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【殺人鬼と三角関係】第14話 近寄るなバケモノ

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翌朝、実典は朝の光で眼が覚めた。寝返りを打ち隣を見ると巨大な男が隣で寝ている。金の髪がふわりと落ち、白い肌に映える美しい顔は透き通るように透明だった。一人の青年の無垢な寝顔。とても殺人鬼とは思えない。実典はケヴィンから目を逸らした。一度眠気が覚める待ってから、自身の寝巻きをまさぐって異常がないか確認した。着衣の乱れはなく、昨晩寝たままの姿のようだった。大丈夫だ、心配はない。一夜の過ちはなかったようだ。実典は安堵するとケヴィンを起こさないように器用に布団から抜け出して部屋を出た。ケヴィンに対するサービスはこれで充分だろう。明日からはいつも通り自分のベッドで寝よう。

 

実典はケヴィンから貰ったブローチを自室の宝石箱に仕舞ってから、階段を降りてリビングに向かった。リビングには石油ストーブが付けられておりかすかに暖かかった。それでも部屋の面積が広いため女の体には少々辛い寒さだ。台所ではエドワードがお茶を沸かしている。振り返って実典を視界に入れるとその渋い顔に柔らかな笑みを宿した。
「おはよう。昨日は大変そうだったな」
「うっ、お見通しか」
「恋愛脳のあいつのことだ相当ゴネたんだろ?」
実典はため息をついて席に座った。エドワードが急須に湯を入れ実典の湯呑みに緑茶を注いだ。
「ありがとう」
実典はお茶をすする。暖かく苦い味が口の中に広がり、眠気を払ってくれる気がした。
「一線は超えてない。添い寝で妥協して貰った。万が一のことがあってもこれがあるしな」
実典は手のひらをくるくると回し中指に嵌められた銀の指輪を見せた。エドワードが一瞬だけ狼狽して身構える。その指輪がもたらす効果は本能に警告するほど強力なようだ。
「そこまで行ったんなら一年なんて猶予を設けないでいっそのこと付き合ったらどうだ?」
エドワードは冷静さをすぐに取り戻し提案した。
「ダメだ」
実典は即答する。
「俺たちが人殺しだからか?」
「そうじゃない……。短い間だけどあなた達のことはよく理解してる。人を殺した背景にままならない理由があるのもなんとなくわかってる。でも……」
実典はそこで湯呑みの中の水面を見つめた。
「私はウィリアムの母親がわりだから。今女になるわけにはいかない」
「それは建前上の話だろう?」
エドワードは実典を睨んだ。怒りは込められてはいなかった。嘘を見抜く大人特有の追及の目。
「何が言いたい?」
実典もエドワードを睨み返す。自分の感情を取り繕う偽善者の目だった。
「今のままでうまくいくと思ってるのか?優しくされ、抱きしめられ、贈り物まで渡されて果てには添い寝だと?男なら誰だって勘違いする。そんな状態で目の前で待てを食らって男なら生殺しも同然だ。希望だけ与えておいて目の前から奪い去る。お前がやってることは男にとっては最も残酷な行為だ」
茶碗を掴む実典の手に力がこもった。そんなこと、言われなくてもわかってる。でも他にどうすればいいんだ。
「別にお前が悪いとはいわない。あいつのことだ。何度断ってもストーカーのように粘着するだろう。問題なのはお前の気持ちだ。お前はケヴィンをどう思ってるんだ」
「ケヴィンのことは……あいつは恋してる時は目が輝くのよ。いつもは希望が抜けた空っぽな目をしてるのにその時だけは本当に嬉しそう。今のケヴィンには必要なのよ。恋が」
実典は語る。
「そういうことを言ってるんじゃない」
エドワード首を振って否定した。
「お前はケヴィンが好きなのか?」
「……」
実典は黙り込む。
「そんな感情はとうに捨てたわ。私はもう男を好きになるつもりはない。嫌でなければそれでいいと思う」
実典ははっきりとした口調で言った。そんなことを話しているとリビングの戸が開きウィリアムが入ってきた。
「おはよう。うーちゃん」
「オハヨウゴザイマス」
ウィリアムは丁寧に挨拶をする。そして、リビング中央の長椅子に腰掛けた。ウィリアムが席に着いたことを確認すると実典は立ち上がりエプロンと頭巾を着用し、キッチンへ向かった。
「今から朝食の準備をするね」
「またベーコンエッグナノ?」
ウィリアムは無邪気に問う。核心を付いた問いに実典はぎくりと身を硬直させ、唾を飲んだ。
「えぇと、いや。その」
あたふたと取り繕うが別のメニューが出てこない。最近メニューを考えるのが億劫でいくつかの料理をルーチン化させて出していた。が、ついにバレた。
「お好み焼きが食いたい」
エドワードが言った。
「えっ?」
「昨日はテレビでやってたからな。材料なら昨日買っていただろう?」
「あ、うん。作るよ」
思わぬ助け舟に実典は感謝した。冷蔵庫からキャベツとお好み焼き粉を取り出して台所に運ぶ。キャベツの玉だけは手に持ったままエドワードの席に向かった。
「何だ?」
「みじん切りにして。得意でしょ?」
実典は真面目な顔で言った。
「やれやれ、とんだめんどくさがり屋だ」
エドワードは呆れたように言うと優しく笑った。キャベツを受け取り片手に持つとキッチンに向かい戸棚から包丁を取り出した。包丁を振るうと華麗な動作で刃が回転しキャベツの玉は一瞬にして細切りの束になった。
「どうだ?」
「すごいです。エドワードさんかっこいい」
実典は惚れ惚れとしながら言った。エドワードは誇らしげに実典を見下した。

