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【殺人鬼と三角関係】第19話 私が守る

 よく晴れた朝。季節は2月だった。正月はとうに過ぎ世間ではいつもと変わらない日常が始まっていた。実典は窓を開けいつもと変わらない景色を眺めた。世間では平日だがニートにとっては休日だ。なんという魅惑的な職業なのだろう。そのままベットに飛び込みゴロゴロとした。
「もう半年くらいになるか……」
 枕に顔を埋め実典はニヤニヤと笑った。人々が働いている間も自分は遊んでいる。なんともいえない至福の時だ。
「半年?」実典はあることに気付く。
「嘘!もう半年しかないの!!?」
 実典は飛び起きて部屋のカレンダーを見つめた。季節は二月の半ばだった。ケヴィンの告白への返事を延期させたのが確か11月だったか。だとしたらもう残りは8ヶ月か9ヶ月しかない。そもそもいつまで無職でいる気なのだろうか自分は。早く次の職を見つけるかしないと将来が危ない。
「ど、どうしよう失業保険だって期限があるし!」
 金に関していえば正直問題はない。3人の生活費として月30万近く振り込まれている。エドワードも働いて家にお金を入れてくれている。なんとか収支はプラスだ。だが実典は知らない。この生活の終わりを。さすがに永遠に彼らと暮らせって話ではないだろう。ゴールはどこにあるんだ。
 実典はベッドから起き上がるとひとまずリビングに向かった。朝食の支度をしなければいけない。あと皆の顔を見たい。
 リビングに入るとケヴィンが待っていた。ケヴィンは実典を見ると笑顔になった。朝目覚めて最初に会うのがこいつか。実典は思わず顔が引き攣る。
「おはよう!ミノリ」
 ケヴィンは立ち上がり実典の側によると体を屈めて顔を近づけ目を細めた。
「……っ」
 唇が触れる。実典は唇を閉ざしていたがケヴィンが実典の下唇を軽く噛み唇を開かせた。ケヴィンの舌が押し込まれ実典の舌に絡まってくる。どこでこんなやり方を覚えたのだろうか。口の中にケヴィンの唾液が流れ込んでくる。ぬるく気持ち悪い感触。獣のようなケヴィンの匂い。実典はしばし耐えるとケヴィンの体を引き離した。
「おはよう」
 実典はすぐさまキッチンへ逃げる。隙を見つけるといつもこうだ。抱きついては体を触りまくりすぐにキスをせがむ。お前は犬かと思うほど遠慮がない。しかも心なしか前よりスキンシップが際どくなってきている気がする。
「おはよう、ミノリ。ケヴィン」
 ウィリアムもリビングへやってきた。開けっ放しのドアから入ってくる。そして自分の席に着くとニュース番組を見つめてぽつりと言った。
「ケヴィン、卑怯だよ」
 その言葉にどきりとする。その言葉の主がウィリアムなら尚更だ。
「な、何がだよ」
 ケヴィンは問う。
「そうやって実典の弱みにツケこむのは」
「僕はそんなんじゃない」
「ソレにミノリそういうのスキじゃナいんじゃない?」
 ウィリアムは静かに言った。ケヴィンはショックを受けたように沈黙したが実典は正直ウィリアムのフォローが嬉しかった。
「女の子のイヤなことをムリヤリするのヨクナイ」
「……分かったよ、ごめん実典」
 ケヴィンは素直だった。
「ううん、私もごめん」
 実典も言った。ケヴィンのこういう素直な面は好きだ。
「そういえばさ二人に聞きたいことがあったんだ」
 実典はケヴィン達に向き直り言った。実典に襲いかかってきた二人の人物。魔術をかけ実典と3人をバラバラにしようとした彼らの目的。
「あれは悪魔です」
 ケヴィンは言った。
「オレたち悪魔と契約してこの姿にナッタ」
 悪魔と契約?実典が不思議そうにしているとケヴィンが口を開く。
「僕たちは自身の運命を変えるために悪魔と契約したんです。神から与えられた逃れようのない過酷な運命をどうにかできるのはそれしかありませんから。そしてこの姿になって人を殺して魂を回収して悪魔神に献上していたんです」
「それじゃあケヴィンたちは悪魔なの?」
「ヒトから悪魔にはナレナイ。デモ魔人にナル。悪魔と人間の半端物」
「そう、だから僕たちは半分人じゃないんですよ」
 ケヴィンは笑った。実典は笑えなかった。彼らが魔に近い人物だというのなら、更生など果たして可能なのだろうか。
「じゃあなんで天使の管理下にあるの?」
「天使に捕まって地獄に放り投げられたんですよ。あそこにいると精神が浄化されてしまいますから。でも罪の記憶は消えないでしょう?だから苦しくて苦しくて。魔人になると元には戻れないし」
 魔人が天使に捕まって浄化されて人として更生できるように補助する。悪魔はそれを取り返すべく襲いかかってきた。なぜだろう、なぜか引っかかる。何かを見失っている気がする。
 そんなことを話しているとエドワードが足音を立ててリビングに降りてきた。今日は仕事は休みだ。ゆっくりとした緩慢な動作で席に着いた。
「何だ?家族会議か?」
