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【殺人鬼と三角関係】第1話 振り返れば苦い思い出ばかり

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実典はエドワードを先導し新築された家の部屋を見て回った。風呂の位置や使い方を一通り説明し寝室の区分けを行なった。寝室は家の二階に区画されておりエドワードは南側に位置する部屋を、実典は東側の部屋を使うことに決めた。部屋割を決めている間も実典は震えを抑えるのに必死だった。正体不明の殺人鬼は鋭い眼光で高い位置から自分を見下している。その目つきは修羅を生きた者の目だ。恐怖で何度立ちくらみをしそうになったかわからない。

 「マスター、少しいいか?」
 エドワードは斜めに実典を見下げると静かに言った。
「はい、何でしょう」
 実典は上ずった声で返答した。普段人と会話しないせいで声が出しづらいと言うのもあるが、相手が外国人であること、殺人鬼であるということ、様々な思いが逡巡して回った。
「買い物に行きたい。替えの服がないんだ。着の身着のままだからな」
「あ、はい。そうですよね!気づかなくてすみませんでした!」
 実典は気を動転しながら言った。そりゃそうだ。季節は秋の終わりかけ。これからもっと寒さも強まる。エドワードは半袖の白いシャツにベージュのズボンというシンプルな格好だった。夏の普段着であれば立派な肉体と濃い顔と相まって軍人のようにハンサムに見えるかもしれないがそれだけで冬を乗り越えようというのは酷な話だ。実典は自分自身の気遣いのなさに内心失望した。
「それでは行くか」
「あ、はい」
 実典はリビングに戻るとクレジットカードや現金が収められたバッグを肩にかけ紺のコートを羽織った。そして玄関で靴を履いているエドワードを見つめた。実典の目には不安が宿っていた。

 実典とエドワードは二人で近くのモールへと出かけた。そのモールは徒歩15分ほどの位置にあり規模は大きくないが生活必需品であれば大体揃う。二人は徒歩で大通りの道路をしばらく直進し、点在する風変わりなレストランやパチンコ屋を眺めた。車がないので歩いて行くしかない。並んで歩く二人の間隔は大きく開き距離があった。よそよそしい他人同士の関係性が見て取れる。
 車の購入もそろそろ検討するべきだろう。実典は眼に映るちぐはぐな看板を見ながらこれからの出費のことをなんとなく考えた。実典にとっては当たり前の景色だがエドワードにとっては物珍しいのか派手な看板を感情のない目で見つめていた。
「……珍しいですか?」
 実典は勇気を持って、エドワードに問いかけた。
 エドワードは感情のない瞳を実典に移すと小さく答えた。
「ああ、初めて見る」
 無愛想な男と一般人女性、ただそれだけの存在。それでも実典にとってはただの世間話1つすら大きなハードルだ。天気の話ひとつさえ口が固くなる。鉛のようだ。二人は会話もなく歩き続けた。沈黙が重い。