自分はケヴィンの事が好きなのだろうか。

夕方、日が落ち始めた頃、実典は近くのスーパーマーケットまで行く道のりで考えた。線路沿いの閑静な田舎町を無言で歩く。
一緒にいて嫌ではない。空気のような存在だろうか。それも違う。そもそもあいつは一体なんなのだ。いつの間にか彼氏のような立ち位置になっているがあいつを彼氏にした覚えはない。一年待てと言ったのにすっかり忘れている。全く自分勝手なやつだ。
そう思うと実典はくすりと笑った。スーパーマーケットまですぐそこだったが実典は何となく遠回りしたくなって民家が並んでいる角を曲がり静寂に包まれた歩道を歩いた。
ケヴィンの顔を思い描く。確かにエドワードの言うことにも一理ある。あれだけのことをしておいて付き合わないと言うには身勝手かもしれない。結局自分の都合で待たせているだけだ。
実典は考えた。もし正式に付き合おうと自分が言ったらどうなるのだろうか。ケヴィンは花の様に美しい顔で踊る様に喜ぶだろう。その光景を想像すると実典は微笑んだ。そしてあることを決める。
ケヴィンにちゃんと付き合おうと言おう。そしてケヴィンが望むのなら男女の関係にもなろう。正式に交際してそれでケヴィンが納得するならそれでいい。その結果自分が飽きられて振られたとしてもその時はその時だ。今日帰ったら自分からケヴィンに告白しよう。好きです。付き合ってくださいと。実典は決心を固めた。

「そういえば……」
実典は心の中で呟いた。殺人鬼更生プログラムの終わりって、どこにあるんだろうと。

 

ーー突如、背中に凄まじい悪寒が走った。ーー

 

実典は体を抱きしめ咄嗟に身をかがめる。全身の皮膚に鳥肌が立つ。目は見開き見たくもないのに正面を見ようとする。
日は既に落ち周囲は暗闇で閉ざされていた。数少ない街灯の頼りない灯火だけがチラチラと点滅している。暗闇と光の交差。光は切れては付いてを繰り返す。ばちばちと音を立てながら光と闇を切り替える。実典は前を見たくなかった。正体不明の怪異が目の前で踊っている。一瞬、光に照らされ屍肉が露わになる。再び暗闇に溶ける。その繰り返し。

実典は無意識に顔を上げた。目玉だけが異形のものを見る。蛍光灯は弱々しく、それを照らした。

一本足の怪物だった。
正確に言えば足はなかった。両手は後ろ手に一体になり、胴から先は屍肉が飛び出てナメクジのように太く体を支えていた。どう見ても人とは違うもののはずなのに、顔はまがいもなく人間の見た目をしており、大きな口を歪めて笑い、大きな目は極限まで細められ曲線を描いている。体はくねりと曲がり、屍肉の一本足で跳ねては逆方向にくねりと曲がる。独り言のように何かを呟きながら移動を繰り返す。

逃げなければ。微弱な明かりの中で本能が訴えた。
だが、体は動かなかった。今動けばあの不吉な存在に見つかってしまう気がした。実典はとにかく身を縮めてそれが去るのを待っていた。

ぐちゃり。


ぐちゃり。


ぐちゃり。


屍肉が跳ねてはコンクリートにぶつかる音が響く。


ぐちゃり。


ぐちゃり。


ぐちゃり。


その音は少しづつ距離を縮め、近づいてくる。


ぐちゃり。


逃げなければ。逃げなければ。


ぐちゃり。


逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。
頭の中で警鐘がなった。焦りだけが頭を支配して体は動かない。閉鎖された異様な空間に怪物と自分だけが取り残されている。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。


