HeavyNovel |二次創作小説・Web小説サイト

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

二次創作小説やWeb小説などを取り扱っています。

【殺人鬼と三角関係】第21話 最低な嘘

f:id:tableturning:20161110123229j:image

平日の午後。部屋には誰もいなかった。家長である実典はウィリアムと共に買い物に出かけており、エドワードは仕事中だった。今日も建設現場で汗を流しているのだろう。都合が良かった。

 ケヴィンは居間を通り和室に入ると押入れの中を探った。無造作に物が押し込まれた押入れを丁寧に整理しながらとある物を探す。実典がいる前ではさすがに探し辛い。なぜなら彼が探しているのは重要な書類であったからだ。この押入れを探るのは一ヶ月ぶりだった。そして一ヶ月前。早急に手を回さなければいけないことを彼は悟る。その間、彼は人目につかない場所であらゆる手を打ってきたのだ。
「やっぱりここにはないのか……」
ケヴィンは散らかった押入れを整理し、一瞥すると戸を閉めた。まだ探っていない場所は何箇所かある。次の機会にしようと考えた。そしてその前に済ませておきたいことがあった。ケヴィンはリビングの椅子にかけていたロングコートを手に取り羽織った。そして家を出ると扉に鍵をかけとある場所に向かった。

*

 駅前の繁華街。ケヴィンは役所を出ると冷たいコンクリートに足を下ろした。用は済ませた。後は帰宅するだけだ。ケヴィンは通行人の視線を無視しながら足早に役所を去った。金髪でなおかつ美しい大男は人の視線を引いた。だが良い気はしなかった。実典が目立つことを嫌っていたから。
 ケヴィンの身長は2メートル近くある。だから早足で歩けば追いつける人間は少ない。ケヴィンは大股でとにかく早く歩いた。ずんずんと人気の無い道を進んでいく。だが、ぴったりと後をつけてくる気配があった。隠していてもわかる。魔術に関して彼をしのぐものは現代にいない。ケヴィンは邪悪な意思を感じ取りながら歩を進めた。煉瓦道を通り、線路沿いを歩く。人気の少ない遊歩道に差し掛かり暗がりに向かって歩く。そして周囲から完全に人がなくなったところで、ケヴィンはそれにむかって振り返った。
「何の用だよ。お前」
「お久しぶりね。ハンサムボーイ?」
 女は嘲るように言った。ブロンドの髪の派手な女だった。だが彼女は人ではない。悪魔だ。それかケヴィンと同じ魔を宿したもの。問題はそのいずれも魔術に通じているということだ。
「来るな。殺すぞ」
 ケヴィンはその目に殺気を宿らせた。こいつは実典を殺そうとした。ケヴィンは怒りで声が震える。
「別にあなたをどうこうする気はないわ。もちろん。彼女のこともどうこうする気はない」
 女はコツコツとハイヒールを鳴らしケヴィンに近づいた。ケヴィンはその分だけ距離をとろうとする。
「あなたに教えてあげたいの。あの女がどれほど軽薄な人間かってことを。彼女はあなたのことなんて愛していない。それを知ればあなたもこちらに戻ってくるわ」
 ケヴィンの怒りは頂点に達した。今すぐこいつを殺してしまおう。右手にメイスを出現させ身構える。しかし女は一瞬でケヴィンの前に移動した。
「教えてあげるわ。女がどれほどに薄っぺらい感情で動いているかということを!」
 女がケヴィンを睨むと目の前が真っ白になった。発動した女の魔術。ぐらりと揺れた視界。ケヴィンはその場に倒れこんだ。

