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【殺人鬼と三角関係】第22話 無力な男

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休日の午前10時。外は晴れ晴れとしており輝かしかった。平和で穏やかで、こんな毎日がずっと続く。ガラス戸越しに実典は外の景色を眺めた。

 「うーちゃん。買い物に行こうよ」
ウィリアムに振り返ると笑顔で言う。
「わ、わかった。二人を呼んでくる」
 実典はウィリアムの手を引っ張った。
「だーめ。私と二人で行くの」
「ええ!?実典とデート!?」
「そうだよ!」
 実典は強引にウィリアムを買い物に連れ出した。ワゴン車に乗り込み実典は助手席、ウィリアムは諦めたように運転席に着いた。ウィリアムはスマートな動作で車のエンジンをかけて発信させて器用にハンドルを回し手馴れた動作で運転をする。実典を独占できるのだ。今日はそれで良しとしよう。
 そんな二人の様子をケヴィンは二階のベランダから見ていた。背後にはエドワードがいる。ケヴィンが呼んだのだった。
「エドワードさん、跡をつけましょう」
 ケヴィンは窓からその様子を眺めると静かに言った。
「はぁ?バカバカしい。何かと思えばそれかよ!休日くらい寝かせろよ!」
 エドワードは吐き捨てたように言う。
「大体車だぞ?追いつけるわけがない」
「実典の買い物ルートは記憶しています。それに大丈夫、実典の居場所はいつでも僕に伝わるよう呪いをかけてありますから。行けばすぐにわかりますよ」
 ケヴィンの目は本気だった。
「な……なんてことをしているんだ……お前は。ストーカーか?そのことを実典は知っているのか?」
「恋人なんだから問題ありません」
 ケヴィンはきっぱりと言い切った。
「いや、恋人じゃないだろ!まだ」
「いずれそうなる運命なんです。僕たちは必ず結ばれるんですよ」
 盲目的なケヴィンの言葉にエドワードは引いた。
「そうならなかったら?」
「死にます」
 いともたやすく吐き出される決意。エドワードの背中に悪寒が走った。
「エドワードさんは二人のことが気にならないんですか。きっと何かありますよ。僕はこの目でそれを確認したい」
「くそ、まったく。バカなことをしたらすぐに連れ戻すからな」
 二人は身支度を早々に整え、家を出た。

 *

 実典とウィリアムは車を降りるとショッピングモールを並んで歩いた。広々としたショッピングモールは家族連れでにぎわっていた。ウィリアムは実典の歩調に合わせてゆっくりと歩く。実典は周囲の店を見渡しながら楽しげに歩いていた。
「うーちゃん、最初にランチにいこうか!ハンバーグたべよ!ハンバーグ」
「で、でも……」
 ウィリアムは申し訳なさそうにたじろいだ。
「私とランチは嫌だった?」
 気の乗らないウィリアムの様子に実典は少しだけ傷ついた。
「そ、そうじゃない。実典が嫌な思いするのが辛い」
 ウィリアムは正面を見て歩けなかった。自身の醜い容姿を周囲の人々は軽蔑の目で見ていたからだ。実典はそんなウィリアムを一瞥すると、にやりと笑って抱きついた。
「わっ!何するのミノリ!」
「うーちゃん大好き!」
 大きなウィリアムの腕に巻きつきすりすりと頬を擦らせる。その様子はまるで恋人のようだった。周囲の人々は異形の怪物と仲睦まじく戯れる様子に怪訝な目線を送ると見ないように目を背けた。見た目は醜くともそれは誰かの家族であるのだからそれに対して軽蔑をすることは非常識になるだろう。一般的な価値観を持つ人間ならそう考えるのが普通だ。
「エドワードさん!見てください!あの二人腕組んで歩いてますよ!まるで恋人同士じゃないですか!!」
「あー、そうだな、もういいか?こんなくだらないこと」
 遠くから尾行しながらケヴィンは騒ぐ。ウィリアムの存在のおかげで多少騒いでも目立たなかった。
「だ!ダメですよ!二人の間に間違いがあったらどうするんです!行きますよ」
「……一人でやれよ」
 エドワードは呆れながらケヴィンの後を付いていった。

