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【殺人鬼と三角関係】 第25話 狂い出す運命

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六畳一間の無機質なワンルーム、床はフローリングされていたが年月を得て色がかすみ輝きを失っていた。壁が大きくくり抜かれガラスで覆われておりそこから採光を取っている。部屋の中心には無骨な正方形のテーブルが設置されスマートフォンが置かれていた。スマートフォンは自身の体を震わせ、主への呼び出しを音と振動で知らせた。ガラスに覆われた長方形の端末を無機質にぶるぶると震わせテーブルに振動を伝える。

 狭い廊下の奥から度重なる染色と脱色によって髪をひどく傷ませたガラの悪い男がスマートフォンを手に取った。

「もしもし?」

無骨でぶっきらぼうな声。それでいて相手を脅すような脅迫的な声だった。蛍光灯の無機質な明かりが照らすワンルームで低い声がいやに大きく反響した。そこにはわずかばかりの嘲笑が混じっており相手をバカにしたような印象の悪さを感じさせる。

「あ?た、高橋くん?俺だけど?」

携帯から電子の声が響いた。震えるようなおびえた声。声の主を察し、高橋はにやりと笑った。

「ああ、分かったか?田町の助力もあるからそう難しくはないだろ?」

田町とは高橋のかつての同級生であり悪友であった。学校を卒業した今、彼は弁護士として働いている。

「あ、うん。すぐ分かったよ。本籍地は同じだった」

「あい、分かった。それだけわかればいいや。じゃあな」

ぶつりと電話を切る。そして携帯を布団に放り投げた。ぽとりと軽い音を立てて携帯は布団の上に落ちた。高橋はテーブルにあぐらをかいて座り込んだ。

テーブルには簡素な届け出用の用紙があった。無機質な罫線はに段組みになっており2人分の名前と情報を記載できるようになっている。

片方には自分の名前と住所、そして本籍地が書かれている。後は相手の情報を埋めるだけだ。手元には文房具屋で買った印鑑が用意してあった。本田と刻印された安い印鑑だ。簡易的な名前というのは実に良いものだ。入手が容易い。

高橋はもう一度スマートフォンを手に取ると画面にとある情報を映し出しながら空いた欄を記入していった。筆跡を変えるのは簡単だった。ネットで手書き風のフォントを探しそれを真似して書けば大体差異がつく。個人情報の入手も簡単だ。同郷の人間なら小学生時代の学級名簿を見れば住所はすぐに分かる。古い名簿を探すのが面倒なだけで。加えて本籍地と現住所が同じかどうかがわかれば婚姻届の偽造など簡単だ。本籍地と同じ市内に届けを出すのなら戸籍標本の提出が必要ない。

あとは筆跡を変えて必要な情報を埋めて印鑑を押すだけ。本来こういった重要な文章の場合、実印が必要だ。だが婚姻届は違う。婚姻は性善説に則ってできている。善なる両者が理解して納得して交わされる契約。つまり第三者による悪用を想定していない。婚姻届は善意によって人々が提出するものだから悪意を目的とした利用は起こりえないという考え方だ。だから印鑑が実印でも問題はないしそこらへんの文房具屋で購入した印鑑でも通ってしまう。証人においても特に制限はなく、誰でもいい。だから用意するのは簡単だった。さすがに届けの提出は身分証が求められるがさして大きいことではない。一度受理されてしまえば本人に連絡が行くだけでそれを取り消すのには途方もない労力がかかる。高橋は完成した婚姻届を封筒に入れるとコートを羽織ってアパートを出た。

本田実典のやつはどんな顔をするだろうか。知らない間にこの世で最も憎い男の妻になっている。想像しただけでゾクゾクした。あの無愛想な顔が一瞬で恐怖と憎悪に染まる。早く見てみたい。結婚したらあいつの資産も家も全て奪ってやる。毎日殴って蹴って家から一歩も出さずに飼い殺しにするのだ。