 そんなことを考えながら道を歩いていると程なくしてモールへたどり着いた。実典が心配していたのはこの巨体に合う服が見つかるかという点と、周囲の人々の視線だった。
 後者の不安はすぐに的中した。予想通り通行人の視線が痛い。ジロジロと見つめられるわけではないが、一瞬視界に入っては目線を逸らされるのが分かった。そしてチラチラとこちらを確認する。
 日本人は不干渉で関心を持たないのがありがたいが近所では間違いなく噂になるだろう。目線だけをエドワードにやると彼は何もなかったのように平静を装っている。
「エドワードさん。2階に外国人向けのメンズショップがあるみたいです。そこに向かいましょう」
「ああ、そうだな」
 二人はエスカレーターに乗り、二階のメンズショップへと向かった。人が多い場所に来たせいで注目を集めてしまったが内心、心の負担が軽くなった気がした。二人だけの空間は精神的に辛かった。人がいれば楽というわけでもないがその負担は桁違いだ。実典は外交的なタイプではない。初めてあったばかりの異性と打ち解けられるほどの社交性はないし、人見知りが激しい。その上相手は巨大な外国人男性でさらには殺人鬼だ。あまりにも難易度が高すぎる。
 メンズショップにつくと実典は待合用のソファーに腰掛け、大きな衣類が陳列された中で人目を偲ぶように体を休めた。エドワードは空気を察したのか、一人で洋服を選んでいた。何着か試着して見るもののやはり普通のサイズでは裾の長さが足りないようだった。店員と何かやり取りをし服選びを進めている。
「マスター」
 実典がしばし休息しているとエドワードの方から実典に話しかけてきた。どうやら服選びが終わったようだ。店員に勧められた試着品をそのまま着た状態で実典の元に現れた。
 エドワードは白いシャツに黒いジャケットを羽織りゆったりとした紺のズボンを履いていた。実典は一瞬混乱した。ラフな格好から変化したせいか少しハンサムに見えた。エドワードは背筋も良く動作に品がある。上品かつシックなその服装はよく似合っている。
「服が決まった。今来ているものと他にも数点買って行く」
「ああ、支払いね……」
 実典は立ち上がり、鞄から財布を取り出した。
「おいくらですか?」
「全部で6万3千240円になります」
「6万円!!?」
 実典は驚愕した。そして財布を見る。確認するまでもない。そんな大金は持ち歩いていない。高額商品の正体は明白だ。エドワードが今試着しているジャケットと上質な生地のズボン。あれを外すだけで1万か2万は浮くだろう。いやもしかすると金額の半分はあの試着品かもしれない。実典はちらりとエドワードを見た。
「マスター大丈夫か?」
 エドワードは実典の視線に気付くと高い位置から実典の表情を覗き込んだ。
「だ……大丈夫よ」
 実典は上ずった声で返答した。
「マスター、生活費はいくらだ?俺のせいで家計を圧迫するわけにはいかないからな」
 エドワードは極めて冷静に言った。実典は静かにエドワードを見据えると財布から一枚のカードを提示した。
「一回払いでお願いします」
「かしこまりました」
 定員は丁寧にカードを受け取る。
「良かったのか?」
 エドワードは問う。実典は頷いた。試着品を着て自分に確認をするくらいなのだ。よほど気に入っているのだろう。それにエージェントを思わせるようなシックな服装はエドワードによく似合っていた。最初くらい良い物をプレゼントしてもバチは当たらないはずだ。
「その服、そのまま着て行きましょうよ。よく似合ってますから」
 実典は言った。そしてレシートにサインをするとエドワードが着ていた服と残りの商品が入った大きな紙袋を受け取った。
 エドワードはそれを横から取り上げた。
「俺が持つ」
 大きな紙袋を片手に持つと実典を見下げた。
「感謝する。マスター」
 奇妙な感覚だった。相手は凶悪な殺人鬼。そんな者に礼を言われても全く嬉しくはない。なぜなら彼は人類の敵だ。そんなものに感謝されること自体あってはならない。そんなことを思いながら、いつかこの考え方も変わってしまう時が来るのだろうか、と実典は思案した。

