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【殺人鬼と三角関係】第23話 動き出す運命

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そこは幻想の空間だった。一面は鮮やかな緑色の草原で花々が咲き乱れ、空は青く澄み渡り一筋の光が指していた。壮大な空間の中心には中世の建築物を思わせる西洋の城が聳え立っていた。大理石で建築されており表面はうっすらと光を讃えている。

その城の中には一人の美しい男性がいた。白い壁に囲まれた一室、天井には金のシャンデリア、床には真っ赤なシルクの絨毯が広げられている。中央に置かれた円形のテーブルは良質な木材で作られており美しい木目模様が特徴だった。
男は長い金髪をなびかせ端正な顔立ちには柔らかな微笑をたたえている。中性的な顔立ちで一見すると男性か女性か分からなかったが骨格や大柄な体型から男性であることが判別できる。
男は艶やかなビロードの青い服を着て煌びやかなイヤリングとネックレスを着用していた。黄金でできた一際輝く美しい宝飾品たち。豪華なそれは男の存在を引き立てた。
 彼は円形のテーブルに白紙の書面を散らばらせて何かを考えている。手元に用紙を手繰り寄せ片手には羽ペンを持ち、羽先を軽くかみながら思慮にふけった。周囲には美しい少女の姿をした天使たちが男を囲んで楽しそうに談笑している。
「ねえねえ!次はこの人にしましょうよ!フレイさまあ!」
 少女の一人が男性にぴったりとくっつきながら一つの書面を指差した。書面には一字の名前だけが記載されている。魂を選別するために記載した仮の名だ。
「この人か、でもこの人は前世での行いが少し良くなかったしなあ」
 男は紙を見つめながら言った。用紙には何も書かれていなかったが男と天使には何かが見えているのだろうか、一瞬でそれを判別していた。
「魂が少し混濁していますわ。これではつまらないですわね」
 別の少女が口を挟んだ。その少女は賢そうな顔をしていた。
「そうだね、ここまで劣化してると面白くないだろうしこいつの運命は適当でいいや。えーと次の性別は男性で若くて綺麗な妻を手に入れるっと」
 男は笑いながら羽ペンで字を綴る。そして紙を放り投げた。
「ははは!」
 そして口を大きく開けて笑った。周囲の天使たちもくすくすと笑う。
「最近良い魂がいないですねえ」
「中途半端に濁った魂しかいないからねえ。地上も大分穢れてしまったから。そろそろ浄化が必要かな」
 男はぐーっと伸びをしながら優しく微笑み言った。
「あ、これ。これなんてどうです?フレイさまあ」
 一人の天使が男にもたれかかったまま書面を手に取った。男は差し出された書面を見る。
「あー、この子かあ」
 書面を受け取り、面白そうに男性は眺めた。
「なかなか忍耐強い子だよねえ。何度苦しんでも踏みつけられても虫けらみたいに這い出してくる。魂の格もそこそこ強くなってるね」
「この子にしましょうよ!こんな美しく頑強な魂を持つ人間にとびっきり不幸な運命を授けてどれだけのた打ち回るか見てみたいわ」
 天使の目は爛々と輝いた。恍惚とした表情で髪を振り乱しながらくるくると踊る。
「そうだね、じゃあこういうのはどうだい?次は女性に転生させて周囲の低俗な人間たちに良いように利用されるってのは」
「それってどういうことですかあ?」
 男の腕にぴったりと寄り添い天使は問う。
「人間って言うのは協調が第一だろ?たとえば周囲の和を保つために生贄にされて奴隷みたいに扱われる。その結果本人は不幸になるけど周りは幸福になってみんな思う。あの時あいつを犠牲にしてよかったってね。感謝じゃない、納得だ。あいつは犠牲になって当然だったって自分を納得させるんだ。その結果、犠牲になった相手には全く感謝も申し訳なさも感じない。それが当たり前だと自己を肯定する。生贄は一生自分を犠牲にした人間たちを恨み続けて死ぬ。すごく単純だけど悲劇っぽくて面白いと思わないか?」
 男性は遠くを眺めるように空っぽな笑顔で語る。
「女性だったら、そう、結婚かな。結婚はいいものだ。人間界における鎖。もっとも幸福で邪悪な契約。一度、縁を築いてしまったらなかなか抜け出せない。死が二人を分かつまで拘束し続ける。特に女性は相手が悪いと悲惨だろうね。一生男の犠牲になって生きるんだからさ。彼女にはそう言う運命を歩んで貰おうよ」