……ぐちゃり。……ぐちゃり。


音が遠のいっていった。どうやら気づかれる事なく通り過ぎたようだった。実典は恐る恐る顔を上げる。

「ひいいいっ!!!」

目の前には異形の怪物が自分を見ていた。
細められた目が少しだけ開き、目が合う。

「ひっ……」

実典は小さく悲鳴を上げた。体全体に冷たいものが走り急激に温度が低くなっていく。そして思う。どうして、自分がこんな目に……?

「ドオシテ……?」

怪物はニンマリと笑うと言った。その口から異様な匂いが漂ってくる。

「ドオシテ?ドオシテ?ドオシテ?」

笑い声の混じった異様な金属音が、壊れたラジオのようにリピートした。灯りは完全に消失し、周囲は完全な闇で閉ざされた。

「いやあああああ!!!」

女に叫び声がこだましたが。その声が届くことはなかった。

実典が目覚めると周囲はコンクリートの壁に包まれた閉鎖空間だった。窓ひとつなく電灯の薄暗い明りだけがパチパチと鳴っている。入り口は鉄の扉ひとつ。それ以外には何もない。
実典は全裸だった。包帯をゆるく巻きつけられた状態で座り込んでいた。包帯には赤い染みが滲んでいる。実典自身には怪我はない。実典の血ではなさそうだ。何者かの血。

扉が重く軋みを上げ、開かれた。実典は顔を上げ生気のない目でそれを見る。出てきたのは短髪の少年。爽やかな風貌でブラウスと黒のズボン。そして黒いジャケットを着ていた。身なりは整っていて顔立ちも綺麗だった。金髪で年は15、6と言ったところか。
その少年の後を追うように一本足の怪物も現れた。屍肉の音を立てながら異様な笑みで部屋に入ってくる。実典の顔が恐怖で歪んだ。

「こんにちは。お姉さん。初めましてだよね」
少年は実典に向き合うと丁寧にお辞儀した。実典は何か言いたかったが舌がうまく回らない。
「驚いてる?そうだよね。いきなりこんなところ連れてこられたんだもん」
少年は明るい笑みで言った。
「色々考えたんだけどね。やっぱりこうするのが一番だと思うんだ。君はよくやってくれたみたいだね。悪魔の使いをあんなになつかせて。びっくりしたんだよ?あんなに打ち解ける人間なんていないと思ったからさ。すごいよね!みんな君のことが大好き。本当にすごい。本当に」
少年は歯を見せ片目をひどく歪ませた。
「目障りな女だよ」
急激に変わる少年の態度。
本当は思わず硬直する。
「君は魔人一体生み出すのにどれだけのコストがかかるか知ってるかい?数少ない優良な魂を見つけて天使達の目と運命をかいくぐって長い年月をかけてゆっくりと熟成させるんだ。そうして不条理な運命から逃れた人間だけが魔人となり強力な悪魔の下僕となる。それを……」
少年は実典を見下した。
「分かるか!?こんな女に掠め取られた悔しさが!!せっかくコトコト煮込んで手に入れた優良な駒が全部お前のものになっちまった!!?あれを手に入れるのにどれだけの時間と手間を要したと思う!!?」
少年は屈んで至近距離から見つめた。実典は壁にもたれかかり必死で距離を離そうとする。
「悪いんだけどさ。お姉さん。死んでくれないかな?」
少年は忌々しげに実典を睨むと両手を重ねて謝るように言った。実典は小さく悲鳴をあげる。
「あははは!どんな死に方がいいと思う!?指10本にガラスを刺してから殺す!?その腹から大腸を引きずり出して巻きつける!?それともこいつに犯してもらおうか!!?楽しみだなあ!!」
少年は楽しそうに笑った。少年の背後の怪物もニンマリと首をかしげる。実典は恐怖で顔が引き攣り呻きながら逃げようと必死でもがいた。
「安心してよ。僕は天使みたいに鬼じゃないからさ。そんなことはしないさ。それに……」
少年は実典の顔を至近距離で見つめた。目と目が合う。少年の目に宿る異様な魔力。
「直接殺すより精神を殺した方が効率的なんだよね」
実典の目が見開き、一瞬にして意識が落ちた。麻酔を打たれた時のように抗う隙も与えず実典の体が倒れこむ。
少年は狂笑していた。大きく口を開け狂ったように笑い続けていた。異様な空間だけがそこにあった。