 実典とエドワードはモールの店を歩いて回った。服の他にも普段着用の衣類や下着、雑貨や生活必需品などを購入した。
 店をくまなく見て回るという行為は面倒そのものだが一度の買い物で終わらせなければ後はもっと面倒だ。実典は荷物のほとんどをエドワードに持たせ必要なものを買い揃えた。そして最後に地下の食品売り場に向かった。
 色とりどりの生鮮食材を眺めながら実典は考えた。いつもなら一週間分の食料を買い込んで適当に使う。料理だって自分でだべる分ならどんなに適当でも構わない。鯖の塩焼きとご飯とかそういうのでいい。だが今は外国人の好みや食生活を考慮しなければいけない。外国人が好む料理とは何だ?サバを食べるのか?そもそもこの殺人鬼はどこの国の人間なんだ。
 実典はしばし食材を見ながら硬直していた。そしてエドワードを見て口を開く。
「何か食べたいものはありますか?」
「お前が好きなものでいい」
 即答。
 その返事は最も決断に困る。実典は鞄からスマートフォンを取り出してブラウザを起動し、速度の遅い通信環境でスマートフォンを操作した。
「フィットチーネ……」
 最初から手の込んだものはダメだ。それが当たり前になる。実典は家事が得意ではない。一回の食事に何品も用意はできない。これから仕事も見つけるとなれば最初からハードルを上げるのは良くないだろう。パスタ系は良い。簡単で時間もかからない。味も悪くない。
「美味そうだな……」
 隣でエドワードが呟いた。
「決まりですね」
 実典は食料品売り場でパスタの乾麺とベーコンやほうれん草、サーモンをカゴに入れた。そして食パンと生クリームと各種香料や調味料、鶏肉などを料理に必要な食料を購入した。こういう時、大きな男がいると助かる。大きな荷物は全部持ってくれた。実典は軽い荷物だけを持って帰路につくことができた。
 家に着くと購入した食料品を冷蔵庫に仕舞い、髪を束ねて白い帽子で固定し割烹着を着て夕食の準備についた。料理に髪の毛一本でも入ったら飛んだ恥だ。エドワードは新しく購入した洋服類をタンスに仕舞い、室内着に着替えキッチンへと降りた。
「今日はすまないな」
 テーブルに着くと静かに言った。
「いいえ、すみません。一品ものしか用意できそうにないです」
 実典は平べったいパスタ麺をお湯に着け、空いたコンロでフライパンを温めた。フライパンにオリーブオイルを敷いて岩塩を撒き熱を加える。同時にベーコンを加えて軽く焼いた。数分経つとパスタ麺は丁度良い硬さになっていた。裏面に書かれた時間より数分早く麺を引き上げて熱したフライパンに投入した。実典は柔らかい麺より硬めの麺が好きだ。
 生クリームを軽く混ぜて麺を軽く和えるとスペースを空けてサーモンを焼く。サーモンはあまり焼け過ぎないのが良い。丁度よく火通ったところで香料を加えて味を整え温度を下げた。食器を2つ取り出してテーブルにセッティングし中央に新聞紙を広げてその上にフライパンを置いた。こうすることで各自好きな量を取ることができる。
「ごめんなさい。お口に合うかわかりませんが」
「いやどんなものでも構わない。俺は料理などしたことないからな。ずっと家事は女がやるものだと思っていた。だが実際、作って貰えるだけで有難いものだ」
 エドワードはそう言うとパスタ用のトングでフライパンから自分の皿にパスタを盛った。
 随分と古い考え方だな、と実典は思った。まるで昭和初期に存在した男性像のようだ。見た目の年齢は30代中盤といったところだがもしかしたらかなり古い時代に生きていた人物なのかもしれない。
 エドワードはフォークでパスタを口に運んだ。一瞬目に光が宿ると、フォークを置いて静かに俯き固まった。
「すみません!お口に会いませんでしたか!?それともアレルギーか何かありましたか!」
 実典は狼狽して問いかけた。自分の料理で他人を不快にさせてしまうとは人生の恥だ。アレルギーも考慮していないなんて最悪だ。ただひたすらに自分を責めた。
「いや、そうじゃない……そう言うわけではない」
「じゃ、じゃあお腹でも壊したとかごめんなさい!」
「違う、ただあまりにも繊細な味だったから、感動しただけだ」
 そしてフォークを再び取り食事を再開した。
「美味い」
 料理が美味しいと言われたことは家族以外で初めてだった。特別得意なわけでもない。ただ一人暮らしをするのであればできて当然だ。そして男に料理を振る舞ったこともなく、職場も同僚からも実典の見た目のイメージから料理が下手な人物だと思われていた。弁当を持参していなかったからかもしれない。料理を褒められるのは長年生きてきた中で初めての経験であり憧れでもあった。それが殺人鬼によって達成されるとは思わなかった。
「ありがとう」
 食事を食べ終えると殺人鬼は言った。料理を作ってお礼を言われるのも初めてだ。実典は昔のことを思い出した。会社で行ったキャンプで好きな人に振る舞った料理を全く手をつけられず避けられてしまった時にのことを。香りの良いパスタの味に涙の塩っぱさが混じった。