*

ケヴィンが瞼を開けたときには信じられないものが目に入った。
「目を覚ました?」
 目の前にいる自分が自分に語りかける。
「は?」
 思わず間抜けな声が出た。気付くと自分の体は銀の鎖で縛り付けられており身動きが取れない。周囲はコンクリートの壁に覆われており、窮屈だった。目の前にはテレビが置かれていた。時代遅れのブラウン管。自然と画面を見つめる格好になる。
「言ったでしょ。教えてあげるって」
 目の前の自分が言う。外見は同じだったが髪は整えられており、服装も心なしか気品があった。現代に合わせた洒落た服装だ。すらりと足を長く見せるようなファッションでクールさを表現していた。コンセプトは大人の男と言ったところだろうか。いつもとは違うケヴィンの美しさを最大限まで引き出した格好。それを着た自分が目の前にいる。奇妙な気分だ。
「本田実典はあなたを愛していない。それを教えてあげる」
「何を言ってるんだ。殺すぞ」
「本田実典がすきなのはあなたの顔よ。見た目が好きなだけ。あなたが美しいから好きなのよ。顔さえ同じなら誰だって良い」
「実典を馬鹿にするな」
ケヴィンは暗い目で自分をにらみつけた。声は低く殺気を纏っている。
「私はあなたの姿で本田実典に接触するわ。そして最大限、女にとって魅力的な対応、紳士的な態度で彼女に接する。安心なさい。終わったらあなたを自由にしてあげる。でもその時、あなたは彼女を信頼できるかしら」
 偽りのケヴィンはくすりと笑う。
「あなたは確か女目当てで現世に降りたのよね。だったら女なんかいくらでも用意してあげるわよ。セックスだって好きなだけできるわ」
「実典以外の女なんかいらない。僕のすべてを理解して受け入れてくれるのは彼女だけだ」
 偽りのケヴィンは笑った。口を開けてケラケラと笑う。
「かわいそうな人。女に幻想を抱いているのね。きっと彼女、簡単に股を開くわよ。日本の女って軽いから。その時あなたは知るのよ。彼女はあなたのことなんか愛してないってね」
「ふざけるな!実典をバカにするな!!頭がすっからかんの金髪女め!!」
 その瞬間、偽りのケヴィンは逆上し、拘束されたケヴィンを蹴り上げた。
「調子に乗るなよ?お前は今拘束されてるんだ。消滅なんていくらでもできるのよ」
 そしてケヴィンを蹴り落とすとそのまま出口へ向かった。
「そこで黙ってみてなさい」
 うすら笑う偽りのケヴィン。髪をしっかりと整え、気品をまとって戦に出る。

 *

 いつでも敵を殺せる状態だ。だが早々殺してしまうのも面白くない。まずは周りをかき乱してそれから死に追いやってやろう。偽りのケヴィンはくすりと笑った。上品に、美しく。魅力は最大限にまで極められていた。本来のケヴィンは外見に対して無頓着だ。本田実典が選ぶ雑なファッションに身を包み、本田実典が無造作に、そして適当に髪をセットする。それではダメだ。
 今のケヴィンは完璧だった。品があって真面目さもある。女が最も好むものだ。今の状態であればどんな女も殺せる。そして紳士的な態度。これが重要だ。偽りのケヴィンはその足で本田実典の家に向かった。
 ケヴィンが家につくとウィリアムが庭で草むしりをしていた。愛おしそうに無造作に映えた花を眺める。こんな雑草を眺めて何が楽しいのだろうと偽りのケヴィンは思った。
「やあ、ウィリアム。庭掃除をしていたのかい?」
「……ケヴィン?いつもと違う?」
 ウィリアムは首をかしげた。醜い少年だ、と偽りのケヴィンは思った。こんなのと半年近くも本田実典は過ごしていたのか。それだけは尊敬に値する。
「一人だと大変だろ?僕も手伝うよ」
 ケヴィンは優しく微笑み手を差し伸べた。しかし驚くことにウィリアムは首を振る。
「大丈夫。俺一人で。オレ、庭掃除好き。鳥も花もみんな生きてる。育てるのがすごく楽しい」
 無邪気な笑顔。ケヴィンは思わず目を見開く。何故だか自分が酷く矮小に見えた。美しい外見。悪魔としての地位。絶対に劣るはずがないのに、なぜこんな劣等感を抱くのか。
「ケヴィン。ミノリのところはやく行って?会いたいんでしょ?」
「あ、ああ」
 ウィリアムに押され、ケヴィンは庭を出て玄関に向かった。
「ケヴィン!がんばってーー!」
 遠くからウィリアムの応援が聞こえた。やはり自分が小さく見えてしまう。