そういえばあいつなかなかいい体してたよな。よく出たケツと胸。ごくりと喉が鳴った。

一度婚姻届を提出されたらそれを無効化するのは難しい。なぜなら婚姻届は一度受理されるとそれを無効化するためには家庭裁判所で婚姻無効の調停を申し立てなければならない。そして当事者同士で同意の上、初めて婚姻が無効になる。勿論応じるつもりはない。その上、男と全く関係がないことと婚姻届が偽造されたことを証明しなければならないのだ。しかしながら婚姻届が偽造された証拠など出せるわけがないし交際が無かったことを証明することなどできない。手続きだけでも数カ月はかかるしこちらは弁護士がついている。

高橋はにやりと笑った。そして妙案を思いつく。そうだ、今すぐ婚姻届を出すのは面白くない。どうせならあいつの誕生日に出してやろう。誕生日のたびにあいつは苦い記憶を思い出す。最高じゃないか。

高橋がそう思い、踵を返そうとする。目の前が真っ白になった。車のライトがいつのまにか目の前にあった。

声も出なかった。衝突音と共に高橋の体は跳ねられた。

  

*

 

実典はリビングでぼんやりとテレビを眺めていた。手元には記入済みの婚姻届がある。本来であればケヴィンのことを考えすぐ出すべきなのだろうが決心がつかない。結婚、夫婦、そういったものに対して漠然としたイメージしか持っていなかった。実典にとって結婚とは例えるならば自身を縛る足枷だった。軽率に行うべきものではない。結婚が確実に幸せをもたらすとは思えなかった。正直、子供も好きではなかったし母親になりたいとも思わない。だが今はそんなことを言ってられない。それは重々承知している。

『昨日、夕方7時東京都◯◯市で交通事故がありました。30代の男性が全治3ヶ月の怪我を負う重症で……』

テレビの無機質な音声が流れる。

◯◯市、近いな。漠然と思った。交通事故にあったこの男が高橋であればいいのに。そしたらその場しのぎでもいいから結婚を先延ばしにできる。

実典はなんとなくスマートフォンで高橋のフェイスブックを探した。友人から友人を伝い、高橋のページを探る。見つけ出すのは簡単だった。

その中に奇妙な投稿を見つけた。

”近所で交通事故だって!被害者はまさかの同級生!高橋クンが入院したからみんなでお見舞いに行こう!メッセよろ!”

実典は投稿を二度見した。まさか、妄想が現実になったのか?思わず目を疑った。コメントをさらに表示する。間違いない。入院したのは高橋だ。実典の目にかすかに希望が宿った。そして急いで立ち上がり、チェストの引き出しから書類を取り出して丹念に眺めた。

「オクトーバーって10月よね……」

実典は自分の未来を記す書類を見つめていた。そこに記された日付は3月30日から来年の10月18日に変わっていた。

「よっしゃあああ!」

実典はその場でガッツポーズをした。

「どうしたの?実典」

こたつで暖をとっていたケヴィンが実典の声を聞き、和室から出てきた。そして実典の持つ書類とスマートフォンを不思議そうに見る。

「じゃーーーん」

実典は胸を張ってスマートフォンを見せた。

「高橋の野郎、交通事故だってさ!運命の執行日が来年にのびた!」

実典は輝くような笑顔で言った。

「……じゃあ婚姻届は?」

「延期だ!よかったー」

実典は飛び跳ねて無邪気に喜んだ。ケヴィンも喜んでくれると思っていた。

「は?なにそれ」

ケヴィンは無表情かつ低い声で淡々と言った。そしてそのまま実典の傍を通ってリビングを出た。実典の背中に冷たいものが降りた。一瞬で部屋の空気が凍りつく。ケヴィンの目は本気で怒っていた。実典はこの家に来て初めて本気でキレたケヴィンを見た。

……やっちまった。

実典は心の中で後悔した。当たり前だ。ケヴィンの身になれば本気で怒って当然だ。実典は急いで後を追った。

「ケヴィン、ごめん!」

階段を上がりケヴィンの部屋を開け開幕一番そう言った。ケヴィンは自室の作業机に備えられた簡易的な椅子に腰掛け冷たい目で実典を一瞥する。

「は?何が」

ひどく無機質な声。目は笑っていない。

「え、いや。その」

沈黙が降りた。鋭い視線で睨まれ何も言えなくなる。

「実典は僕と結婚しなくて済むから喜んでたんでしょ?知らなかった。そんなに僕のことが嫌いだったなんて」

声が冷たかった。実典は恐怖で身が竦んだ。ケヴィンの態度は仕事で上司を怒らせたときのように冷たかった。

「ち、ちがうよ」

実典は取り繕ったように言う。

「もういいよ、分かった」

「ケヴィン、私は」

「出ていけよ。うっとおしい」

はっきりと拒絶され実典の心は傷ついた。そのまま何も言えず部屋から引き下がった。

  