 エドワードは深刻な顔をする一同を見渡すと心強い態度でそう言った。そして実典が心に抱えていた悩みを口に出す。
「ケヴィンの就職先について」
「はぁ!?」
 ケヴィンは驚いて立ち上がる。そんな話は聞いて来ない。
「私よく考えたんですけど夫が無職なんてイヤです。働いて養ってもらわないとニート生活できないじゃないですか」
 ケヴィンは黙って椅子に座りなおした。
「分かった。考えとく」
その顔はいつになく真面目だった。そしてケヴィンは実典との夫婦生活を妄想した。実典のエプロン姿、行ってらっしゃいのキス。魅惑的な夜の営み。あと子供とかできたら絶対可愛い。
「俺の職場で働くか?」
 エドワードはニヤニヤしながら言った。ケヴィンの妄想に上司エドワードに叱責される自分の姿が混じった。
「それだけは絶対イヤです!」
「ケヴィン最低限勉強シタホウガイイ。字も読めナイんじゃ仕事ナンテできないヨ」
 ウィリアムが追撃しケヴィンはさらにたじたじになった。
「それはさておきエドワード、今回の事件なんですがどうも腑に落ちないというか」
「……」
 エドワードは深刻な面持ちでテレビを見つめていた。
「悪魔達は魔人の力を取り戻したかったんですよね。だったら普通に戦って力で奪い返せば良かったんです。それをわざわざ私たちの中を引き裂くなんてまわりくどすぎませんか?」
エドワードは実典に向き直る。
「力で押さえつけても心は支配できない。もしもお前を失い人を殺せと命じられたら俺たちは命を捨てて悪魔に牙を剥く。ケヴィンだって普通なら死んでもおかしくない状態で悪魔に抗い、ウィリアムは自分よりもはるかに力の強い魔人を退けた。つまりそういうことだ。俺たちを取り戻すための障害はお前なんだ」
 エドワードに見つめられ実典はどきりとした。熱く一途な視線。そこに恋愛感情がないことは勿論分かっていたが実典は勘違いしてしまいそうになった。そもそも彼には妻がいるのだ。余計なことを考えてはいけない。
「これから実典を守ったほうがいいだろうな。問題は誰が実典のボディーガードをやるかだが」
「はい!はい!僕がミノリのボディーガードをします!」
 ケヴィンは声高に叫んだ。
「お前がか?3人の中で一番弱いだろ」
呆れたように言うエドワード。
「ケヴィン……心配」
 不安そうなウィリアム。
「何なんですか!二人とも!僕がミノリを守るんです!恋人の役目でしょう!」
「うーちゃんがいい」
 実典は割って入った。その声には力が込められていた。
「あ、ああ。実典がそう言うならそうしよう」
 強い口調にエドワードは一瞬だけ狼狽した。思わず実典から目をそらす。示された人物が自分ではなくウィリアムだったことに、内心ショックを隠せなかった。くそ、自分は何を期待しているんだ。
「むぅ、納得できません」
 ケヴィンは頰を膨らませふてくされていた。
「お前はまず仕事を探せ。ほらこい、一緒に求人情報を見に行くぞ」
「やーめーろー!!」
 ケヴィンはエドワードに引きずられながら出て行った。
 二人のいなくなったリビングはしばらく静かになった。
「実典……ケヴィンのコト苦手?」
 ウィリアムは呟くように言った。
「……」
 実典は答えなかった。
「ワカルヨ、ホントはイヤなんでしょ?キスされたりするノ」
「ごめん。うーちゃんに気を使わせて……」
「ナンでも言って?オレで良ければ」
 実典は思いつめたように床を見つめた。
「最近、ちょっとスキンシップというかそういうのが激しくて……。抱きついてきたり、触ってきたり無理やりキスしてきたり……。軽い感じのは大丈夫だったんだけど、さすがになんというか……舌入れたりベロベロ舐めるのは苦手で…それが好きな人でも……こんなことエドワードにも言えないし」
「ワカッタ、ケヴィンには注意シトク。あとミノリのことは守るヨ」
「ありがとう」
 実典は力なく微笑んだ。
「ケヴィンは焦ってるダケ、事件がアッテカラ空回りしてる。ケヴィンがエスカレートしないようミトクよ」
「頼もしいわ、ウィリアム」
 ウィリアムの背に柔らかく暖かい感触が乗っかった。実典が背中から抱きついてきたのだ。ウィリアムの傷だらけの背中にスリスリと頬ずりをした。
「ミノリ止めてー、ケヴィンみたい!気持ち悪い!」
ウィリアムは立ち上がってすぐさま距離をとった。少しだけ屈んで身構える。
「えーそう?気持ち悪い?」
 実典は手を伸ばしウィリアムの太い髪を両手でもしゃもしゃとかき乱した。ウィリアムの髪はボサボサになった。
「うわーーやーめーてー」
 ウィリアムは猫のようにあたふたと嫌がった。その様子を見ると実典はニヤリと笑う。
「やめてあげなーーい」
 そしてさらに激しくウィリアムの頭を掻きむしった。ウィリアムの頭はボサボサを超えてボワボワになった。
「うわーん。ミノリひどい!」
「あははははは」
 実典はウィリアムの様子を見て笑った。実典の笑顔を見ると思わすウィリアムも笑った。前とは少しだけ違うかもしれないが普段通りの日常がやっと帰ってきた気がした。

