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【殺人鬼と三角関係】第16話 リセットされる感情

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夜。リビングには二人の男がいた。スキンヘッドの大男と金髪の大男。彼らは深刻な面持ちだった。リビングには沈黙が降り、静まり返っていた。その静寂を、金髪の大男ケヴィンが破った。

「この薬を飲ませれば、彼女の記憶から僕たちの記憶が消える」

ケヴィンはジャケットの胸ポケットから小さい小瓶をテーブルの上に乗せた。

「これをお茶に混ぜて、ミノリに飲ませるんだ。一晩寝れば嫌なことはすっかり忘れられる。最後にミノリに話して……それから飲ませてよ」

エドワードは無言でその薬を手に取った。液体の色はやや茶褐色で魔女の薬という割に地味な見た目だった。

「お前がやってよ。僕にはできない。ミノリの思い出を消すなんて、できるわけないじゃないか!あんなに、一緒にいたのに。愛し合ったのに。それが例え、偽りでも」

ケヴィンの声に涙が混じる。今まであった様々な思い出が頭に浮かんだ。実典に抱きしめられ、撫でられ、キスされ、それがすべて失われてしまう。すべて。

「分かった」

エドワードは立ち上がる。そしてヤカンに入ったぬるいお湯でお茶を入れるとそこに薬を混ぜた。湯のみを手にリビングを出て実典の部屋に続く階段を上がる。しかし階段をすべて上り廊下に出ると、ウィリアムが実典の部屋に立っていた。まるで行く手を阻むように。

「ミノリの記憶を消すの?」

ウィリアムは俯いたまま、エドワードの気配を察知するとふらつきながらエドワードにすがりついた。

「お願い!ヤメテ!ミノリの記憶をケサナイデ!!」

「やめろ、ウィリアム!」

「消しちゃダメ!!ミノリのカエテシマワナイデ!!」

ウィリアムはエドワードの腰にすがりついたまま叫んだ。

「離せ!これしか方法はない!」

思わず語気が荒くなった。

「イマノママデいい!!今のままデ!」

狂った音階、回らない舌。それでもウィリアムは必死で叫んだ。

「オレたちのことをキラッテもミノリはミノリだ!!ミノリがオレたちを嫌いにナッテモいい!お願い!!ケサナイデ!!」

その目からは涙があふれた。エドワードはウィリアムの体を引き離すと、ウィリアムを見下し、静かに言った。

「実典が苦しんでいる。本来なら経験するはずのない苦痛を受けたんだ。俺たちのせいで。今、実典を助けてあげよう」

ウィリアムはエドワードから手を離しその場に跪くと声にならない悲鳴を上げた。涙の混じる苦痛がその声に混じっていた。エドワードはウィリアムを避けて実典の部屋に向かった。ノックを数回鳴らす。

「どうぞ」

かすかに、扉の向こうから声が聞こえた。扉を開けると、そこには実典がベッドから体を起こした状態で待っていた。目の下にはクマができ、うつろな目で正面を見据えている。表情からは何を考えているか分からなかった。

「ウィリアムの叫びが聞こえてね、何事かと思ったんだ」

静か過ぎる声で、実典は言った。

「そうか」

エドワードはその場に立ったまま動かなかった。

「こっちにこいよ、話があるんだろ?安心しろよ。物をなげたりしないから」

エドワードの纏う空気から何か重大な話があると悟ったのか、実典から話を振った。エドワードはゆっくりと実典に歩み寄った。

「今からお前の記憶を消す」

実典の眉がかすかに動く。

「この薬を飲めば、お前にとって最も嫌な記憶が消える。何もかも忘れられるんだ。あの時受けた拷問の記憶も……」

「やめて!!」

実典は叫んだ。

「……お前のためなんだ」

「お前のためだって?」

実典は嘲るように笑った。

「自分のための間違いだろ?そうやって都合の悪いことを忘れさせて、また一からやり直しか?いつもお前は自分勝手なんだな。部下たちにも同じことをしてきたのか?洗脳させて、酷使して、都合の悪いことはすべて無視してさ。同じことを私にするのか?自分の都合に合わせて他人の記憶や生き方までいじくる。本当に最低な奴だよな。お前って」

「いい加減しろ!もうお前の愚痴につき合わされるのはうんざりなんだよ!!お前はお荷物だ!邪魔なんだ!いい加減薬を飲んで元に戻ってくれないとこっちも迷惑なんだよ!」

初めて語気を荒げるエドワード。実典は黙り込み布団を見つめていた。

「いいよ、くれよ。薬を」

エドワードはその場に屈むと、湯飲みを実典に差し出した。実典は差し出された湯飲みを受け取ると、その中に満たされた液体を見つめた。これを飲めばすべてを忘れられる。恐怖を、あの拷問の記憶を、彼らの恐ろしい本質もすべて。

「……」

実典の手が震えた。嫌なことも消える。でも良いことも消えてしまう。彼らと一緒にいた日々。たくさんのことがあった。喧嘩もしたが楽しいこともあった。孤独な自分の人生がたくさんの楽しいことであふれた。友達なんてほとんどできたことがなかった。その上いつも裏切られてばかりだった。職場でも学校でも実典はいつも一人ぼっちだった。なのに一度に3人の友達ができた。帰ればいつも仲間がいて、一緒に遊んでくれる友達がいて、自分を好きだとささやいてくれるひとがいて、自分を親のように慕ってくれる子供のような存在がいて、それがすべて忘れてしまう。すべて。すべて。

知らぬ間に手が震えていた。意識が遠のきそうだった。思わず湯飲みを落としそうになる。エドワードは実典の手を握った。実典は拒絶することなく、口を開いた。

「最後に……ひとつだけ……聞いてくれる?」

「何だ?」

今まで以上に暗い声だった。実典は目線を変えないまま、淡々とつぶやいた。

「今まで、ありがとう」

搾り出すような声。

「……」

「散々酷いことを言ってごめんなさい。物を投げてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。私甘えてたのかな、みんなが優しいから、ずっと甘えてた」

「……っ!!」

「私の精神が辛いです。すごく嫌なことをされました。私はすごく可愛そうです。そんなことばかり考えてた。それで当り散らしていたの。すべてをあなたちのせいにして、私は自分の気晴らしをしていただけ。最低なのは私。本当にごめんなさい」

実典の声が震え始めた。

「エドワードにも酷いこと言った。ケヴィンのことも傷つけた。うーちゃんは…うーちゃんは一番傷つけた。あの子、私しかいないのに。私を一番慕ってたのに!拒絶して悲しい顔させて……ごめん、ごめんね」

実典の声に涙が混じり始める。

「大好きだよ。みんな大好き。なのに、心が納得してくれないの、受け入れてくれないの。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。足手まといで、迷惑かけて、私、本当に最低だよね。ごめんね、こんな私だけど、またお茶をして、喧嘩して、たくさん遊ぼう。それで恋をしよう。こんどは普通に普通に」

「止めろ!!」

エドワードは実典の体を抱き止めた。湯飲みは手のひらから落ちて転がり床に内容物をこぼした。

「止めろ……」

エドワードは静かに言った。実典の瞳から一筋の涙がこぼれた。そして実典の悲痛な叫びが夜空にこだました。