 *

 実典とウィリアムは洋食のレストランに訪れた。実典はメニューを眺めながら何にしようかと浮かれている。
「うーちゃんは何が良い?何がすき?」
「ミノリと同じものがいい」
「はは、うーちゃんは可愛いなぁ」
 実典は店員を呼ぶとハンバーグとパンのセットを二つ注文した。店員は平静を装ってオーダーを聞き入れ立ち去って行った。
「ミノリは何でオレにくっついてくるの?」
「えっ」
 純粋な疑問だった。確かにボディーガードの役割を受けてはいたがそれにしては実典はウィリアムに粘着しすぎている。買い物に行くのにも、遊びに誘うにもウィリアムと一緒だ。
「嫌だった?」
 実典は不安げに問う。ウィリアムは首を振った。
「ケヴィンが嫉妬してる」
「はは!そんなことか」
 実典は笑った。
「笑い事じゃない」
 ウィリアムは冷静に言う。
「何でって言われたら……ウィリアムのことが好きだからかな……」
 実典は目線を逸らし、冗談めかして言った。
「私たち付き合っちゃおうか?」
「冗談はやめて」
「はぁい」
 実典は少しだけ寂しそうにソファーの背に体を預けた。
「ケヴィンはミノリのことが好きだから。たぶんオレたちの中で一番」
「だから?」
「だから、ミノリにもケヴィンが一番であってほしい」
「……」
 実典の目が暗くなった。
「私はさ」
 静かに告げる。
「一番とか、ないよ。そういうの」
 淡々と言った。
「私にとっては一人ひとりが特別。誰一人だって失ったら悲しい。家族ってそう言うものよ」
「だったら」
 ウィリアムは言う。
「オレは家族がバラバラになるのが苦しい」
「……」
「ミノリはケヴィンのこと嫌いじゃない。好きにならないようにしてるだけ。怖いんでしょ?男性として好きになってから、失うのが」
「何でわかるの?そんなこと」
 実典はウィリアムを見たがそこに感情はなかった。
「見てればわかる」
 実典は黙り込んだ。小癪なことを言うな、と思った。
「やっぱりうーちゃんは違うのね、二人と……」
「何が?」
「人としての器……かな」
 実典は遠い目でウィリアムを見つめる。
「なにそれ?」
「うーちゃんはさ、私が寝たきりになったときにずっと話しかけてくれてたよね。聞こえてたよ。私が酷いこと言ったときも私のこと気遣ってくれて、そういう優しさとかやっぱり違うなって」
「ミノリだっていつもやさしいよ、オレは実典が好き」
 ウィリアムの無垢な目が実典を捕らえた。実典は思わず頬を赤らめた。

 *

 ケヴィンとエドワードは一番奥の席を確保すると影から二人の様子を伺っていた。目立つため一番離れた席を選んだがそのせいで二人が何を話しているのかはまったく分からなかった。
「くっそー、ここじゃ何言ってるかぜんぜんわかんないよ!」
「うるさい、あんまり近づくとバレるんだから仕方ないだろ」
 そこに、ウェイトレスがハンバーグセットを二つ手に持ちケヴィンたちの席にやってきた。
「お客様、ご注文いただいたハンバーグステーキになります」
 二人のテーブルにハンバーグが到着する。
「あ!美味しそう……」
 ケヴィンは顔をほころばせてフォークとナイフを握った。フォークで肉を切ると肉汁があふれてくる。口の中に入れた瞬間、程よい塩味と肉のうまみが広がった。
「お、美味しい。この時代の料理は何でも美味しいねえ。エドワードさん。店員さんもみんな綺麗だし」
「まったく……こいつは」
 エドワードも自分のハンバーグステーキにナイフを入れた。上品な動作で肉を口に運ぶ。
「美味い」
 しばし二人は幸福の時間を堪能した。その間に二人が移動していることなど気付きもしなかった。エドワードとケヴィンはわずかな時間でハンバーグを平らげ至福の余韻に浸っていた。
「美味かったな」
「ええ」
「さて、そろそろ勘定をすませるとするか……ケヴィンお前の分の金を出せ」
「は?持ってませんよそんなの」
 ケヴィンは椅子の背もたれに体を預け、伸びをしながら言った。
「ハァ!!?俺に奢らせようって言うのか!?」
「当たり前でしょう?そのためにつれてきたんですから」
「ふざけるな!誰が払うか!」
「そんなこといっても僕お金持ってないですもの」
 あっけらかんとした様子でケヴィンは言う。その顔には悪気などまったくなかった。だからタチが悪い。
「……クソッ、今回だけだからな」
 エドワードは吐き捨てたようにそう言うと、皮の財布を取り出した。万冊がぎっしりと詰め込まれた財布の中から一万円札を取り出し会計へと向かった。
「くそっ、2800円も取られた」
「大変だ!筋肉ハゲ!実典がいない!」
「お前なあ、人に奢ってもらってその呼び方はないだろ」
「くっそーこんだけ人が密集してると魔術使っても分かりづらいし……今日は帰るとするか……」
 ケヴィンは踵を返して帰路に就いた。
「意外に諦めが早いな。いつもなら何が何でも見つけ出そうとするお前が」
「ああ、今日はやる事があるからさ」
 エドワードはケヴィンの後ろを歩きながら訝しげにケヴィンを見た。その背中からは感情が読み取れなかった。なんというか後ろ暗いものを感じるだけで。