 

*

 

実典はリビングから和室で勉強をするケヴィンたちを見つめていた。遠い目でそれはひどく儚げな視線だった。実典が傷心し生きる気力をなくしてベッドに引きこもっている時もずっと声をかけてくれた。実典が料理を弾いて拒絶したときも、自分のことよりも実典の怪我を気遣った。悩みがあれば優しく包み込み、穏やかな空気で人を受け入れる優しさを持っている。純粋で人の汚れを知らない。その優しさは実典の心境に小さな変化を与えていた。まだ芽を出す前の本当に小さい変化だ。
実典は殺人鬼たちを見つめる。もはやその背中にはかつてあった凶悪な気配すらない。
そんなことを考えていると、玄関のインターホンがなった。無機質な電子音が鳴り、そこにいた全員がはっとする。実典は玄関に向かい、来訪者を招きいれた。
「鈴木さん?」
「こんにちは。本田さん」
それは天使だった。殺人鬼たちを押し付け静観を決め込んだ天使。鈴木と名を名乗るスーツを着こなした美しい少女。相変わらず無機質な笑顔をその顔に留めている。
「よろしいですか?本田実典さん。色々聞きたいことがあるんです」
「は、はい」
突然の来訪者を実典は受け入れた。リビングに通すとお茶を出す準備をする。殺人鬼たちは一様に無言になり天使を遠くから見ていた。
「聞きたいことって…」
本田は自ら口を開いた。鈴木は紅茶を啜るとティーカップを置いて口を開く。
「最近悪魔にお会いしませんでしたか?」
「……」
思わず無言になってしまった。言い訳などいくらでも用意していた。だが鈴木の目を見た瞬間何もいえなくなってしまった。
「正直に話してください。別にどうこうしようっていうつもりはないんです」
鈴木は苦笑した。
「信じてください」
優しい口調で言う。実典は目線を上げ、和室からこちらを覗いているエドワードを見た。エドワードは実典の視線を受け取ると少しだけ訝しげな顔をしてから頷いた。
「はい、悪魔が来ました」
「やっぱり……よく無事でいられましたね」
「彼らが助けてくれましたから」
「すごく強い絆を築いたんですね。やはり本田さんを選んで正解でした」
天使は息を吐くように穏やかに言った。
「彼らを見れば分かります。とくにウィリアム。とても良い子に育ちましたね。あの子はもう大丈夫。大丈夫でしょう」
天使は笑った。そう、笑ったのだ。
「で、でもやっぱりまだ教えたいこともあるし、もう少しだけ一緒にいたほうがいいと思うんです」
慌てたように実典は言う。
「そう思いますか?それではウィリアムのこと……いいえ彼らのことは本田さんにお任せしましょうか」
鈴木は立ち上がった。ここにはもう用はないようだった。そして実典の肩にそっと手を乗せた。
「何かあったら必ず私に相談してくださいね。必ず力になります。とくに悪魔……彼らは許せません。人の心を惑わして悪の道に誘います」
鈴木は力を込めて言う。
「実典さんのことは必ず私が守ります。だから信じてください。私を。実典さんは私にとっても大切なひとだから」
「あ、ありがとう」
鈴木は微笑んだ。そして美しく一礼すると光の粒となっで緩やかに消えていった。