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【殺人鬼と三角関係】第9話 呪いの声を叫びながら

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 ケヴィンが鉛のような眠りから目を覚ますと日がすでに落ちていた。体が重く全身が熱い。起きることさえ億劫だった。側に置かれた時計を見ると時刻は6時だった。夕飯の時間だ。なのに体が言うことを聞かない。息も荒くなる。

 
 昨日、実典が他の男と並んで歩くのをこの目で見た。美しい二人の様子はお似合い以上の何者でもなかった。あの後どうしたのだろう。自分は見ていない。

 ……きっとあの男が、どうかしたか。

 ケヴィンは胸の痛みに押しつぶされそうになった。
 嘘だ。自分の気持ちが偽りだなんて。現にこの胸は引き裂かれるように痛いし、実典が他の男と交わるだなんて考えただけでそいつを殺してやりたくなる。だけど他の奴らは言う。それは偽りだと。一時的なものだと。皆自分を否定する。実典ですら自分の好意を一時的に浮かれているだけだと一蹴した。他の女がいればそちらに気持ちが移ると。その言葉がどれだけ自分を傷つけたのか実典は理解しているのだろうか。


 ケヴィンがしばらく横たわっていると部屋のドアがノックされた。
「ケヴィンくん入っていい?」
 実典の声だ。ケヴィンの目が明るくなる。
「ケヴィンくん、夕飯の時間だよ?」
 実典の変わらぬ優しい声。
「すぐ行くから……」
 そう口にするも体は起き上がることを拒絶した。実典はケヴィンを見るとすこしだけ眉を潜めた。そしてケヴィンに近づいて跪きその額に手を乗せた。ケヴィンの顔は赤く手からは熱い温度が伝わった。
「熱があるわね」
 実典は努めて冷静に言った。
「最近仕事とかあったから体にこたえたんだよ」
 実典はケヴィンの布団をかけ直すと立ち上がった。
「まっててね、おかゆ作ってくるから」
 そしてケヴィンの部屋から立ち去りキッチンへと向かった。ケヴィンはそのまま目を閉じ、とにかく体の回復に努めた。どうしてこんなことになったんだろう。実典にも冷たい態度を取ってしまった上、自分はこんな有様だ。仕事すれば怒られるし体が先に参ってしまった。たった一週間の職場体験でこんなことになるなんて情けなさすぎる。
 ケヴィンが思いにふけっていると実典が戻ってきた。手袋をはめて土鍋を持っている。ケヴィンの傍らに座ると土鍋の蓋を開けた。暗い色をした鍋に黄金色のお米が湯気とともに現れる。艶やかに輝き卵の柔さを表面に湛えていた。実典は木製のスプーンでそれをすくうとケヴィンを起こして口元に近づけた。
「やめてください、一人で食べれます」
 そうは言って見たものの体は素直だった。差し出されたたまご粥を口にしていた。ほんのりと塩味の効いたお粥が口の中に広がった。食感はまろやかで程よく柔らかい。卵の食感と出汁の深みが交わって美味しさをより引き立てている。暖かさが全身に広がる。お粥というよりも雑炊だろう。おそらく既に炊いてある米を応用して病人用に仕上げたのだ。だが悪くなかった。むしろこちらのほうが生気が宿る。病人食というよりもソムリエが作った本格料理のようだ。ケヴィンは涙が出た。
「美味しい」
 目を潤ませて実典が差し出す粥を食べる。
「相変わらず反応が過剰だよなあ」
 実典はお粥を掬ってまた差し出した。ケヴィンはパクパクと食べた。卵粥は一瞬でなくなった。ケヴィンはあらかた食べ終わると俯いてしまった。腹は満たされても心は満たされなかった。
「大丈夫?」実典は心配そうにケヴィンの顔を覗き込んだ。
「どうしてそんなに優しくするんですか?」
「だってケヴィンは大事な……」
 実典はそこで言葉が詰まる。大事ななんだ?お客様か?違う。じゃあ同居人?いやそれも違う。友達。それも違う気がする。じゃあ何なんだ?
「どうしてそこで何も言ってくれないんですか」
 ケヴィンの声が震えた。
「えっとその……」
「その優しさがどれだけ僕を傷つけるか分かってるんですか!!?」
 ケヴィンは強い口調で言った。
「……」
 実典は俯き黙り込んだ。どうすればいいかわからない。どう答えればこいつは納得するんだ。
「ミノリさんは僕の事なんか何とも思ってないでしょう!?」
「うん」
 実典は肯定した。ケヴィンの心に引き裂かれるような痛みが走った。実典は最も残酷な選択肢を選んだ。その質問の意味を分かっていたから。何とも思っていない。その反意語は恋愛感情だ。ケヴィンの望んでいたのは好きという恋愛感情だ。だからはっきりと言わなければ大きな期待を持つ。そしてさらに傷つく。膨らんだ期待の分だけ残酷に。曖昧な返事は余計に彼を傷つけるだけだ。
「じゃあ優しくなんてしないでください」
「無理だよ。あなたを守るのが私の役目だから。保護者だから」
「どうして…どうしてそう言うことを言うんですか…僕は、僕は」
 ケヴィンは頭を抱え髪を掻きむしった。
「お願い。お願いだから言わないで」
 実典は心の底から懇願した。
「僕は…好きなんです!あなたのことが!好きなんです!」
「……っ」
 実典の息が詰まる。額に汗が浮かんだ。言われたくなかった。言われたら嫌でも答えなければいけない。
「ミノリさんが好きだ」
「い…いや。無理だから」
 実典は震える声で否定する。そしてさらにケヴィンを傷つける。
「どうして、僕の何がいけないんですか。仕事もします。勉強もします。だから、僕を。僕の気持ちを」
 ケヴィンはその手を実典に伸ばした。
「い、いや。無理。そういう問題じゃない」
 実典は気が動転していた。頭が働かない。ケヴィンの目が見れない。怖い。
「どうして」
 それはもはや問いではなかった。
「いや、だって」
 実典は言葉を必死に探した。だができない。見つからない。こんな時に限って適当な言葉が見つからない。そして実典は最悪な言葉を口にすることになる。
「だって人殺しじゃん。無理。無理だよ!」
 ケヴィンの目が見開いた。狂気で汚染された光のない目。そしてケヴィンの手が実典の腕に触れた瞬間……。

 ケヴィンの腕が破裂した。

 メキメキと音を立てながら銀の鎖が絡みつきケヴィンの腕をあらぬ方向に捻じ曲げた。その鎖は実典の指輪だった。天使から渡された御守りが発動したのだ。
「…っ!!」
 ケヴィンは咄嗟に腕を離す。鎖が離れ指輪に戻った。捻じ曲がった腕を思わず抑えた。痛みは平気だ。傷だってすぐ治る。しかし最も問題なのは実典だ。
「違う!違うんだ!君を傷つけようとしたわけじゃ……」
 咄嗟に弁解しようとするもすでに遅かった。実典は目を開いたまま硬直していた。あらぬ光景が意味することは1つ。どんなに弁解しようがその真実は消せない。
「だ、大丈夫……」
 実典は唇を噛み締めた。その目は悲しげに震えた。
「僕は……」
「一度、戻るね……」
 実典は立ち上がり、空になった鍋を手にしてその場を後にした。
「まって…まってよ」
 その声は弱々しくなった。そして閉ざされたケヴィンの部屋から嗚咽が漏れた。