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【殺人鬼と三角関係】第17話 勝手な決断

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実典は玄関の前で立ち尽くしていた。外に出たい。なのに体が硬直して動かない。胸に疼く恐怖心。この先には何もないはずなのに殺人鬼が待ち伏せしている。扉を開けた瞬間首を撥ねられてしまう。そんな錯覚にとらわれた。
実典は首を振った。そんなことあるわけがない。考えすぎだ。そして意を決し、足を一歩踏み出した。素足がサンダルに触れ、ゆっくりと扉に近づく。そして玄関の鍵をゆっくりと回し扉を押した。隙間から外の世界が見える。同時に人影も映った。人影はこちらに気づくと人ならざる速度で走り大剣を振りかざす。跳ねられた自分の頭。血を吹き出しながら転がっていく。頭の中が血の味で充満していくような錯覚。急いで扉を閉めた。ガシャンと乱暴な音が玄関にこだまする。全て実典の妄想だ。そして実典はずっとこの妄想に苦しめられている。自分が殺される妄想。水は血に、食物は人肉に、夢は拷問に。だから眠ることもできない。彼女の見ている世界は以前とは違うものだ。

 あの日、彼女は被害者たちのありとあらゆる惨殺を体験した。

「ここは、どこ」
 薄暗い工事現場に立った実典。周囲は暗く、ランプの明かりが辛うじて光を灯していた。周囲を観察しながらゆっくりと進む。瓦礫を踏む音が響いた。自分ではない男の足音だった。実典が気づいた瞬間、背後から振り下された鉄の大剣によって腕がもがれた。正確には腕は取れていない。腕は千切れ皮一つの状態で繋がっていた。痛みはなかった。突如のことに体が反応しきっていなかったからだ。実典が前を見るとそこには男がいた。それはよく見知った人物、エエドワードであった。
「エドワード?どうして……」
 エドワードは無言で実典の髪を掴むと乱暴に引きずった。そしてそのまま工場のの中心まで引き摺られる。
「いや!やめて!やめ!」
 叫んだがうまく言葉にはならなかった。顔が瓦礫にぶつかり出血し肌が擦れる。
 エドワードは実典の頭を掴むとその頭を工場の壁になんども叩きつけた。

 ガンっ!!

 鋭い鈍痛。悲鳴をあげる暇もなかった。

 ガンッ!!

 頭の中が血で満たされる。口の中に鉄のような苦い味が充満する。

 ガンッ!!

 痛い痛い痛い。

 ガンッ!!

 止めて止めて止めて。

 ガンッ!!

 助けて助けて助けて。

「ミノリ!ミノリ!」
「いやあああああああ!!」
 実典は絶叫してベットから起き上がった。目の前にはエドワードの姿があった。心配そうにこちらを見ている。
「いやあああああ!触らないで!!!」
 実典はエドワードの姿を確認すると手元にあった花瓶をエドワードに投げつけた。ガラスが割れて破片が飛び散った。。
「あ、あ……」
「大丈夫だ」
 エドワードはそれだけ言うとガラスを回収して部屋から立ち去った。
 実典はベットに体を預けた。またやってしまった。


 エドワードはガラスの破片を処分するとリビングに戻った。キッチンのコンロには鍋がかけられておりグツグツと何かを温めている。
 エドワードは蓋を開けるとお玉で中の雑炊を掬いお椀に移した。卵の雑炊だった。昼食として用意したものだ。スプーンで一口救って口に運んだ。そしてスプーンを傍らに置き、鍋の中身をゴミ袋に捨てた。
「不味い飯だ」
 一言、そう呟いた。

 実典は呆然とベットに座り込んだまま俯いていた。眠ってしまうとまた嫌なことを思い出す。眠りたくなかった。怖かった。どうすれば忘れられるんだろう。どうすればまた元に戻れるんだろう。
 そんなことを考えていると私室のドアが開いた。目をやるとウィリアムが臆病な目でこちらを見ていた。
 そして恐る恐るこちらに近づくと、鍋を持ってベットまで歩いた。

「ミノリ、これ昼ごはん」
 ウィリアムは鍋を開けた。中には卵の雑炊があった。実典の好物だ。だが今ではそれが血肉に見える。

 実典は思う。彼に関する記憶はコンクリート廃墟で行われた。廃墟に置き去りにされた実典は永遠と彼に追い回された。そしてその斧で体をバラバラにされた。何度も何度も。だから見つからないように隠れた。その間彼女の中には恐怖しかなかった。かつてはその醜い外見に何の感情も覚えなかったが、今では彼のその醜い顔を見るとおぞましい感情に支配されてしまう。バラバラになった死体の山に捨てられる自分の体。