 早足で歩は進みケヴィンはモールを出た。線路沿いを通り、車の通りが少ない歩道を通る。道はどんどんと細くなって行き、その足は人気のない遊歩道さしかかった。この先は道が暗く変質者も多いと言われており人がほとんど立ち寄らない。ケヴィンはそんな冷たい道をどんどんと進んでいく。
 その後をエドワードは無言でついていく。その間、一切会話はなかった。道が完全に日の光の当たらぬ影に差しかかり、通行人すらいなくなるとケヴィンは口を開いた。
「ほら、僕も結婚が近いだろ。だから身分証明書をいつでも出せるようにしとこうかと思って。一応、地獄で国籍とか取得してあるし戸籍もあるけどどこに保存してたかな」
「何言ってるんだ。今すぐ婚姻届を出すわけじゃないだろう」
「いや、すぐに出せるようにしておかないと。実典のサインをもらったら即座に役所に出しに行くよ」
「ちょっとまて!!お前暴走しすぎだ!結婚なんて誰が決めたんだよ!」
 エドワードは血相を変えた。今のケヴィンは周りのことが見えていない気がする。
「なんだよ筋肉ハゲ。嫌なのか?だったら止めてみろよ。横から奪い返してみろ。実典は絶対僕を受け入れる。断言してもいい」
 その言葉に背筋に冷たいものが走った。
「お前、なぜそこまで」
 ケヴィンはエドワードの心境を察すると懐のポケットから数枚の紙を取り出した。
「なんだそれは」
「実典の運命が記された書類のコピーだ。僕たちが来る前に天使から渡されてたんだろうな。雑な性格だから無造作に押入れに入れられてたぜ。ろくに確認してないみたいだけどそこには実典が必ず果たさなきゃならない己の試練が書かれている。僕の身分証明書を探してる時に見つけた」
 エドワードはケヴィンからその紙を奪い、記載された文書を眺めた。書類は英語と日本語と中国語で表記されていた。
「本田実典に授与する運命に関して記す。この運命は神によって授けられるものであり神の力を持ってしても運命の破棄はできないものと証明する……」
 そしてゆっくりと上から下まで眺めていく。本田実典に与えられた運命。その下に三行の文章があった。一文だけが宙に浮いたように余白をとって書かれている。おそらくこれが実典の運命だろう。
「本田実典は第三者の意思によって自分が意図しない相手と強制的に結婚させられる……?」
 エドワードは書類を手にしたまま立ち尽くした。そして2枚目の書類をめくる。
「この先は運命が実行された場合の未来の想定を記す。尚、この未来予想はあくまでも予想であり変更する場合もあり……」
 そこには運命が実行された場合の未来が記されていた。そこに書かれた名を眺め思わず思考が凍りつく。
「高橋……」
 エドワードの指が震えた。こいつの名はよく知っている。エドワードと実典が出会って間もないころ喫茶店で会いまみれた邪悪な人物。幼い頃から実典を集団で追い詰め貶し奴隷のように扱った男だ。実典に対する凄惨な苛めは実典の口から一度だけ聞いた。かなり酒に酔っており冗談めかしく語っていたがその所業はどうみても残虐を超えるものだった。高橋は学校のクラスにおいてまず見せしめとして実典に暴行した。クラスメイトが見守る中、実典を殴り踏みつけ自分が最も強いことを見せ付けた。そして実典を下僕として最下位に置いたのだ。その後の学校生活は語るまでもない。
 自分たちが介入する前の実典の未来。それは実典が人生において最も忌々しく嫌っていた最悪の相手との結婚だった。実典の全ての行動が合点する。実典がケヴィンを受け入れたのはこの最悪な結婚相手との結婚を阻止するためだったのだ。自分を貶め嘲笑った相手との結婚。それを阻止するためなら相手が殺人鬼でも受け入れるはずだ。
「そういうことだ。実典は必ず僕を選ぶ」
「お前……どこまで知ってるんだ」
「実典が食らった呪いがあるだろ。他者の残虐な体験を自身の夢の中で追憶する魔術。あれを自分に使ったんだよ。酷いしてきやがる。人間のクズだよあいつは」
 エドワードはケヴィンを睨んだ。
「お前、それでなんとも思わないのか!?弱みに付け込んで惚れた女と結婚だと?こんな邪道を使って自分が惨めだとは思わないのか?」
「思わない。それでも実典は僕でいいと思ってる。それで十分だ」
 ケヴィンははっきりといった。
