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【殺人鬼と三角関係】プロローグ 凡庸な女

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こちらは二次創作を投稿したいときに書いたオリジナル小説です。

小説サイトがほとんど二次創作を禁止していたので書いたものです。

 

秋が終わろうとしていた。季節は10月の半ば、風は冷気を宿し冬特有の透明な清涼感を持っていた。東京郊外に立つ寂れた駅に電車が止まり、開かれた自動ドアから一人の女がホームに降りた。

 

  青白い肌に光のない病的な目が印象的な女だった。年は20代中盤といったところか。
 白いブラウスに黒のジャケットを羽織りその上から紺の外套を羽織っていた。スカートは膝下まである長さで黒い生地を使用し腹部にはクリアガラスの装飾が施されていた。決して派手ではない質素な服装に生える飾り。シンプルなファッションセンスは彼女の長い社会人経験を表している。
 女は肩にかけたバッグを掛け直すと出口へと向かった。ヒールが床を叩くコツコツとした音が静かな駅構内に響いた。自動改札口に切符を入れ勢いよく改札の通路が開く。駅の外は透明な空気が広がっていた。人々の吐息や汗の匂いで密度を増した空気ではない。冷気を宿した無色の空気。秋の清涼な風が体を包んだ。長旅による疲れた吐息が透き通るような冷たい空間を汚した。
 女は長年、地方の中小企業で働いていた。社員数100名にも満たない小さい会社だ。それゆえに福利厚生は整っておりそれが彼女の辞職を阻んだ理由だ。しかし彼女の両親が長年住んでいた家の建て替えを決めたため、彼女は新しい家の管理者として実家に戻った。仕事を辞め引越の手配を済ませアパートを引き払い、建て替えが完了したタイミングで半生を過ごした自分の街に戻ってきたのだった。
 十数年の時を過ごした家の解体、そして新しい家の建築。ただその契約が少々特殊だ。具体的なことは何1つ聞かされていない。聞くところによれば家の建て替えに必要な金はとある人物が全額負担したという。しかも隣に立てられた空き家と土地を買い取り、空き家を建て壊して土地の拡大まで手配したという。いかにも怪しい話だ。これから女はその出資者と話をするために家に戻る。一体何の代償を払わされるのか。かすかな緊張が女の顔を暗くした。
 閑静な住宅地を通り、交通量の多い道路沿いにその家はあった。かつて見た女の実家に十数年を過ごした一軒家はなく、その代わりに高さも面積も大きく拡大された立派な長方形の建築物があった。シンプルな形状ながら頑丈に作られており、ぱっと見二階建てに思えるが高さは実際の二階建ての家よりもずっと高い。おそらく天井が高めに設定されているのだろう。こんな大きな家の管理を一人でやらねばならないのだろうか?生憎両親は別の街に家を借りて静かに暮らしている。建て替えは両親が決めたことなのだがこれでは本末転倒だと女は思った。
「もしもし?本田実典さんですか?」
 女が自分の家を見上げているとスーツを着込んだ若い女に声をかけられた。一瞬眉を潜める。若いといってもほどがある。なぜならその人物は10代中盤にしか見えなかったからだ。自分の体型にぴったりとそった紺のパンツスーツを着て髪は後ろにまとめている。少女特有の幼い顔立ちに、大人特有の作り笑いを浮かべるという奇々な格好でその人物は女に声をかけていた。
「はい、私が本田ですが」
 女は素っ気なく答えた。
「作用ですか!私今回出資者の代理で参りました鈴木と申します」
 鈴木と名乗る少女は丁寧に礼をすると懐から名刺ケースを取り出し実典に差し出した。実典は肩に下げた鞄から名刺入れを取り出すとプライベート用の名刺を一枚とった。前の会社はすでに退職しているので使えない。この名刺は実典が副業で利用しているものだった。
「本田実典と申します」
 実典は品のある丁寧な動作で片手に名刺を差し出し、空いた手で鈴木の名刺を受け取った。手のひらに収まるサイズの小さな名刺にはこう書かれていた。
「天使」
 実典は小さくつぶやいた。
「はい、そうです。信じてもらえないかもしれませんが、私は天からの使いです」
 そう答えた鈴木はニヒルな笑みを浮かべた。その顔には感情が感じられない。ただし威光はあった。根拠のない空想を無理やり信じさせる何か。
「立ち話もなんですし、中にはいりますか」
 実典は言った。あらかじめ渡されていた鍵で玄関の鍵を開け、新しく建築された白い建物の中へと入っていった。

 

