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【殺人鬼と三角関係】第24話 残酷

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3月30日。実典が結婚してしまう。

その事実はエドワードの心をひどくかき乱した。エドワードは自室の椅子に腰掛け頭を抱えた。

 遠くない日にケヴィンが行動するだろう。そして実典はそれを受け入れるだろう。そうでなかったとしても決められた運命によって実典は最悪な結婚相手と結ばれてしまう。手詰まりだ。

エドワードは必死で考えた。いっその事自分が名乗り出るか?実典に結婚してくれとプロポーズするか?無理だ。彼女が拒絶する姿を見たくはなかった。自分はずっと逃げてきたのだ。対するケヴィンは立ち向かってきた。そしてここまできたのだ。それを邪魔することなどできない。

エドワードの目の前は真っ暗になった。ケヴィンに対するドス黒い嫉妬心が胸に渦巻いていた。

 

*

 

実典はケヴィンに呼び出されリビングにいた。静寂なリビングで無機質な用紙が渡される。罫線で囲まれたそれには相手方の名前と情報が記載されていた。ケヴィンの名だ。いつもと同じケヴィンの空回りだろう。この時はそう考えていた。

「あの、私まだ結婚とかちょっと考えられないというか……私たち出会って半年くらいだし」

「実典は天使から渡された書類は目を通した?」

ケヴィンは冷静に問う。

「えっ?ああ。なんだっけ?」

「やっぱり見てないか」

きょとんとした実典の様子。ケヴィンは怒る様子もなく優しく微笑む。そして数枚の用紙を差し出した。

「これは?」

つやつやとした用紙には何か文章が書かれていた。

「あ、ああ。知ってるよ?私好きでもない人と結婚させられるんでしょ?これがどうかしたの?」

「2枚目みた?」

そこではっと気づいた。

「見てない。全部英語だったし」

「じゃあ読んであげる」

ケヴィンは用紙を取り戻し内容を訳した。

「本田実典の未来予定を記す。本田実典は30歳で高橋大輝と結婚する」

「それは知ってるよ。でも変えられるんでしょ。その条件で保護者やってるんだから」

「ちゃんと見てないね。その日時は3月30日。来月だよ」

実典は目を見開いた。一瞬で顔が恐怖に染まる。

「嘘」

声が震えていた。そして用紙を再び見る。英語で分かりにくかったが確かに3月30日と書かれていた。

「いや、いや。絶対いや!!」

実典は絶叫した。頭を抱えて恐怖に怯えた。

「実典、大丈夫。僕が助けるよ」

ケヴィンの言葉に実典の心が震えた。思わずその胸に抱かれたくなった。それくらいケヴィンの言葉は頼もしかった。

「でも、でも。未来だって。運命だって」

実典は椅子から滑り落ち床に跪いた。実典は狼狽していた。声が震えて顔は恐怖で歪み今にも泣きそうだ。ケヴィンがつかさず立ち上がり実典の体を支える。

「大丈夫。2枚目からの内容は変更が効くようになってる。問題は1枚目だ。運命は絶対に変えられない」

「ほんと?本当に!?」

「ああ、だから実典。僕と結婚するんだ」

実典の顔が凍りついた。そこに実典の本心が現れていた。

「知ってたよ。実典が僕を愛してたから受け入れてくれたわけじゃないってことくらい。実典はそいつと結婚するのが嫌だから天使たちの身勝手な命令に従ったんだろ?それでもいいよ僕は」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