夕方になってもケヴィンはリビングに現れなかった。相当怒っている。実典はリビングで頭を抱えた。傍らにはケヴィンの婚姻届がある。別に高橋のことがなくとも結婚はできるのだ。ああ、どうしよう。実典は唸った。

そんな中、鍵を開ける音が響きエドワードが帰宅した。仕事から帰って来たのだ。

「おかえり。エドワード。ごめん。夕飯用意してないんだ。出前でいい?」

「ああ」

青ざめた実典を傍らにエドワードは素っ気なく返事をした。そしてテーブルにつきテレビを眺める。

「出して来たのか?」

実典は一瞬なんのことを言われているのかわからなかった。

「婚姻届のことだ」

「あ、ああ。まだ出してない。というか出す必要がなくなった。高橋が交通事故で入院してさ。運命の執行日が来年になったんだよ」

エドワードの唇がいびつに歪んだ。

「そうか、それはいい事だ」

「そうなんだけど、ケヴィンが本気で怒っちゃってさー。怖くて近づけないんだよ。はーーもうどうしよう。この際もう届け出しちゃおうかな。どうせ伸びただけだし今のうちに結婚するのもアリか」

「その必要はない」

エドワードはテレビから目を離さないまま平静を装って言った。声には若干の動揺があった。

「そう?」

実典は問い返す。

「結婚相手はもっと慎重に決めるべきだ。なんなら」

エドワードは実典を見る。

「俺が相手になってやってもいいんだぞ」

わざとらしくそう言った。

「え?エドワードが結婚してくれるの?そりゃあいいや。じゃあ頼むよ!」

実典は笑った。その言葉を本気の意味だとは捉えてなかった。気のいい返事で受け入れる。

「ああ、俺でよければいつでも結婚してやる」

エドワードはニヤリと笑った。

「そりゃ頼もしいわ。じゃあ私はニート暮らしを一生楽しめるのね」

「ああ、欲しいものは何でも買ってやる。不自由は一切させない。お前は俺の金で好きなだけ遊んで何不自由なく生活していればいい」

「ふふ、それはとびきり魅力的な条件ね。じゃあじゃあ!朝からネトゲしてても怒らない?深夜まで遊んでてもいい?家事もできないよ私」

「ああ、構わないぞ。家事なら家政婦を雇えばいい。趣味を捨てろとか古い考え方を押しつける気はない。ああ、だが一つだけは守ってもらわないとな。ベッドだけは必ず共にしてもらうぞ」

エドワードは笑って言った。

「あはは!それくらいいくらでもするよ!」

実典も笑う。

「あははは……ん?」

そして笑った後そのまま顔を硬直させる。

「あれ?冗談だよな?エドワード」

実典はエドワードを見て問う。エドワードは何も言わなかった。実典は目を泳がせた。まさか本気が混じっていたのだろうか。

「ちょっと外に出てくる」

エドワードは立ち上がる。

「あ、ああ。気をつけてね」

リビングの扉を開け、玄関に出た。途中、ケヴィンとすれ違う。ケヴィンはリビングの扉を冷血な目で睨んでいた。顔は無表情だが激しい怒りだけは嫌でも伝わった。エドワードの歩調と合わせてぎろりと視線が動く。その目は殺意と憎悪で染まっていた。エドワードはその視線を無視した。

 

エドワードは実典の家から離れ人気のない道を進んで行った。時刻は夕方を過ぎ、周囲は暗くなっていた。しばらく進むと公園にたどり着く。不審者の噂も多く人が立ち入らない拓けた公園だった。あいつは間違いなく自分を追ってここに来るだろう。