 二重に施錠された鍵を解除し、家の中に入ると新築特有の家の匂いが充満していた。建て替えで広くなったといっても元々の土地そのものは特別広いわけではない。新しく建築された家の見た目も普通の一軒家が少し大きくなった程度のもので豪邸とは言いがたいが、実際中に入ってみると天井は高く設計され、両手を広げてもまだスペースに余裕があるほど空間は広々としていた。フローリングされた床は艶やかに輝きを持ち反射している。部屋と部屋を仕切る扉も大きく頑丈に作られており、シンプルな木造に金のノブが光っていた。これならば外国人や身長の高い男性でも不便なく生活できるだろう。まあ、そんな男を連れ込む予定もないが。
 実典は玄関とリビングを仕切る扉のノブを回し扉を開けた。視界いっぱいにリビングの景色が写る。フローリングされた床にはブラウンのじゅうたんが敷かれており、木製のテーブルと長椅子が設置されていた。窓ガラスは大きくいっぱいにとっており、庭とその先にある道路の景色を映し出していた。実典は新しいリビングの景色に圧倒されつつも、一度鈴木を奥の椅子へ案内してから席についた。
「すいません、お茶も出せず……」
「いえいえ、お気になさらないでください」
 鈴木は涼しげな顔で言った。そこで始めて鈴木の顔をしっかりと見た。こうして近くで改めてみると美人だと思った。なんというか目や口など顔のパーツがバランスよく丁度良い大きさで配置されている。均整の取れた顔立ち、というのだろうか。じっくりと見ていると思わず見とれてしまいそうな黄金比が目の前にあった。ブラウンの髪は細く艶やかで肌は透き通るように白い。
「あなたがお聞きになりたいのは、なぜ我々があなた方に多額のお金を負担したかという点ですよね?」
「それもありますけど……」
 実典はリビングを見渡した。広々としたスペースを持ったリビングは、木製の長椅子とテーブルを配置してもまだ有り余る広さだ。
「どうみても広すぎますよね、この家……まるでルームシェアでも前提としているみたいで」
 実典は視線を鈴木に移す。
「何が目的なんですか?ルームシェアの管理でもしろっていうんですか?」
 鈴木はくすり、と笑った。
「そうですね、近くて遠い。そういったところでしょうか」
「それはどういう……さっきも天使だとか何だとか、話がつかめません」
 連絡を受け待ち合わせた相手は少女の姿をした風変わりな人物でさらに自分は天の使いだという。これほど滑稽な話はなかった。普通の人間であればおかしな話に眉を潜めるだろう。
「たしかにそうでしょうね。ただ事実なのです。私は天国から派遣された天の使いです。天使たちは人の姿をして地上の生物の管理をしています」
 鈴木は淡々と語った。
「私たちが管理をしているのは魂のバランス。生き物は輪廻転生を得て生と死を繰り返します。そのバランスを調整するためにこうして人間に協力を求めることがあるのです」
「宗教の誘いか何かですか?」
「その言葉、何千回と聞きました。誤解を解く気もありません。話を進めます」
 鈴木の目から穏やかさが消えるのが分かった。その目は冷ややかに実典の存在を見下していた。
「あなたに頼みたいのは殺人鬼の更生です。罪を犯した人間が普通の人としての生活を取り戻せるように世話を頼みたいのです」
「さ、殺人鬼の更生……って」
 実典は硬直して目の前にいる少女を見た。薄ら笑いを浮かべたが、依然として鈴木の目には感情がない。
「あなたたち人間はいつも言うでしょう?悔い改めれば許される。信じれば救われる……と。私たちはそのお手伝いをしているのです。ただできるのは手伝いだけ、実際に行うのは人間です。私たちがどんなに罰を下し、罪を浄化しても人間が自ら進まねば意味がない。だからあなたは広く大きいこの家で殺人鬼の家族となり愛情を持って接し人としての暮らしができるように面倒を見てほしいのです」
「い……いやだ」
 言葉が出なかった。実典は思う。目の前にいるこの女は本物の天使だ。完成されたその容姿以外にも女には威光のようなものがあった。人を服従させる圧迫感。威圧。彼女の目を見ていると否応なしにその言葉に引き込まれる。信じ込まされる。それでも本多は精一杯の反抗を試みた。殺人鬼と暮らすなんて絶対に嫌だ。
「だれでもそう言うと思います。あなたのご両親も最初は拒否しました」
 鈴木は一息つき、冷静に告げる。
「安全性についてはご安心ください。殺人鬼があなたに対して暴力的なことをすれば天罰が下るようになっています。そして彼らはすでに地獄での刑期を終えています。罰を受け罪を洗浄し、魂の浄化自体はされていますが殺した数があまりにも多すぎるのです。一度人の生活に戻してから転生しなければまた悪魔にそそのかされかねません」