実典はか細い声で謝罪した。

「いいから。実典。婚姻届に記入するんだ。僕と結婚すれば邪悪な運命が達成される。そいつから逃げられる」

「あなたと、結婚するの?」

実典はケヴィンを見つめた。

「そうだ」

ケヴィンは答える。

「結婚……なんだよね。その場しのぎでも対策でもない」

実典はぽつりぽつりと言う。ケヴィンは険しげにそれを見ていた。

「夫婦になるのよね……それって」

実典は自分の肩に触れるケヴィンの大きな手を見る。

「セックスするんだよね」

目を見開いたまま独り言のように言った。そして自分の手を腹部に当てる。

「妊娠して、出産もしなきゃいけない」

ケヴィンは黙っていたが耐えきれず口を開く。

「べつに出産は義務じゃないよ。結婚してから考えればいい」

口ではそうは言ったが内心は違っていた。やはり子供は欲しい。それにセックスを避けようとする実典の言葉が気に障った。

「それはダメよ。だってケヴィンにとってなにもメリットがない。私は若くないから。結婚したらすぐにでも……」

実典は結婚後のことを考えた。

「いや!怖い!怖いよ!出産って痛いんでしょ!怖い!それに母親になるの!?怖いよ!私こんなに女らしくないのに母親になんてなれるの!?子供を育てられるの!?」

実典は頭を抱えた。不安になるのは当然だ。人生が大きく変わってしまうのだから。

「ごめん。実典」

ケヴィンは呟く。

「結婚したら実典とセックスするよ。子供も欲しい。実典に僕の子を産んで母親になって欲しい」

実典は黙って聞いていた。そしてケヴィンを見つめ口を開く。

「うーちゃん……ウィリアムは?あの子はどうするの?」

それだけが心配だった。

「みんなで一緒に暮らそう。大丈夫。子供が増えるだけだよ。みんなで助け合って今みたいにさ」

実典はケヴィンに支えられながら立ち上がった。天使たちの思惑をそこで悟った。今まで引っかかっていた何か。そうだこのことだ。運命を変えるのは結局自分自身なのだと。確かに変わった。相手が変わった。他者に利用されて良いように使われることは変わらない。だが未来は違う。ケヴィンなら実典を不幸にすることはないだろう。子供ができれば……そう、愛情が生まれてくる。きっと。

「わかった」

潤んだ目を袖で拭った。そして婚姻届を手に取りボールペンで必要項目を入れていく。

「結婚しよう。ケヴィン」

苦い笑顔で実典は言う。ケヴィンは実典を抱きしめた。

「ありがとう。実典」

実典を胸に抱いたまま、囁いた。

その光景をドア越しにエドワードが見ていた。苦々しく唇を噛み、階段を上がって自室に戻っていく。その気配をケヴィンは感じ取っていた。

 

「ここにいたのか。筋肉ハゲ」

嫌悪する男が目の前に現れた。ケヴィンだ。エドワードは心底憎々しげにケヴィンを睨みつけた。

「証人が必要なんだ。お前がなってくれ」

ケヴィンは冷たい目でエドワードを見下すと婚姻届を差し出した。

「俺はならん」

エドワードは素っ気なく言う。

「いつまでムキになってるんだよ。諦めろ。どの道もう時間がない」

「何で俺に頼むんだよ!証人なら他にいるだろうが!!」

エドワードは激昂した。

「実典は僕の物だ」

ケヴィンは表情を変えずに言う。

「だから諦めろ。実典に近づくな。実典は僕の妻だ。僕が言いたいのはそれだけだ」

ケヴィンは踵を返して立ち去った。エドワードは頭を抱えた。牽制だ。密かに実典に好意を寄せていた自分に対する牽制だったのだ。よく考えれば昨日の出来事もそうだった。自分が面倒ごとを起こさないようにわざと釘を刺しにきた。確かにあそこまで言われれば身動きが取れない。

 

 エドワードはじくしばらくぼんやりと自室のチェアー腰掛けていた。そして時刻が9時半を過ぎたところで携帯で会社に電話をかけ、体調が優れないので休む旨を告げた。お咎めはなかった。普段の業務が優れたものだったからだ。

頭の中が焦りと憎悪で満ちていた。初めてではない。こんなことが前にもあった。エドワードはひたすら頭を抱え葛藤していた。いまこうしている間にもケヴィンが婚姻届を役所に出してしまっているかもしれない。自分がそれを追いかけ止めに入る。そして婚姻届を処分し実典に自分の気持ちを告げる。そんな妄想が何度も巡っては消えた。妄想は脳内で絵になるだけで行動には移せなかった。恐ろしかったのだ。

気づくと時刻は午前12時を回っていた。もうこんな時間になっていたのかとエドワードはぼんやりと携帯に表示された時刻を見つめる。そしてどうしようもならないことを理解して自室を出た。階段を降りてリビングに向かう。