「お前がやったんだろ?」

背後から声をかけられた。驚くほど低く冷たい声。エドワードは警戒したままケヴィンに振り返った。

「何がだ」

「とぼけるなよ」

ケヴィンはエドワードに歩み寄った。凄まじい殺意を隠すことすらしない。

「悪魔の力を使いやがって。そこまでして俺の邪魔がしたいか?」

「……」

「お前、殺すぞ」

低く冷たい声。

ケヴィンはエドワードの目を見た。エドワードも睨み返す。

「フン、やってみろよ顔だけしか取り柄のないクズが」

その瞬間、ケヴィンのメイスが振るわれた。間一髪で体制を崩し一撃を交わす。だがその隙をケヴィンの蹴りが狙った。エドワードの腰に直撃した。

エドワードはすぐに体制を立て直し剣を握ってケヴィンの懐 に入り込んだ。振るった剣がケヴィンの肩を切り裂いた。

「こんなものか?それでよく実典の恋人を名乗れるもんだな」

「うるせえよ!死ね!」

ケヴィンはメイスを手にエドワードに襲いかかった。

 

 

実典は胸騒ぎを感じ、リビングを離れ自室に向かった。嫌な予感がする。何か悪いことが起きているような。

実典の部屋ではウィリアムがテレビゲームをしていた。そして実典に気づくと不思議そうに首をかしげた。

「どうしたの?ミノリ」

「一緒にケヴィンを探して欲しいの」

「いいよ」

ウィリアムは即答し、テレビの電源を切った。

「なんか嫌な予感がする」

「ケヴィンの居場所わかる?」

実典はスマートフォンを取り出した。

「ケヴィンにあげたスマートフォンの位置を追跡できるようになってるからわかるよ」

そしてスマートフォンを操作する。片方のスマートフォンをなくしても大丈夫なように登録しておいたものだった。ケヴィンが来てからは迷子のケヴィンを迎えにいけるようにといった役割もあったが。

「すぐそこの公園にいるみたい」

「いこうか」

ウィリアムは冷静に実典の前を歩き、公園へと向かった。

 

 

エドワードとケヴィンは血まみれになっていた。それでも尚、戦い続けていた。互いを殺すまで戦いを止めるつもりは無いだろう。服はボロボロになり、骨は砕け、血を吹き出しながら相手の急所を狙って武器を振るった。ガキンと鈍い金属音が幾度も鳴った。木々が多く、一見外から内部を覗きにくい公園の構造が幸いした。これだけの騒ぎを起こしても、人は来なかった。

そこに、二人の足音が近づいてくる。

「ケヴィン!エドワード!なにやってんだよ!止めろ!!」

実典は二人を発見すると叫んだ。走って止めに入ろうとする。

「くんな!実典!!」

ケヴィンが怒鳴った。ぞくりとする殺気に実典の体が硬直する。それでも声を張り上げ必死の思いで止めに入る。

「ふざけんなよ!止めなかったらこれを使うぞ!!」

中指に嵌められた銀の指輪を見せ付ける。多少の怪我は仕方ない。力づくでも止めるべきだ。それに脅しにもなるだろう。

しかしケヴィンは冷酷に実典を見下すと臆することもなくゆっくりと近づいた。そして実典に接近すると距離をつめて上から見下す。丁度真下からケヴィンを見上げる格好となった。恐怖で体がすくみ上がる。それほど本気で怒った男の姿というのは恐ろしかったのだ。

「やってみろよ」

冷たい声。見下すような視線。威圧。実典はぞっとした。

「いつも期待だけもたせやがって。お前のせいだろ?いい加減にしろよ」

ケヴィンは言葉を続けた。実典は何もいえなかった。

「お前がはっきりすればよかったんだよ。中途半端に迷いやがって。大した価値もないくせにもったいぶってんじゃねーよ」

実典が涙ぐんだ。その瞬間、ケヴィンの肩がつかまれその頬に衝撃が走る。

ケヴィンは殴られ、後方に退いた。そして殴った主を睨みつける。

「実典は悪くないだろ。それ以上言ったら殺すぞ」

エドワードがケヴィンを睨みつける。

「うるせえな。女の前で良い格好してんじゃねーよ。ハゲ」

再び争いが始まった。ただの喧嘩ではない。本気の殺し合いだ。実典は狼狽していた。最悪の状況だ。どうしよう。このまま殺人未遂や障害で二人が警察に捕まってしまうかもしれない。そしたら一面ニュースになって二人の人生は終わってしまう。頭の中が色々なことでぐるぐると廻った。今後のこと、世間のこと、二人の未来のこと、どうすればいいのだ。一体どうすれば……。

