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【殺人鬼と三角関係】 第26話 私は生きる

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本田実典は両親に手を引かれその街にやってきた。今から二十年前。まだ街は発展途上で、実典が引っ越してきたその町は豊かな自然と閑静な住宅街を中心とした素朴な町だった。

 実典は胸に希望を抱いて新しい学校、新しい生活に入っていった。しかし転校して初日、彼女が見たものは陰惨ないじめの現場だった。

一人の少年が給食に異物を混入され、食べた物を全て吐き出した。ゲラゲラと笑う少年たち、必死で吐瀉物を片付けようと躍起になる少年、静観する教師。女子は影で何事もなかったように笑っていたが、視界の隅ではその光景を楽しんでいた。実典は笑えなかった。それが運命の境だった。

 

少年は長きに渡るいじめから簡単に解放された。代わりにターゲットとなったのは実典だった。理由は単純だった。あの時笑わなかったから、それが反抗的だとみなされたのだ。

実典が登校して教室に入ると、わっクラスメイトたちが笑った。何がおかしいのか理解できなかった。わからずにいるとクラスメイトの一人が言った。

「キモい顔」

抑揚のある暗い声だった。その人物は見た目素朴で大人しそうな少年だった。整った顔とは真逆で言うことは残酷だった。

実典の席は教室の中心だ。みんなと仲良くなれるようにと教師が取り繕った結果だ。運が悪かった。授業中も休み時間も休む間も無くクラスメイトが取り囲んだ。

「気持ち悪い顔」

「死ねばいいのに」

「よくそんな顔で生きていられるよね」

彼らは一様にして実典の顔をけなしていた。数々の表現で思いつく限りの醜い言葉で手を変え品を変え顔のことを指摘した。時が経つにつれ実典は笑わなくなり、服装も地味になっていった。醜い自分がお洒落をする権利がないと思い込むようになっていた。鏡を見る事が嫌になり、美しさと言うものも理解できなくなっていた。

自分は醜い。そう思うようになっていた。

 

「キモーいキモーいミノリがあらわれたー」

いつものように実典が周囲を警戒しながら廊下に出ると、少年が歌いながら廊下で歩いている実典の背中を蹴った。実典は思わず廊下に突っ伏す。その背中を上履きで踏みつけ少年たちが囲んで笑った。

蹴った主の名は高橋大輝。クラスの中でもリーダー格の存在だった。黒髪に地味な見た目でぱっと見不良というような印象を与えない少年だ。ハキハキとした態度とラフな性格から教師にも友人にも慕われていた。みんなが彼を信頼した。だからいじめを目にしても大人たちは止めようとしなかった。苛められるほうに原因があると本気で思っていたからだ。

周囲の大人もおとなしそうにみえるクラスメイトたちも皆、実典を嘲笑った。高橋が頂点でその友人が二段目だとするなら実典は最下層に位置するだろう。高橋はクラスにカースト制度を敷き、自然と自分の罪が許されるように完璧な教室を作り上げていたのだ。よって被害者は永遠のおもちゃとして扱われ、なおかつそれを止める者もいなかった。現状に対して問題だと思う人間がいなければ状況は回復しない。だれもが実典に原因があると信じていたその教室で変化を望むものはいなかった。

 

いつものように踏みつけられ罵られながら実典は高橋を睨んだ。

「なんだよその目は」

高橋は怒鳴る。こんなやりとりが毎日続いた。

 

実典は屈折した。しかし屈強でもあった。彼女は毎日、他者からの悪意を受けながらも毎日のように悪意と戦った。無言で、涙も流さず、一切の感情を顔にださなかった。常に仏頂面であらゆる悪意を仏像のように受け流した。孤独というよりも孤高に近かった。彼女は屈折したが、その信念は揺るがなかった。

高橋はそれが特に気に入らなかったのだろう。いじめはますますエスカレートした。給食にはふりかけと称してチョークの粉がかけられ、牛乳にはクラスメイトたちの髪の毛やゴミが混ぜられた。実典が差し出された牛乳を弾き落とすと教師の怒号が鳴った。実典に対しての怒号だった。実典は教師を睨んだ。教師は忌々しいものでも見るかのように実典を見下した。

状況は最悪の一途を極めた。教室の中でも比較的穏健だったグループも実典を無視するようになった。実典は構わなかった。暴力に怯えて他人を犠牲にする人間の助けなど必要なかった。苛められる原因は自分にあると皆言う。そのたびに彼女は唇を歪ませ、周囲を嘲笑った。ハナから聖人になる気などない。なぜ自分がそれを目指さなければならないのだ。

 

閉鎖された空間で行われる暴力と罵倒の日々。常人ならば気が狂うような環境も、受験戦争をきっかけに幕を閉じた。実典は勉強に力を入れ、偏差値の高い高校に入学した。自分を囲む周囲の人間が一気に変わった。穏やかな目、優しい言葉。彼らは人の顔を笑うことをしなかった。当たり前だ。それが普通だ。頭の良さとともに人としての行いも良くなることを実典は知った。今までは自分の力ではどうにもならなかった。だが、大人になれば自分の行いで世界が変わる。そこで初めて実典は世界の広さを知った。

 

低級の天使である鈴木は地上を巡回する途中、公園のベンチに腰かけスーツケースの書類を眺めた。そこには人々が生きてきた細かい人生が書かれている。

 

殺人鬼の更生。

その本質は人間の救済などではない。悪魔の支配下となった人知を超える強力な力を持った魔人を神の手駒とすることだった。格の高い魂はより多くの困難と不幸を乗り越えることで偉人となり次元を超えた力を持つ。悪魔の手下となれば天使を殺しより多くの人間の魂を攫い、神の手駒となれば悪魔を下して人々を滅ぼす力となる。

そこで人間の中でも最も相性の合う人物を保護者として監督させ、彼らをより強固な絆で結び合わせることで殺人鬼を手駒として使うことを計画したのだ。魔人といえども人間の心を持つ。情というものは非常に厄介だ。捨て難く、人の心を縛る。魂の格が高く孤独であれば尚それは強く人の心を締め付けるだろう。

ここでいう相性というのは性格的なものだけではない。類似した運命が強い影響を与える。より強い不幸を持ち、困難を乗り越えた者、そしてそこに類似性があれば想像を超えるほどの強い絆が生まれる。

 

醜い容姿が原因で人々から酷い仕打ちを受けてきたウィリアム。

強い力を持った人間に利用され殺人者にさせられ発狂したケヴィン。

そして一人の女性を愛し、たった一人の女性のために1000人を殺したエドワード。

 

彼らはいずれも実典と強い縁を持っていた。類似した運命、困難、不幸。これだけの条件があればその絆は鎖のように重くなるだろう。

 

鈴木は笑う。そしてそのとおりになった。エドワードは実典を欲し、ケヴィンは絶対実典を離さない。実典が殺せといえば殺すだろう。実典が死ねといえば死ぬだろう。殺人鬼更生プログラムは成功した。彼らが織り成す三角関係も非常に面白かった。

あとはどう使うかだ。悪魔を駆逐するのも良いが、この期に人類を浄化しても面白いかもしれない。まあ、それを決めるのは低級天使の鈴木ではなく、神であるが。

 

鈴木は書類をスーツケースに仕舞うとベンチから立ち上がった。神を楽しませる新たな人材を探しに出た。