 *

 本田実典を殺すために訪れた偽りのケヴィン。その狙いは一瞬で破壊された。
 玄関開けてリビングに入ると本田実典がいた。鍵は開いていた。おそらくウィリアムが玄関から出て庭に向かったのだろう。キッチンでは鍋が煮込まれていた。ほのかな赤ワインとコクのある香ばしい香りがした。今日はビーフシチューのようだった。思わず喉が鳴る。こいつが作る料理なのだからいつでも絶品なのだろう。ケヴィンは表情は出さなかったが嫉妬していた。この料理でエドワードの心を射止めたのか。
「あ、ケヴィン。ごめんね、まだ料理できてないんだ」
 実典はリビングでテーブルについていた。背を向けて、まったく罪悪感のない様子だ。こいつはそういう女だ。口では悪いと言っていても本人はそう思っていない。
「大丈夫。僕も手伝うよ。何かできることはあるかい?」
 ケヴィンは心境に反して優しい微笑を浮かべると実典の肩をそっと撫でる。嫌らしくないように優しくだ。高い視線からじっと実典の目を見る。これも優しく包み込むように。女性を守るように接するのがポイントだ。
「えっ、あ、そう?」
 実典はケヴィンを見上げ目をきょろきょろとさせた。明らかに動揺している。これは落ちるのも早そうだ。ケヴィンは心の奥底でほくそ笑んだ。
 そんな二人の様子をケヴィンは縛られたまま見ていた。コンクリートに囲まれた狭い一室でギャーギャーと喚いている。
「ミノリーーーーー!!!そんな奴にだまされるな!!僕はここだーーーーー!!」
 本物のケヴィンは大声で叫んでいた。
 偽りのケヴィンにはその叫びが聞こえている。だからこそ面白い。人の心が掻き乱れる瞬間はいつも甘美な味がする。
「でももう煮込むだけだからやることないんだ。待っててよ」
 実典が言った。遠慮がちにケヴィンを牽制している。
「そう?何かあったらいってね」
 囁くように言うケヴィン。
「……」
 実典は黙り込んだ。
 ケヴィンはテーブルに着くと機械がセットされていることに気付いた。画面にはポップなアニメーションが描かれている。おそらく現世で流行っているテレビゲームというものだろう。今時子供じみた趣味にはまっているものだと内心馬鹿にした。
「これは?」
「あ、ああ。一人でゲームやろうかなって。暇だから」
 暇なら就職活動しろよ、と思ったがこらえた。
「じゃあ僕も参加するよ。一緒にやろう?」
 正直ゲームなどやりたくなかったがここは我慢だ。女の趣味に付き合ってやることも必要だろう。
「え、一緒にやるの?」
 実典は驚いたように言う。そして尽かさず次の言葉を吐く。
「いいけど何賭けるの?ケヴィンもうお金ないでしょ?昨日も一緒にポーカーやって全財産なくしたじゃない」
 偽りのケヴィンはそれを聞いて硬直した。金を賭けてポーカー?ゲームで金を賭ける?こいつらは普段から一体どういう遊びをしているのだろうか。
「い、いや普通に遊ぼうよ。賭け事なんかしなくても楽しいよ?」
「……?」
 実典は不思議そうにケヴィンを見た。いやどちらかというと怪訝そうだ。そしてコントローラーに手をつける。
「じゃ、じゃあ名前入れて……」