「それでも嫌です。見ず知らずの人、しかも殺人鬼と暮らすなんて……」
 実典は恐怖に震えた顔で請うた。
「実は、この家の建て替えは我々が支払う報酬ではないのです。本来我々があなたに提示する条件は他にあります。ご両親もその条件を飲んだ上であなたにすべてを託しました」
「だったら父と母が役目をはたせばいいじゃないですか、なんで私が」
 思わず身を乗り出して反論していた。実典の言葉からは完全に理性が消えていた。感情で声が震え、恐怖が露出する。
「あなたでなければだめなんですよ、年老いた老夫婦など役に立ちません」
 鈴木は一蹴した。実典は思わず言葉に詰まる。
「我々から提示した条件は運命からの救済です」
 運命。
「あなたがこれから辿る運命を教えてあげましょう。あなたは30の誕生日を迎えた時、結婚をします。望まぬ結婚。あなたは周囲の人間の意志によって最も嫌いな相手との結婚を仕組まれ抵抗もむなしく男の支配下に置かれます。あなたは力で人を傷つける相手を収めるための生贄として利用されるのです。そしてそれから何十年ものあいだ憎むべき男の下で隷属を強いられ暴力と罵倒によって心も体もボロボロになりその年齢が100を数えるまで地獄の生活が続きます。まるで奴隷のように。離婚を試みますがそれも適わず邪魔され何度も自殺未遂を繰り返すでしょう。しかし後遺症だけ残って死ねないでしょうね。あなたはとびきり健康だから」
 実典は絶句した。本当にそれが運命だというのであれば自分はなんのためにこの生を生きてきたのだろうか。何のために辛く苦しい生活に耐えてきたのか。
「ですが我々は運命を管理することができます。あなたの運命から救済しましょう。あなたがこの計画に協力するのであれば私はあなたの未来を保証します」
「どのように……ですか」
 実典は力なく問いかけた。
「簡単な話です。あなたの結婚運の悪さから救ってあげましょう。あなたにとって天敵とも言えるような暴力的で残忍な男との結婚を避け、あなたが心から愛せる相手と添い遂げられるように。それが我々の提示する条件です」
「……っ」
「どうです?自分の不幸な運命と引き替えと言われれば赤の他人との生活も苦に思えないでしょう?しかも殺人鬼との生活は長くて数年。しかも身の安全まで保障されている。今後一勝続く地獄の服従生活に比べたらずっと楽だと思いますけど」
「……その人を…見せてください」
「はい?」
「殺人鬼……どんな方なんですか」
 実典は高鳴る鼓動を抑えながら、震える声で問うた。
「いらっしゃいますよ、今あなたの目の前に」
 鈴木は優雅な動作で左手を掲げ、ゆっくり下ろした。
 そして実典はその手の先に信じられないものを見た。
 その手の先に巨大な男が立っていた。何もない空間にぽつりと、突然それは現れた。死人を思わせる肌色の滑らかな肢体、その体は鍛え上げられた筋肉で覆われ格闘家か軍人か,見紛うほど頑強だ。身長は2メートル近くあるかと思うほど巨大だった。獲物を睨むような鋭い眼光が斜めに実典を見ていた。その視線には明確な大男の知性と強い意志が含まれており、見つめられた相手は畏怖すら覚える。そして堀が深く濃すぎるといってもいいほどのその顔立ちはどうみても日本人ではない。頭はスキンヘッドで髪はなかった。しかし外国人特有の顔立ちのせいか違和感はなかった。アメリカ人かイギリス人か…、アクション映画に出てくる巨大な外国人が目の前に立ち、さらに自分を見つめている。これほど奇怪な光景はあるだろうか?
「この方が……殺人鬼」
 女の体が震えた。視線を殺人鬼から離すことができない。離したら殺されてしまう気がした。恐怖で心臓が鷲づかみにされる。
 人殺し。
 頭の中でその言葉が反芻した。この大男と暮らす。数ヶ月か数年か分からないがとにかくこの家でともに暮らす。しかも相手は日本人ではない。外国人だ。そしてこの男の更生を手伝う。そもそもそんなことが自分にできるのだろうか。
「無理です」
 実典は頭を抱えた。考えるより先に拒絶の言葉が出た。目線をテーブルに落とし視界を閉ざすことで精一杯の現実逃避を試みる。
「しっかりして」
 鈴木は立ち上がり、女の背中を撫でた。
「前を見なさい。あなたは戦わなければいけないんです。自分の運命に。そうしなければ今後死ぬよりもつらい目にあう」
「どうして、私だけが」
 女は引きつった声で懇願する。先の見えない恐怖だけが女の頭を支配し、殺人鬼はただ冷酷にそれを見下していた。

