁寧だった。地味だった実典の顔に大きく花が咲いている。とても美しかった。
 ケヴィンは実典の後をつけながら悔しく思った。自分といるときはあんな姿をしない。爪を噛んでぎりぎりと嫉妬する。壁に隠れてひたすら観察していた。ウィリアムも一緒に。
「ケヴィン、こういうのヨクナイ」
 ウィリアムはケヴィンの袖をひっぱり、もう帰ろうと催促した。
「良くないことなんてないよ、僕たちには実典の安全を見届ける義務があるんだ!」
 ケヴィンは返す。ウィリアムは納得しなかった。それに通行人がジロジロとこちらを見ている。身長が2メートルもある外国人の男が二人でコソコソしているのだ。目立って当然だ。一人は美しい男性。対して自分は醜い少年。異色すぎるコントラスト。ウィリアムは気分が悪かったがこの感情に任せて暴走する愚かな殺人鬼を連れ帰るべく我慢した。ただしそのやり方がわからない。ウィリアムは苦々しく思った。

 初めは少し嬉しかった。エドワードとケヴィンは猿と犬のように仲が良くない。だから二人の意見が揃って協力したのは嬉しかった。しかし今は実典の尾行をして実典の意にそぐわない行動をしている。どうしてこうも上手くいかないんだろう。ウィリアムは溜息をついてケヴィンの後をついて言った。

 実典の見た映画の内容は至極つまらない純愛系のアニメ映画だった。子供時代いじめていた男子生徒が大人になってそれを苦に思い少女に謝りそこから交際に発展するという陳腐な内容だ。実典はさもつまらなそうに映画を見ていた。
 こんなものありはしない。作った人間はとんだ莫迦者だ。人は子供時代に受けた恨みを一生忘れはしない。人生において常に勝ち続け他者を踏みにじってきた者が作ったファンタジー映画。実に滑稽だ。
 スクリーンを無言で睨んでいると、手の甲に触れられたような感触があった。共に見ていた知り合いの男性……日立が自分の手を握っていた。日立は1ヶ月前偶然街で出会った男だ。実典が帰郷して間も無く知り合った。相手はインターネット上で知り合いの近況を交換できるフェイスブックというサービスで実典を見つけたらしい。その後も何度かやり取りをしてデートをするようになった。日立は短髪で髪は染めておらず見た目は爽やかだ。スポーツマンで体は引き締まっており程よく鍛えられている。礼儀や作法も整っており誰が見てもハンサムだと言うだろう。
 実典は日立に対して優しく微笑んだ。心の中にドス黒い憎悪が膨らんだが押さえつけた。良く考えてみればこいつが直接罵倒したり酷いことを言ったりしたことはなかった気がする。憎むに値しないのだ。

「ウィリアム、あいつさっきミノリの手を触りやがった!」
 ケヴィンとウィリアムは端の席でその様子を見ていた。ケヴィンの金の瞳は暗闇の中、獣の様に光る。そして男が実典の手に触れるのを確認すると怒りに染まり思わず立ち上がりそうになった。つかさずウィリアムが止めに入り騒ぎにはならなかった。
「ケヴィン、ダメ。メイワク」
「だって居ても立っても居られないよ!」
「ケヴィンウルサイ。シズカニスル」
「フガフガ…」
 ウィリアムもはケヴィンの口をふさいだ。ケヴィンは抵抗したが凄まじい怪力で封じ込まれてしまった。

 実典と日立の二人は映画館を出ると喫茶店に移動した。そこで互いの映画の感想を話し合っていた。日立の感想は極めて単純だった。純愛に対する憧れとか愛の素晴らしさを満面の笑顔で語っていた。実典は笑顔でそれをニコニコと聞いていた。
 ケヴィンとウィリアムの二人は離れた隅の席でそれを見ていた。それぞれストロベリーパフェとチョコレートサンデーを頼み極上の味覚に酔いしれた。だが先ほどとは違いケヴィンはがっくりとうな垂れていた。口内は満たされたが元気が失われもはや覗き見するだけの気力もない。
「どう見てもお似合いのカップルじゃないか…やっぱりイケメンの方がいいのかなあ、僕も黒髪に染めようかなあ」
 ケヴィンは机に突っ伏して拗ねていた。
「ケヴィンはイケメン、カッコイイ、ソメルノダメ」
「もういいよお世辞は」
「ミノリガイッテタ、ケヴィンはキレイダッテ」
「本当!!?」
 ケヴィンはがばっと飛び起きた。周囲の視線が一同にこちらを見た。
「ミノリドコカイッタ」
「僕たちも追おう」
「マダヤルノ?」
 ウィリアムは呆れたように言った。
「やるよ!僕たちにはミノリの貞操を守る義務がある!さあ行こう!っとその前に会計か。さっきパフェ頼んじゃったからな」
 ケヴィンは領収書を持ってレジに並んだ。
「2100円です」
「たっか!!!一個千円もするの!!?」
 ケヴィンはなけなしの小銭を集め代金を支払った。文字通り目玉が飛び出る思いだった。
 ケヴィンは喫茶店から外に出ると実典を探した。しかしすでに実典の姿はなかった。人混みの中ケヴィンは完全に実典の姿を見失っていた。
「そ…そんな」
 ケヴィンはがっくりと跪いた。
「カエロ、ケヴィン」
「ううっ…ミノリさん」
 ケヴィンはウィリアムに慰められながら家に帰った。