 男性は羽ペンで書類に綴る。
「他者に利用されて結婚させられるっと……」
「もっと悲惨なものにすればいいのに!たとえば最も嫌いな相手の奴隷になって毎年子供を生まされるとか!殴って蹴られてボロボロになるとか!」
「ははは、そうしたいところだけど、それで一度失敗しているからね。運命って言うのはしがらみになるくらいの曖昧さがいいのさ」
 男性は綴った書面をテーブルに投げた。ぱさりと書類が被さる。
「失敗って?」
「昔ね。とびっきり魂の格が高い男がいたんだよ」
 男は手を組み直し過去を語る。空っぽな白い瞳、遠くを見るような薄い目で過去を話した。
「人間の魂というのは面白い。欠落していて中途半端だ。天国には不幸というものが存在しない。僕たち神は完璧だ。そして天使も完璧だ。醜いものなど存在せず争いもない。だが人は違う。欠落していて中途半端だからすぐに争いを始める。そして不幸がある。犠牲になるものと幸福になるものが存在する。階級をつけ上下を定めて不安定な心を安定させるんだ。人間たちが歩く人生というものは神と天使にとって格別な娯楽だ。とくに不幸は良い。見ていて飽きないからな。中でも格の高い魂はすばらしい。不幸を与えれば与えるほど面白い人生を歩む。だから僕はいつものように格上な魂に格別の不幸を与えた。のたうち暴れ争う様、それはそれは面白かったよ」
 男は笑った。目を細めその時のことを思い出す。
「でもね、それがいけなかったんだな」
 口調を柔らかに、そして声を潜め彼は言う。
「彼はたった一人の女のためにあらゆる業を背負った。自身が望まない殺人を大量に犯し血で血を洗った。たった一人の女性。そのためにすべての権力と力を使い人々を支配して魂ごと刈り取った。罪を背負い憎悪を背負い他者から軽蔑され責められたった一人の女性に裏切られて孤独になってからも殺しを続けた。そして最後……彼は……」
 男はそこで言葉を止める。
「だがね、細かく刻まれた運命ほど漬け込む隙が多いものだ。悪魔はその一点を狡猾に支配し格の高い魂を掠め取った。一度与えた運命を取り上げることはできない。廻った歯車は止められなかった。美しい魂は悪魔の支配下となり同時に大量の魂を悪魔に奪われてしまったよ」
 天使たちは静かに聞いていた。老人のおとぎ話を聞くように耳を傾けていた。
「魂を掠め取られるのは良くあることだったけどその時はさすがに痛かったかな。被害が大きくてね。人間だけじゃなく天使まで殺されてしまったからね。あれは本当にもったいなかったなあ」
 そしてもう一度、綴った紙を手に取った。
「運命を細かく定めるのは危険だ。悪魔の付け入る隙を与えるからね。そのかわり未来予定表におおまかな筋書きを立てとこう。こうすれば後で変更も利くし大体はその通りになるから。そうだね、30歳を迎えた時に運命が発動することと結婚相手だけ設定しておこうか。結婚相手は格別憎い相手の方が良い。その方が面白いからね」
 男はテーブルの紙面を見渡す。
「さて、結婚相手だが……そうだ。これがいい。今ある中で最も劣悪で邪悪な魂。こいつと縁を作っておけばとびっきり陰惨で楽しい運命が見られるよ。こいつはそうだね。格がそんなに高い魂ではないから幸福に満ちた人生にでもしておこうか。力もあって権力もあるような感じで。幸せな人生になんて見ててもつまらないからね。こういう劣悪な魂には丁度いい」
 天使たちははしゃぎ黄色い声で笑い出した。
「ふふっ!楽しみ!一体どんな運命が繰り広げられるのかしら。凄惨なものがいいわ!血で血を洗ってそれから残虐であれば最高ね!」
「私は修羅場が見てみたいわ!人にけなされ言葉で攻められるのって最高!」
「あら、私は孤立した人間が無様に泣いてる姿の方が好きよ!それで復讐をはじめて人殺しになったらさぞや楽しいお話になりそうね」
 天使たちは踊る。くるくると美しい髪をなびかせながら人々が織り成す醜悪な生を謳った。
「こらこら、君たち。そういうのは僕たちが指示しなくても勝手に人間たちが作り上げてくれるよ」
 男は笑う。冷酷に残酷に。
「とびっきり邪悪で醜悪な物語をね」
 天使は嘲笑した。神も嘲笑した。静謐な一室に天使と神の笑い声が反響した。人間を駒にした残酷な物語が作り上げられていく。