時刻は19時半。殺人鬼たちがリビングに集まり、ただひたすらに待っていた。買い物に出た実典が一向に帰ってこない。勿論時刻的に帰ってこなくてもおかしくは無い。実典は大人だ。遅くなることもあるだろう。だが殺人鬼たちは一様に嫌な気配を感じ取っていた。言葉にはできない。何か。
「ヤッパリ…探そう…ミノリを」
ウィリアムは口を開き静寂を破った。気味の悪い不安感が胸に渦巻いていた。
「そうだな……」
エドワードは立ち上がる。ケヴィンも立ち上がった。
「お前はここで待ってろ」
エドワードはケヴィンに言う。
「どうして」
「もしかしたらミノリが帰ってくるかもしれない。そしたら俺に連絡しろ」
「……分かった」
ケヴィンは椅子に座りなおした。そして頭の中でとある算段を考える。
「天使ニハ言わないの?」
ウィリアムは問う。エドワードは首を振った。
「辞めた方がいい。あいつらにとって実典は手駒でしか無い。少しでも使い物にならないと簡単に切り捨てる。最悪実典の命が危うくなる」
ウィリアムは身を硬直しエドワードを見た。不安げになったウィリアムを見てエドワードは笑う。
「安心しろ。今のはあくまでも可能性のひとつでしかない。きっと大丈夫だ」
エドワードは言ったが、内心は最悪の可能性を考えていた。ケヴィンを家に残したのもそのせいだ。なるべくは戦闘力の高い者で行動したい。おそらく今夜、戦闘になるだろう。

エドワードは家から北側を、ウィリアムは南側を探して回った。カードなどが入った財布や貴重品は家においてあった。おそらく軽い買い物をしてすぐ帰宅するつもりたっだのだろう。二人は家の周辺を駆け回り探索した。
コンビニまで至る道路、スーパーまで至る線路沿い。付近を探索するうちに実典の居場所はすぐに特定できた。なぜならとある地点に近づくにつれ禍々しい邪気が漂っていたからだ。
「ナニコレ……」
ウィリアムは一言呟くと嫌な考えに支配された。民家に囲まれたレンガ通り。その中央に真っ黒な蛆のようなものが密集していた。周囲は音がなくなったかのように静止しており生きているものの気配がない。この空間だけ現実世界と裏返ってしまったような違和感。
「あーあ、見つかっちゃたかー」
ウィリアムの背後から声が聞こえた。振り向くとそこには男がいた。身長はウィリアムよりも少し低い180センチかそこらだろう。黒髪のボサボサの頭で口には無精髭が生えていた。よく鍛えられ引き締まった体が印象的だ。
ウィリアムは手を背後に敵の死角に移し携帯の発信ボタンを押してズボンの後ろポケットに戻した。
「はじめまして。俺の名前はデスロックとでも名乗っておこうか?良い名前でしょ?中二っぽくて」
「ミノリはどこだ!?」
ウィリアムは叫ぶ。
「安心しろ。肉体は何一つ怪我しちゃいねえ」
デスロックは笑った。
「肉体はな……」
「ミノリは関係ない!離せ!」
「できねえな、今お楽しみ中なんだよ」
「なら力づくでも吐かせる!」
ウィリアムは左手に斧、右手に鉄の剣を出現させた。斧は先端の刃が曲線に絵を描き、銀のプロテクターで装飾されていた。鉄の剣はシンプルな両刃の形状をしており、ずっしりと重い大剣であった。だがウィリアムの巨大な体と比較されて小さく見える。ウィリアムは一度姿勢を低くすると地面を蹴り上げデスロックに向かって突進した。
「二刀流の殺人鬼、生前使用していた武器か」
デスロックはそうつぶやき右手を前方に構えると大型の散弾銃が光をまとって現れた。ウィリアムは相手の武器を視界に入れると、即座に側面に跳ね民家の角に背を預けた。銃声が背後で鳴り響く。
ウィリアムは壁から様子を見、半身を乗り出し右手の斧を投げた。斧は鈍く弧を描きデスロックに向かう。デスロックは冷静にショットガンで斧を弾いた。斧は軌道を変えてあらぬ位置に刺さった。銃を発射したことで生まれた一瞬の隙をウィリアムは見落とさなかった。ウィリアムは影から飛び出るとジグザグに移動しながらデスロックに向かっていった。
「くそっ」
何発か撃ったが弾は当たらなかった。予想以上に動きが早い。ウィリアムの鉄剣が振り下ろされ、それを銃身で受け止める。高らかな金属音を立てギリギリと鍔迫り合いの状態になる。