 実典と日立は高台から街を眺めていた。街を一望できるこの見晴らしの良いこの場所は近所でも有名なデートスポットだ。1ヶ月前から出会ったかつての同級生。日立にとって実典はもう暗くてジメジメした気持ちの悪い女の子ではなくなっていた。美しく気品のある大人の女性となっていた。同窓会で出会ったときほとんどの女子は高卒で妊娠出産し髪も脱色して見た目も態度もチンピラと化していた。だが実典は違う。髪は一度も染められてないため艶やかで傷みがなく肌は透き通るように白く美しい。礼儀正しく上品で人の話も黙って聞いてくれる。慎ましやかでデートの費用すら自分の分は自分で支払っていた。彼女が今まで一切男と遊んでいなかったことがわかる。他の女とは違う。
 夕日に照らされた実典の姿はとても綺麗だった。日立は心に決めついに言った。
「俺、実典さんのことが好きだよ」
 実典は少しだけ驚き日立を見る。
「実典さんは綺麗になった。素敵な女性になった。付き合おう。俺たち」
 実典は日立に向かって優しい頬笑みを返す。それは了承の合図かと思われた。実典は口を開き言った。
「いや、無理」
 空気が一瞬にして凍りついた。日立の顔が間抜けに固まる。実典は笑いを堪えるのに必死だった。
「お前と付き合う?バカもほどほどにしてくれる?」
 そして実典はついにこらえきれずクスクスと笑いだした。
「私が?あなたと?冗談も大概にして?あなた本当に面白いのね。噺家にでもなった方がいいわ」
 実典は笑った。上品な動作でケラケラと笑っていた。
「何がおかしい」
 ポツンと残された日立が言う。
「嫌、普通に考えて無理だろ。いじめの片棒を担いでいた一人がいじめられてた子と交際?バカにもほどがある!苛められた人間が苛めたやつと付き合う?そんなものありはしない。あの映画は創作だ!男に都合よく作られたファンタジーだ!私はあの時のことを忘れはしない。私が美しい?お前目がおかしいんじゃないの?私のこと散々ブスだの気持ち悪いだの言ってたじゃん」
 実典の目は悪意に満ちていびつに歪んだ。日立は目を逸らした。
「他の連中が言ってただけだ。俺がしたことなんて少ししかない。俺はただ」
「見てただけ。そう見てただけなんですよね」
 実典は答えを言った。日立は思わず黙り込む。
「不良に囲まれるのが怖かったから、自分がターゲットになるのが嫌だったから、力のない少女に全てを押し付けたんでしょう。そしてたまに笑ったように私を見てた。私が貶され踏みにじられ殴られてるのを見て思ったんだよお前は。苛められる側にも原因があるって」
 そこで日立は切れた。
「いや、お前も悪いだろ。みんなお前に声かけたのにお前そっけなかったじゃん。返事もしないし」
「返事したら嗤われるだろうが!」
 実典は怒鳴った。日立は黙り込み怒りを込めて睨み返した。そして冷たく日立を睨むと静かに言った。
「お前はさ結局悪者になりたくなかっただけだろ?そうやって私が悪い。原因があるって言っておけば自分は無視しても悪くはない。だから私に原因があるって思いたいんだ」
「お前はそんなんだから苛められるんだよ。過去のことをうじうじと」
「はぁ?何それ?面白いこと言うのね?やっぱりあなた噺家にでもなったほうがいいわ!」
 実典はケラケラと笑った。
「なあに?私は聖人じゃなきゃいけないわけ?殴られても蹴られても黙って誰のことも憎まず他者を許せって言うの?あなたたちみたいに他人を笑ったり貶すことも許されないの。よくそんなこと言えるわよね。自分でもできないくせに」
 日立は黙り込んだ。実典は背を向け斜めに日立を見た。
「今日のあなた本当に面白かったわ。気持ち悪くて吐きそうだった。顔も手も」
 実典は優雅な動作で鞄からハンカチを取り出すと手の甲を拭った。そして怒りで震える日立を残して立ち去った。バカにされたからではない。圧倒的弱者だと思っていた実典が自分を笑ったからだ。日立の中では二人の関係はあの頃から変わっていなかった。実典を暗くて陰気だった惨めな存在だと思っていた。無意識のうちに自分の立場が上だと錯覚していた。最初から二人の間に対等な関係など成立しないのだ。消すことのできない過去がある限り。どんなに時が経っても自分の生きてきた痕跡は消えはしない。日立はそれを理解しておらず、また理解していなかった。ただ苛立ちだけが彼を支配していた。

 



 夜、実典は家に帰ると上機嫌で笑っていた。
「あはははは!傑作だったよあいつの間抜け顔!最高!!」
 実典は片手に酒を飲みがら勝利の余韻に浸っていた。エドワードは遠い目でそれを見ていた。実典はこの日のために、復讐のためだけに男の前で猫を被っていたのだ。そして今まで築き上げた社会人スキルを全て活用し、憎き相手に復讐を果たしたのだった。
 ケヴィンとウィリアムは家に帰るなり早々疲れて寝てしまった。今リビングにはエドワードと実典しかいない。エドワードが渋々、実典の酒の相手をしていた。
 何て根暗なんだろう。実典の晩酌に付き合いながらエドワードは思った。だが決して口にはできなかった。実典は普段怒らないが怒らせると恐ろしい。そして一度根に持つと一生忘れない。頭が回るだけに絶対敵にしてはいけない相手だ。エドワードは実典の空になったグラスに日本酒を注いだ。それに気づくと実典はエドワードを見上げて言った。
「ありがとう。エドワード。昨日はごめんね。エドワードは居候じゃないよ。私にとって大切な家族」
 実典は優しくエドワードに笑いかけた。そしてエドワードも思わず笑った。そうだ。悪いところばかりではない。人は良い面もあれば悪い面もある。だから面白い。