 遠慮がちに差し出されたコントローラを受け取ると名前を入力してゲームを進めていく。対戦ゲーム、ボードゲーム、パズルゲーム。ゲームの種類は多種多様だった。ケヴィンの腕加減は絶妙だった。終盤まで拮抗を描き、最後は必ず負けた。ボードゲームでは必ず実典を立てた。協力して実典が有利になるよう働いた。紳士的で協力的。これぞ接待プレイというやつだ。ゲームを一通り楽しむと、ケヴィンは最後の一撃を放ことに決めた。
「楽しかったね」
にこりと笑う。
「う……うん」
実典は釈然としないようだった。思いつめたように立ち上がり無言でゲーム機を片付ける。
「なんか、今日は大人しかったね」
「そう?」
「いつもはぎゃーぎゃー騒ぐのに」
ケヴィンは髪を流し斜めに実典を見つめた。
「僕も大人だからね。いつも実典に迷惑をかけられないから」
「そ、そう……」
「騒いだりワガママを言うのは止めたんだ。これからは大人になって実典をエスコートするよ」
「あ、ありがとう」
ケヴィンは微笑む。実典も歪に笑った。
「そうだ。実典に渡したいものがあったんだ」
「なーに?」
実典はけだるそうにケヴィンに近づいた。
 ケヴィンは懐から財布を取りだし、三万円を実典に差し出した。
「これ、生活費。僕ちゃんと就職したんだ。これからはちゃんとお金いれるからさ。足しにしてよ」
 金をちらつかせれば女は落ちる。分かりきったことだ。ケヴィンは最大限紳士的な笑顔を描いた。これで落ちる。そして股を開く。そう確信していた。
 実典は震える瞳でケヴィンを見た。両手で顔を隠し、目を潤ませながら。差し出された三万円を見つめる。少々反応が大げさだなと思った。だが実典はその場に跪きついに咽び泣いた。あまりにも感動したのだろうか。それほどまでにケヴィンという男はクズだったのだろうか。さすがに少し心配になってきた。
 そして実典は顔を上げて立ち上がる。心配が払拭された。大丈夫そうだ。そして握った三万円を実典りに差し出した。実典はしばらくケヴィンと金を見つめていたがやがて手を上げた。
 そして叫びながらケヴィンの顔を拳で殴った。
「誰だ!!お前はあああああ!!」
「えっ」
 思わず椅子から転げ落ちた。力が弱い。だから痛くは無かった。だが虚無感があった。あれほど期待させておいて出てくるのがこの仕打ちか?
 そんなことを考えていると実典が指輪に念を込めていた。天使から授けられた対魔人用のアイテムは変形して銀の鎖となりケヴィンの全身に絡みつき凄まじい力で体をねじる。
「ギャアアアアアア」
 激痛。銀の鎖が絡むだけで悪魔にとっては激痛だ。ケヴィンは思わず叫んだ。だが同時に実典も叫んだ。
「お前はケヴィンじゃねええ!!!」
 ドスの利いた声で血相を変えて叫ぶ実典。その顔には余裕が無かった。
「インフルエンザで頭がイカれたのか!?変な薬でもやってのか!!?正直に言えよ!ケヴィン!!」
 ケヴィンの胸倉を掴んでゆする実典。目は血走り正気を失っていた。
「お前が私の胸を揉まないとか有得ないだろ!!?いつもセクハラしてくるだろ!!?金が無かったら自分のパンツを賭けに使うだろ!!お前が生活費のために就職するとかありえねえわ!紳士?お前の辞書にそんな言葉は無い!この悪魔め姿を現せ!!!」