「今は恋人未満の状態でも一緒に暮らして子供ができれば家族としての愛情が生まれてくる。子供ができればそれまでにいたる経路なんてどうでもいい。女っていうのはそういうものだ」
 ケヴィンはずっと実典のことだけを見つめてきた。だからこそ出せる己にとって最も優れた結論。エドワードはそれに対して否定する弁が無かった。女のことは自身の女性経験から良く分かっていた。だから思ってしまったのだ。たしかにその通りだ、と。
「そんなものはお前の横暴だ!実典の気持ちをまったく考えていない!」
 エドワードは辛うじてケヴィンを止めようと怒鳴る。ケヴィンは冷徹な目でエドワードの手にした書類を指さした。
「その書類をよく見てみろよ。運命の執行予定日は実典が30歳になった時だ。実典の誕生日は3月30日。つまりもう時間はない。今は何月だと思ってるんだ?」
「……くっ」
「僕が何も考えずにのうのうと暮らしているとでも思ったか?実典に目的があって僕を受け入れたことくらいわかってたよ。実典の運命を変えるにはそいつが実典と結婚する前に別の相手に結婚させられるしかない。僕はその書類を持って実典に求婚する。そして決断を迫る」
「それじゃあ結局変わらないだろ!他人に利用されて都合よく扱われるのと同じだろうが!良く考えろ」
「それでいいんだよ」
 ケヴィンは軽蔑したような目でエドワードを見た。
「お前さっきから突っかかってくるよな」
 穴の開いたような真っ暗な瞳。光がなく憎悪に満ちている。エドワードに対する漆黒の感情がそこにあった。
「……わかった。お前実典に惚れてるんだろ」
「なっ!!」
 煽るようにケヴィンは言った。エドワードは意表を突かれたように狼狽した。これでは、はい。そうです、と言っている様なものだ。
「だからお前は僕のことが気に入らないんだ。お前が持っていないものを僕がすべて持っているから。実典に近づきたい。もっとアプローチしたい。でもできない。だってお前は良き理解者だから。それを失ったお前は信頼すらも失ってしまう。実典にもっと迫りたい。強引に自分のものにしたい。でも自分のプライドを失うことは耐えられない。だからお前は僕の行動が気に食わないんだよ」
 エドワードの瞳を覗き込むようにケヴィンは近づいた。その眼は邪悪に染まっていた。他者に対する嫉妬。
「違う!」
 エドワードは声を荒げて否定した。
「ああそう?じゃあ僕と実典が幸せになるところを黙ってみてろよ。文句つけてくんな」
「ふざけるな。お前本当に殺すぞ」
 エドワードの目には殺気が宿っていた。実典のことがなかったら今すぐこいつを殺している。
「じゃあお前が実典と結婚するか?」
「……っ!」
「できるわけないよなあ。今まで実典の理解者としてそばにいたお前が。そのせいでお前は実典の心に踏み込めなかった。実典を強引に自分の物にしたかったよなあ?でもできないよなあ今更」
「……」
「今からまたやり直すのか?愛の言葉を囁いて、デートして、手をつないで、抱きしめられて、抱きしめて、プレゼントを渡して……そしてキス。できるわけないよな。後一ヶ月しかない。そんな短期間で恋人になるなんてさ」
「……止めろ」
 エドワードは俯き小さくつぶやいた。
「でも僕は違う」
 ケヴィンはエドワードに顔を近づけ静かに言う。
「僕はずっと実典に接触してきた。距離が違う。実典は僕を異性として見てる。否応なしに。だから踏み込める。セックスだってしてもいいって思える。だがお前のことは男として見ていない。今まで異性としてみていなかった男と寝る?女にとってその差は大きい」
「止めろ……」
「お前に教えてやろうか?実典がどんなふうにキスするのかさ。どうやって僕を愛してくれたのか」
 ケヴィンは固くしなやかな手でエドワードの顎に手を添えた。這うようにその手は頬を伝う。唇が近づいてくる。
「止めろってんだろ!!」
 エドワードは激高してその手を叩き落としケヴィンを突き飛ばした。つい手に力が入ったがケヴィンは少しだけ後方に退いただけだった。
「悔しかったら横から奪い取ってみろよ。筋肉ハゲ野郎」
 ケヴィンは歪に口を歪ませると嘲笑するように笑った。そして踵を返して帰路に着く。黒のロングいコートを緩やかになびかせて美しい線を描いた。

 人気のない遊歩道でぽつりと場違いな大男だけが残された。だがその男はただ無力だった。