 実典は目を見開くと鍋を叩いて中身をぶちまけた。鍋の熱い内容物がウィリアムの体にかかった。
「食べられるわけないじゃない!!そんなもの!!!」
 ウィリアムは狼狽したように実典を見た。
「殺人鬼が作った食べ物なんて!!!」
 実典は叫ぶ。ウィリアムは胸を抑えひどく傷ついたように実典を見つめた。実典はウィリアムの目を見る。その目にはウィリアムを拒絶する嫌な顔をした自分の姿があった。実典は初めてそこで背筋が凍った。傷ついたウィリアムの表情、拒絶する自分の姿。それぞれを見比べ自分の犯した過ちを知る。実典にとってウィリアムが傷つく姿は他の何よりも辛いものだった。ウィリアムには自分以外愛してくれるものがないのに。自分を親のように思っているのに、自分は何をしているんだ。
「ご、ごめ……」
 実典は慌てたように謝ろうとした。思わず目を逸らす。ウィリアムはゆっくりと近づくと実典の手を布巾で拭った。
「ヤケドしてる……」
「……」
 赤く腫れた実典の手を優しく包んだ。実典は自己嫌悪に苛まれる。
「薬持ってくるね」
 ウィリアムは実典を見つめ言った。
「ウィリアム……あなたのことだけが唯一わからなかった……」
 ウィリアムは不思議そうに実典を見た。
「あなたはなぜ、あんなところに閉じ込められていたの……」
 実典は問う。ウィリアムは答えなかった。


 ウィリアムが部屋を出て程なくするとケヴィンが現れた。ケヴィンは恐る恐る実典の部屋に入ると慎重に実典に近づいた。右手には救急箱が握られている。実典はケヴィンを視界に入れると一瞬だけ身を震わせた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」
「……ごめん」
 ケヴィンはベットのそばに跪き救急箱から包帯と消毒薬を取り出した。
「ヤケドしたって聞いたからさ。治療しにきた」
「……」
 実典は無言で片手を差し出した。ケヴィンはコットンに消毒薬を付けて腫れた肌にあてる。消毒薬を散布するとその上から包帯を巻いた。
 会話はなかった。実典は震えている。自分のことが怖いのだとケヴィンは思った。
「ケヴィン」
 突然名前を呼ばれケヴィンは驚いた。
「なに?」
 一瞬、間を置いて返事をする。
「お願いがあるの」
 実典は静かな声で言った。
「あのとき、悪魔が使った魔術をもう一度私にかけて欲しいの」
 ケヴィンは目を見開き思わず立ち上がった。実典がびくりと怯える。
「僕に使える魔術じゃない」
「嘘」
 実典はケヴィンを見上げて言う。
「わかるのよ。得意なんでしょ」
「嫌だ」
「お願い!」
 ケヴィンはかぶりをふって拒絶した。
「そんなことをしたらあなたの心が壊れてしまう」
「これしかないのよ!いつまでたっても心がかわらないの!こんなのはもう嫌!死にたくても死ねないしこんなトラウマに縛られたまま生き続けたくないの!!」
 実典は手を握りしめた。
「私はもう一度あの魔術を受けるわ。そして死の記憶を乗り越える」
「ふざけないでください!」
 ケヴィンは実典に背を向けた。
「お願い。あなたにしか頼れないの」
「……」
「いまのままじゃ約束守れないのよ」
「守らなくていい」
 ケヴィンは背を向けたまま言った。
「あなたが犠牲になるなら約束なんていらない」
「私を一生抱けなくてもいいの?」
「……」
 ケヴィンは黙り込んだ。
「ケヴィン、これは必要なことだったのよ。あなたの罪を見ようともしないで愛だけ欲するなんて都合のいいことはないのよ。愛し合うなら私はあなたの殺人を受け入れなければいけない。だから……」
その言葉は誘惑に似ていた。自分を納得させるための実典の嘘だ。分かっているのに、揺さぶられてしまう自分がいる。
「今夜……」
 ケヴィンは絞り出すように言った。
「今夜また来ます」
 それだけ告げて部屋を出る。嫌なことばかりが降りかかる。それでも実典がまた元どおりに戻るかもしれない。その淡い希望はケヴィンに対して絶対的な強さを持っていた。

 深夜、月が満ちた頃ケヴィンはロウソクに火をつけ実典のベッドの前で跪いた。皿の上に果実典を乗せ、実典の指先をナイフで切り血を垂らした。そして自分の血をレモンに混ぜる。
「目を閉じて」
 実典は言われた通りベッドに横たわり目を閉じた。
「意識が落ちたら追憶が始まる。自分の心をしっかりもって。そしたら恐らくは……」
 ケヴィンは実典の額に指を当ててぶつぶつと異国の言葉を呟いた。ゆっくりと意識が曇り実典は悪夢の中に取り込まれた。
 ふと気づくと切断用の機械が目の前にあった。壁は白く血で汚れていた。大型の機械は両辺に刃物が備え付けられ血で錆びている。そして引き裂かれた人肉がそこら中に転がっている。ケヴィンによって惨殺された死体と一緒に。
部屋から廊下を見渡せる窓からケヴィンがフラフラと歩くのが見えた。焦点の合わない目で完全に気を違えており目の前の人間を虐殺する異常者と化している。実典はっきりと前を見ると扉をあけてケヴィンの前に立ちはだかった。狂った目でケヴィンは実典を見、手に持った包丁を実典の腹部に突きつけた。内臓をえぐり大腸を掻き出す。激しい痛みと共に実典は殺人鬼のおもちゃになることを選んだ。夢の世界で起こる死の苦痛はそれから何日にも及ぶことになる。