 ガクガクとケヴィンの体をゆする。鎖の力によってその衝撃は何倍にも増幅された。思わず気を失いそうになった。それを偶然庭掃除からもどってきたウィリアムが止めに入る。
「ちょ!止めてミノリ!!ケヴィンが苦しんでる!!!」
 ケヴィンはようやく実典と鎖から開放された。だが実典は納得していなかった。目を血走らせたままケヴィンを睨みつけていた。
「離せよウィリアム!!私はこいつを認めねえ!!お前なんかケヴィンじゃねえ!!!」
「ケヴィンだよ!どう見たってケヴィンだよ!落ち着いてミノリ!!」
実典は息を切らしながらケヴィンをにらみつけた。
「いいか!どんなに見た目が同じでも私はお前をケヴィンとは絶対認めねえからな!お前はケヴィンじゃねえ!周りの人間が何を言おうと私は認めねえ!わかったか!」
 ズカズカと足音を立てながら実典は玄関へ向かった。乱暴な動作で玄関の扉が閉じられる。
「はあはあ、酷い目にあった」
 ケヴィンは胸を押さえたまま立ち上がった。
「ケヴィン大丈夫?」
「ああ」
 作戦変更だ。本田実典を懐柔させるのは難しい。なんという変わり者だ。愛しの男が真面目になって喜ぶ女はいるだろうがキレて殺そうとする女は初めて見た。そもそも殺人鬼の世話係を任されている次点でロクな人間ではないのだ。想定を誤っていた。取り敢えずウィリアムとエドワードの隙を見つけて説得することにしよう。
「ありがとう。ウィリアム。お礼と言ってはなんだけどなにか欲しいものある?お菓子でもなんでも買ってあげるよ?」
 ウィリアムはきょとんとケヴィンを見た。
「欲しいものないからいい」
「ああ、そう」
 ケヴィンは心の中で舌打ちする。
「じゃあエドワードはまだ帰ってこないのかな?」
「エドワードは仕事」
ウィリアムは答える。
「そっか。じゃあ曇ってて雨が降り出しそうだし僕、迎えに行ってくるね。どうせ傘持ってないでしょ。エドワードは」
 ケヴィンは部屋を出て玄関に向かった。それをウィリアムが見送る。
「ケヴィン、どうしたの?」
「ん?」
「ミノリの肩を持つわけじゃないけどいつものケヴィンはそんな白々しくプレゼントしたりエドワードを迎えに行ったりしない。そりゃ優しいところもあるけどそんなあからさまじゃない」
「そんなことないよ」
「ケヴィンはミノリを見ればすぐ欲情してセクハラするしあんな紳士的になるわけない」
 偽りのケヴィンは思う。普段のこいつはどれだけクズなんだ。
「今のケヴィンは嘘のケヴィンだよ。きっと何か辛いことがあったんだよね。何かあったのならオレに話してよ。オレ相談にのるから」
 ウィリアムはそう言うとケヴィンに背を向けた。実典だけでなくウィリアムすら信用しなかった。何故だか途方も無く面倒になってきた。仕方がない。もうケヴィンのフリはいい。とっとと解放してしまおう。
 ケヴィンは玄関を開けて外に出ると魔術を解いて女の姿に戻った。そして指を鳴らす。拘束されたケヴィンの鎖が解かれ自由になる。自由になったケヴィンが早々に去っていく気配を感じ取った。程なくしてここに戻ってくるだろう。
 計画は完全に失敗だ。女はため息を一つつくとその場を立ち去った。コツコツとハイヒールの音を鳴らしながら思慮にふける。まあいい、このツケはエドワードに払わせよう。女はにやりと笑った。