  実典は呆然としていた。天使と名乗る少女が現れ、自分の運命は死ぬ以上に辛いものだと語る。それを避けるには殺人鬼を更生させろと無理を言う。悪い夢ならば冷めて欲しい。だが残念なことにこれは現実だ。何もない場所から現れた殺人鬼は高い位置から鋭い目線で自分を見下し、目の前の天使は同じ位置から自分の存在を見下している。
「考える……時間をください」
「いいえ、それには及びません。決断ができないのであれば我々は次の候補者の元へと行きます」
「家は……どうなるんですか?」
「ご自由にどうぞ。我々が提示できる条件の本質は財産ではなく運命ですから。それにこの家もそのうちなくなりますし」
 鈴木は優雅な動作で殺人鬼の元へ歩くと実典に振り返った。
「それでは、良いお返事はいただけないようですね」
 ニヒルな笑みを浮かべ、実典を見る。鈴木と殺人鬼の体は柔らかな光に包まれ、肉体が透き通って行った。
「さようなら」
「待って!!」
 実典は強く叫んだ。その声は痛々しく、悲鳴にも似ていた。
「受けます。それで運命が変わるなら」
 実典は胸を押さえ、膨れ上がる恐怖を懸命に押さえながら答えを出した。
 鈴木と殺人鬼を包む光は散り散りに破裂し羽のように漂いながら消えて行った。
「賢い決断です」
 鈴木は背後に立つ殺人鬼に目をやる。
「挨拶をなさい」
 強い口調で命じた。
「俺の名はエドワードだ」
 話すことを許された殺人鬼はそれだけ言った。声は野太く思った以上に低かった。
「本田実典と言います」
 女は席から立ち上がり殺人鬼に向かって丁寧にお辞儀をした。エドワードはその姿を高い位置から見下すと女から視線を逸らした。
「ふふ、ありがとうございます。実典さん。彼、見た目は怖いですけど意外と優しいですよ」
 実典はあからさまに嫌そうな顔をした。優しかろうが冷たかろうが殺人鬼には変わりない。そんなものを好きになれるわけがないのだ。
「今後の生活についてですが、基本は管理者である実典さんにお任せします。エドワードの部屋をどこにするか何をさせるかは全部実典さんが決定してください。エドワードは実典さんの指示に全て従います。エドワードの生活費は経費として天国から支給されますのでご安心ください」
 鈴木は鞄から書類を取り出すと実典に差し出した。
「こちらに詳細な内容が書かれています。わからないことがありましたらご覧ください、それと」
 鈴木は声のトーンを落とした。
「殺人鬼の過去には触れないように」
「え?」
 再び鈴木の顔を見たが、そこには笑顔が戻っていた。
「あなたにもあるでしょう?触れられたくないこと。子供の頃はどう言う子だったかとか会社では周りにどう思われてたとか、他人に聞かれたくないでしょう?そういう配慮はちゃんとして欲しいんです」
 実典は黙り込んだ。どうにも腑に落ちない。
「さてと、それでは私はもう行きますね」
 鈴木の背に光が集まり羽の形を描いた。
「え、ちょっと……まって!」
 思わず引き止める。疑問があったわけではない。ただこの異形の殺人鬼と二人だけにされるのが嫌だった。
「すみません、時間稼ぎにつきあう余裕はないんです。あとは頑張ってください」
 鈴木の体は光に包まれ透き通って行った。そしてゆっくりとその場から姿を消した。殺人鬼と女の二人だけがその場に残された。
「……」
 実典は無言で立ち尽くす殺人鬼を見上げた。名前はエドワードと言っただろうか。巨大な体躯を持つ異形の殺人鬼。それとこれから暮らしていかなければならない。願わくば傲慢で口煩い性格で無ければいいのだが。
「……まずは部屋ですよね。何か希望とかありますか?」
 実典は殺人鬼の様子を伺いながら慎重に言葉を口にした。殺人鬼は一度だけ実典を見ると静かに答えた。
「全てお前が決めてくれマスター。俺はどこでも構わない。お前の指示に全て従おう」
 女は思わず息を吐く。最初の壁である意思の疎通は乗り越えた。普通ならなんて事のないことが大きな壁に感じる。そして乗り越えていくのだ。この大きな壁を1つづつ。