 *

 買い物の途中、実典とウィリアムは喫茶店で一息着いていた。暖かい紅茶を口に運び静かな時間をすごしているとウィリアムが口を開く。
「オレ、幸せだよ。ミノリ」
「そう!よかった!」
 実典は笑った。
「たまに思うんだ。もう充分オレは救われたから。もういいかなって」
 カップを握る実典の手が硬直した。
「転生して、次の人生を生きても良いし。しばらく眠っても良いよね」
「だめ!!」
 実典は思わず叫んだ。ウィリアムが驚いて実典を見つめた。
「うーちゃんは私のそばにいて……どこにもいかないで」
 目に涙をため、悲痛な声でそう懇願する。
「ずっと私のそばにいればいいよ、おじいさんとおばあさんになってからも、私が守るから。必ず守るから」
「ミノリ?」
「ね?だからいなくなるなんていわないで」
 震える声で、泣き笑いのような痛々しい顔で実典は言う。
「で、でもオレがいたらミノリは結婚しない。子供もつくらない。オレはミノリを縛れないよ」
「いらない!私は子供も夫も家庭もいらない。ウィリアムだけがいてくれればいい!結婚なんてしない!」
「……」
「ウィリアムが好きなの。大切なの。だから絶対、いなくなるなんて言わないで。そんなの私、耐えられない」
「わ……わかった。ミノリとずっと一緒にいるよ」
 苦い表情でウィリアムは答える。実典は安堵した表情で笑った。
「約束。約束だから……」
 実典はウィリアムの手を取った。小指を絡めて約束をする。ウィリアムは笑えなかった。自分が実典を縛り付けている。自分の存在が実典を幸福から遠ざけている。それは果たして良いことなのだろうか。
 そんな二人のやりとりを遠くから眺めている男がいた。ガラの悪いその男はひどく無粋な様子で二人を見ていた。うわさには聞いていた。本当にあの女は醜い少年とともに行動していた。近所だからいつか見かけるかとはおもっていたがこの目で見るのは初めてだ。
 かつて幼い頃、散々奴隷として踏みつけおもちゃのように扱った女。それが今、人の姿すら失われたような酷く醜い少年と恋人のように向かい合っている。ひどく滑稽だ。だからちょっかいをかけてやろうと思った。ずかずかと二人に近づきそのテーブルに手を置いた。ティーカップが振動で震える。
「よお、本田?久しぶりじゃん?この前会ったよなあ」
 高橋は高い目線から実典を見下した。実典は何も言わず、感情の無い目で高橋を一瞥する。
「お前こんな気持ち悪い男と付き合ってんの?この前一緒にいた外人はどうしたんだよ?あ、もしかして二股?お前ほんっと最低な女だよな!男をコロコロと変えてさ!近所でもうわさになってるぜ!」
 高橋は笑った。口を大きく開いてゲラゲラと笑う。
「ヤリマン女だってな!!」
 その光景は店でも酷く目立っていた。だれも注意する気配すらなかった。醜い少年と一般人男性。どちらが正しいか判別がつかなかった。見た目。たったそれだけの理由で守られるべき人間が守られない。
「おい、お前」
「いいわ、ウィリアム。何もしなくて」
 ウィリアムが何か言いかけたが実典が静止した。実典はただ微笑んでいるだけで怒りも悲しみも見せなかった。ただ優しい声でウィリアムの怒気を止めた。
「あ?なんだ?怖くて何もいえねえのか?この前みたいに突っかかってこいよ。よわっちい癖にホント馬鹿だよな?お前」
 実典は静かに立ち上がった。穏やかかつ優雅な動作で高橋の前に立ち向かい合う。
「あ?何だよ。やんのか?」
 実典は何もしなかった。ただ向かい合って顔を近づけ、下から高橋の目をのぞきこんだ。一点の悲しみも怒りも表さず微笑んだまま高橋の目を覗き込む。
「……っ」
 高橋は思わず実典の目を覗き込む格好となった。空っぽな虚無。空虚な目線。なのにその目は酷く不快だった。死。自分とは遠い自称のはずなのに死を感じさせる。
 恐ろしくなって目を背けた。その瞬間、負けが確定した。ただ女に見つめられただけで目を背ける男。周囲からはそう見えただろう。それが酷く悔しかった。
「くそっ」
 高橋は二人の前から退散した。実典は無表情でその背中を見ていた。
 実典たちから離れると高橋は携帯を取り出しある場所に電話をかけた。
「おい、オレだけど。お前今役所に勤めてたよな?」
 そして高橋の頭に邪悪な考えが浮かんだ。それは実典の人生を滅茶苦茶にする最悪な計画だった。
「いや、何。別に大したことじゃねえよ。ただちょっと聞きたいことがあってな」
 実典たちからはるかに離れた地点で高橋は邪悪に笑う。新しいオモチャが手に入ると思った。

所変わって実典のリビングではケヴィンが一枚の重要書類を眺めていた。苦く険しい顔でその紙に書かれた残忍な運命を見つめていた。
「生まれながらに奇形として醜く生まれ人々から虐げられ処刑代行人として殺人を強要される。解放後、たった一人の女性から愛されるが本人の生殖能力に異常を持つため子供を残しても重度の障害を追い、結婚した場合一家心中の結末を迎える……」
ケヴィンは唇を噛み締めた。
「何だよこれ」
胸に悔しさがこみ上げた。ウィリアムが実典の気持ちを知っても尚、引き下がった理由。愛する人とは絶対に幸せになれない。神の用意する悪意に満ちた運命に、ケヴィンはただ唇を噛み締めることしかできなかった。