そしてその光景を見ていたものがいた。

-やはり、ウィリアムを選択したのは正解だった。-

エドワードは影で二人の戦闘を覗きながらそう思った。ウィリアムからの着信を受けエドワードは速やかに移動した。場所はすぐに見つかった。近所であることと禍々しい魔力は遠目でもわかった。予想するに敵は二人。入り口を監視する魔人と実典を攫った魔人。エドワードは戦闘を良く観察すると、鍔迫り合いになったのを見計らい気配を消して移動した。片手に無造作に鍛えられた鉄の大剣を出現させ地面につきたてた。空間が大きく歪み闇に包まれていく。そしてその歪みにデスロックも気付いた。
「これは……空間が歪んでいる?」
デスロックはウィリアムを弾き退けるとつぶやいた。
「やられたか……」
「お前の相手はオレだ!!」
ウィリアムは叫ぶとデスロックに突進した。

 


銃声。

 


エドワードが目を開けるとそこはコンクリートのビルだった。無機質な通路にぽつんと立たされていた。エドワードは剣を握りなおすと慎重に通路を進んだ。周囲は静まり返り異様なほどに静かだった。焦る気持ちを抑え暫く歩いていると鉄の扉に行き当たった。エドワードは慎重に扉に添いノブを回す。
扉の隙間から部屋の内部が覗くことができた。何もない空間。部屋の中央には実典と少年がポツリと残されている。床には魔法陣のような幾何学な図形があった。実典は全裸で包帯のようなものを巻き付けられていた。その光景を見た瞬間、エドワードの頭に血が上った。

扉を勢いよく蹴り倒しエドワードは少年に向かって突進した。少年は一瞬だけ怯み腕を構えて包帯を出現させる。包帯がエドワードの腕に絡みつき動きを封じたが剣が振り下ろされるのを止めるまでには至らなかった。エドワードの振るう剣が少年の頬をかすめた。
「フリーの状態でよくここまで……この女はそれだけあなたにとって大切ですか?」
「お前は殺す」
そう言ったエドワードの表情は暗く無表情だった。その目には強い憎しみと怒りが込められていた。隠すことすらしない。エドワードは少年に向かい突進し剣を振るった。少年は跳び退いて剣を避ける。
「目的はすでに達成されました。ここで引き下がるとしましょう」
少年の体は赤く禍々しい泥となって消えていく。
「せいぜい彼女との日常をお幸せに」
少年は笑いながら言い残した。エドワードはすぐさま実典に駆け寄るとその体を抱き上げた。呼吸はしている。鼓動もある。暖かい。血の通っている生きた人間だ。傷や暴行の後もなかった。エドワードは実典に自分のコートをかけると背中に背負った。自分の不甲斐なさに愕然とした。人より圧倒的に強い力を持っていながら女ひとり守れなかった。悔しさに唇を噛み締めていた。

エドワードは実典を家に運ぶと実典のベッドに寝かせた。ウィリアムとケヴィンの3人で実典の目覚めをただひたすらに待った。皆同じ思いを抱えていた。自分自身に対する不甲斐なさ、そして実典を巻き込んでしまったことへの罪悪感だった。朝の途方も無い不安を抱えながら数時間が立ち朝を迎えた。日差しとともに実典の目が開いた。
「ミノリ!!ミノリさん!!?」
まずはじめに実典に呼びかけたのはケヴィンだった。実典の意識が戻った瞬間、何よりも嬉しかった。その目に涙を浮かべ、喜びの表情で実典を見た。実典もケヴィンを見た。そしてその目を大きく恐怖で歪め叫び声を上げた。
「いやあああああああああああ!!!」
喉の奥からあらんばかりの叫びが吐き出される。
「くるな!私に近寄るな!このバケモノ!!人殺し!!お前なんか人間じゃない!!出て行け!!この部屋から出て行け!!殺人鬼!!!」
実典は狂った様に叫ぶとそこら中のものをケヴィンたちに投げつけた。花瓶が割れ、破片が散らばった。
3人は突然のことに硬直していた。優しかった実典の目が自分たちに対する憎悪で染まり激しい呪いの言葉を吐き続けていた。
「出て行け!!出て行け!!クズ野郎!!クズクズクズ!!人殺し人殺し人殺し!!死ねえええぇえ!!」
実典はただひたすらに甲高い声で叫び続けた。絶叫し狂乱の表情でそこらにあるものを投げつける。殺人鬼たちは戸惑った様にそれを見ていることしかできなかった。