 *

 外出し頭を冷やした実典が家に帰るとケヴィンとエドワードがリビングに居た。時刻は5時過ぎ。ゲームが起動され二人はコントローラーを握ってパズルゲームを始めようとしているところだった。
 実典はケヴィンを眺めた。無造作な癖毛、だらしない表情、そして実典が選んだ服だけを着ている。シャツにネクタイにジャケットという極めてシンプルなファッションだ。
 ケヴィンはエドワードを睨み叫んだ。
「エドワードさん、ミノリとの初夜権をかけて勝負しましょう!」
「お前それ本気で言ってるのか!!」
 エドワードは余りにもクズすぎる発言に引いていた。
 そのやり取りを見た瞬間、実典の目から涙が溢れた。
「あ!ミノリ!」
 ケヴィンはミノリの存在に気付いた。実典は余りの嬉しさに泣いていた。ケヴィンも嬉しかった。実典はいつでも自分の心を見てくれていたのだ。ケヴィンが紛いも無く本物であることを察知すると実典はケヴィンへの愛を叫んだ。
「そのクズっぷり!下衆っぷり!!それでこそケヴィンだ!!」
「え?」
 ケヴィンは思わず抱き締めキスしようとした手が引っ込んだ。そこにウィリアムも入ってくる。
「あ、ケヴィン。元に戻ったの?大丈夫?何か悩みがあったら言ってね。相談に乗るから」
異様な空気。あまりにもちぐはぐな実典とウィリアムの言動。エドワードは訝しげに眉を潜めた。
「一体何があったんだ?」
 エドワードは話についていけなかった。実典とウィリアムは二人並んでエドワードに向き合った。そしてぎゃーぎゃーと主張をはじめた。
「ケヴィンが薬に手を染めたんだ!頭がおかしくなったんだよ!急に働き始めて生活費を差し出してきた。しかもセクハラしなかった!すごく紳士的だった!」
「庭掃除を手伝うって言い出したの!あと雨が降りそうだからエドワードを迎えに行くって言い出した」
「そりゃ気持ち悪いな」
エドワードは言う。
「うわあああああ!薬なんてやってないです!!みんなからそこまで嫌われてたなんて!!僕はクズで下衆なんだああ!生きる価値のない男なんだああ!!中身空っぽのヒモなんだああ!!!」
 ケヴィンは机に突っ伏して喚き出した。1から10までケヴィンのクズっぷりを見せ付けられ心は酷く傷ついていた。
「ケヴィン、別にみんな嫌いなわけじゃ……」
 余りにも悲しげなケヴィンの様子に実典がさすがに慰めに入る。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!誰も僕を好きになってくれないんだ!僕なんて結婚すら一生できないんだ!」
悲観的なケヴィン。
「本当だって!私はケヴィンのこと好きだぞ」
 その言葉にエドワードがぴくりと反応した。
「嘘だ!みんな僕の外見だけが好きなんだ!僕の中身にどんないいところがあるの!?言ってみろよ!僕はクズだ!!」
 ぎゃーぎゃーと泣きわめくケヴィン。ウィリアムもエドワードもさすがにうざいなと思い始めていた。
「ケヴィンは良いところいっぱいあるよ。もし私が普通の女の子だったら結婚したいって思うよ」
実典の声は優しかった。
「どこだよ!言ってみろよ!どうせ顔だろ!」
「えっとねー。私が部屋を散らかしてても嫌な顔一つしないところとか、むしろ嬉しそうに掃除してくれるところとか、寛容なところとか。あと素直。意固地にならないで話を聞いてくれるしケヴィンが興味なかったことでも私が好きなことは自分から入ってきてくれるし優しくて純朴だから話しやすいし。怒っても暴力振るわないところも好きかな」
 実典は笑って冗談めかして言った。ケヴィンはしばし実典の顔を見ていたがその顔を真っ赤に赤らめた。
「だからほら。自信をもって!ケヴィンは良いところたくさんあるよ!だから女の子からモテモテだよ!結婚もできるよ」
 ケヴィンは顔を隠して震えた。
「いらない」
「えっ?何が?」
「女の子なんていらない」
 実典はしまったと言うような顔をした。自分の言葉の何かがケヴィンを傷つけてしまったのだ。男心は複雑だなと思った。
「ケヴィン、ご、ごめん。私なにか嫌なこと言った?」
「僕は実典と結婚したい!他の女の子はいらない!」
「え!ええ?」
 ケヴィンは椅子から勢いよく立ち上がった。実典に襲いかかるつもりなのかもしれない。エドワードとウィリアムが身構えた。
「実典!今すぐ婚姻届出しに行きましょう!僕も実典と結婚したいです」
「え、いやそんな急にいわれても。しかも婚姻届なんかないし」
 実典は微妙な顔でケヴィンを見る。
「婚姻届ならあります!」
 ケヴィンは懐から緑色の用紙を取り出した。
「えーーー」
 実典は唖然としてそれを見る。
「さあ、実典も記入して!」
 静観していたエドワードがつかさず二人の間に入った。
「おいケヴィン、調子乗るのも良い加減にしろ。結婚する前にまずは就職だ。こっちにこい!」
「おい!やめろ!離せ!筋肉ハゲ!」
 ケヴィンはエドワードに引きずられて行った。実典は安堵した顔つきで席に座った。
「はぁ」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ」
 ウィリアムはずっと聞きたかったことを聴きたくなった。
「ミノリは本当にケヴィンと結婚したいの?」
「私がしたくてもできるわけないじゃん。ケヴィンみたいな美しい人は手に入らないよ」
「そんなことないと思うけど」
「私みたいな女が高望みすると浮気されて捨てられるだけだよ。歳も離れてるし結婚なんてする気ないよ」
実典は大きく伸びをしながら言った。