「エドワード!」

実典がいた。当たり前だ。ここは実典の家なのだから。

実典はエドワードを見ると笑って寄ってきた。その姿に胸が痛くなる。彼女はケヴィンとの結婚に苦痛を感じていないのだ。

「ちょうどよかった!私ね、ケヴィンと結婚することになったの!」

その報告に胸が引き裂かれるほどに痛くなった。

「そうか」

顔には出さなかったがそう答えるのがやっとだった。

「おめでとう」

「おめでとうなのかな」

実典は目を細め寂しげに微笑む。

「それでね、エドワードに証人になってほしいの。親でもいいんだけど、エドワードにはたくさん助けてもらったから」

実典は笑って言った。実典の目が見れなかった。これ以上会話を続けたら弱さが出てしまう。

「分かった」

それだけ言うとペンを手に、自分の名前を記入した。よく見るとウィリアムも証人になっていた。

「ありがとう」

実典は笑う。

「結婚しても今と変わらないから。この家にいてもいいんだからね」

「ああ、すまないな」

いられるわけがない。二人が結ばれて家庭を築く様子を見せ付けられる。考えただけでもぞっとした。

「悪いが、外出してくる」

「あ、うん!いってらっしゃい!」

エドワードは玄関の戸を開け外に出た。車の通りが少ない歩道を淡々と進む。冷たい空気が頭をクリアにした。それでも心の闇は晴れなかった。すべて自分のせいだ。もっと積極的に行動すればよかった。ケヴィンのように。伝えておけばよかった。愛していると。そしたら変わっていたかもしれない。実典の結婚相手は自分だったかもしれない。後悔だけが頭をぐるぐると巡っていた。

「随分葛藤してますねえエドワード?」

ふと背後に少年がいた。少年は真っ黒な魔力をまとってそこにいた。エドワードは殺意を持って睨みつける。

「貴様、俺はお前の配下につくつもりはない。消えろ」

「ふふ、早とちりしないでよ。今日はそういう話で来たんじゃない」

少年はゆっくりとエドワードに近づいた。

「変えたいんだろ?運命を。手を貸してやるよ」

「……」

「本田実典、確かにあの女は3月30日で結婚する。それが神の決めた身勝手な未来だ。だけどね、運命じゃない。さすがに運命そのものを変えるってのは難しいけど2ページ目以降の予定だろ?ただの未来ならどうにかなる。日付をずらすことぐらい造作も無い」

少年は笑った。

「お前の言葉は信じない」

「素っ気ないこと言うなよ。特別に今だけ見返りなしでやってやるよ。契約もいらない。完全なサービスだ。お前はただ頷いてくれるだけでいい」

エドワードは何も言わなかった。

「あれほど僕の駒となって魂を捧げ貢献してくれたんだ。それくらいはしてやるさ」

「……」

少年は邪悪な笑顔で言葉を続けた。

「あの女が欲しいんだろ?自分のものにしたいんだろ?今のままだとケヴィンのものになっちまうぜ」

その言葉にエドワードの体がぴくりと反応した。

「新婚早々ケヴィンはあの女を抱くだろうよ。自分から迫ってベッドの中に引きずり込むんだ。それからあいつどうするかなー。多分一回じゃ終わらないだろうなー。その晩のうちに何度も何度も犯してさ。魔人ってスタミナが人とは違うから。性魔術もあるし。あの二人はより深い繋がりを」

刹那、エドワードの剣が少年掠めた。少年は背後に飛び退いたおかげで一撃を免れる。

「お前、殺すぞ」

殺気に満ちた目。

「だが現実に起こることだ」

少年は笑う。

「エドワード、悪いことをするわけじゃない。少し予定がズレるだけだ。半年か数カ月。それだけあれば関係を変えられる」

「黙れ」

「僕を頼れ。変えようぜ。未来を。女が欲しいんだろう?奪い取ってやろうぜ。ケヴィンの手からさ」

ケヴィン。その言葉が協調された。奪い取る。その言葉を頭の中で反芻した。そうしているうちに奪い取ることしか考えられなくなった。頭の中はケヴィンの手から女を奪う算段で染め上げられた。

エドワードの目が見開く。答えなど最初から決まっていたのだ。