「ミノリ、お願いがある」

静観していたウィリアムが始めて口を開いた。実典はわらにもすがる思いでウィリアムを見上げた。

「オレと契約してほしい。血の契約」

「する!するわ!だから!彼らを止めて!!」

ウィリアムは努めて冷静に説明した。

「オレ一人の力じゃ二人は止められない。でも人間と契約するなら別。ミノリと魔力をつなげればオレの力にブーストがかかるから」

ウィリアムは実典の手を取ると、左手に斧を出現させた。そして刃の先端で実典の手と自分の手を切る。血が溢れた。

「こうして手を合わせる。オレの言葉を復唱して」

なすがままに互いの手のひらを合わせた。血が滲み混ざっていく。

「この血に誓い、この地に誓い、この天に誓う」

「この地に近い、この血に近い、この天に誓う」

実典は震える声で復唱した。

「我らは魂で契り、血で契り、魔力で契る、死が互いを分かつまで汝と通ずる」

「我らは魂で契り、血で契り、魔力で契る、死が互いを分かつまで汝と通ずる」

言葉を終えた瞬間、ウィリアムの体が発光した。そして実典の体内の魔力が急速に循環する。何かが体をこみ上げてくる。それは激しく振動し高ぶって行った。実典が顔を上げたとき、ウィリアムは即座に二人に向かって突進していた。片手の斧でケヴィンのメイスを弾き飛ばし斧の先端から繋がれた鎖が波のようにうねりエドワードの体を弾き飛ばした。

ケヴィンが即座に立ち上がりウィリアムに掴みかかったが鎖がケヴィンの足に絡みつき、バランスを崩した。それでも尚、戦いを続行しようとする二人の中心でウィリアムは息を大きく吸い込んだ。

「halt!!」

目を見開きウィリアムは咆哮した。一瞬で二人の体は静止し、硬直する。体はウィリアムの発する威圧と恐怖に縛り付けられ麻痺した。目を見開いたままウィリアムを見つめる格好となった。

ウィリアムは事を終えると立ち上がり自分の頬についた血飛沫を腕で拭った。

「……っ」

「と、止まった」

実典は安堵してぺたりと座り込んだ。そして涙をぼろぼろとこぼした。

「二人とも何やってんの?」

ウィリアムは問う。蔑んだように二人を見下しながら。

「二人が好き勝手なことやって誰に迷惑がかかるとおもってるの?好きな人を困らせたいの?それが愛の形なの?」

「……」

何もいえなかった。そして無言で立ち上がり何も言わないまま帰路に着いた。一切の会話も無くバラバラに二人は帰って行った。

実典は呆然としていた。自分のせいだ。自分のせいで二人を殺し合わせてしまったのだ。ただぼろぼろと涙を流したまま座り込んでいた。

「ミノリ、帰ろう?」

ウィリアムは優しく語りかけた。

「わたしの……せい」

「違う、ミノリのせいじゃないよ」

「だって、だって、私が……私がちゃんとしてなかったから……二人に殺し合わせたんだ……」

「そんなことないよ」

ウィリアムは首を振った。

「エドワードは……私のことが好きだったの?」

確認するようにつぶやいた。

「それはさすがに……オレも分からなかったから」

二人は顔を見合わせて困惑した。もしその仮定が真実だとするならば実典は酷い仕打ちをエドワードにしてきたことになる。そしてあることに気付いた。その仮定が真実ならば、実典に課せられることが一つあった。

「選べっていうの?」

実典は体を震わせた。そして頭を抱える。

「私に、どちらかを選べっていうの?」

その選択は実典の心を締め上げた。一番を決める。どちらかを選んでどちからを捨てる。そんなことを人に対してできるわけが無い。二人とも実典にとって大事な家族だ。

「ミノリ、今はとにかく帰ろう。まだそうと決まったわけじゃないよ」

ウィリアムは実典の傍らに跪き優しく肩を撫でた。実典は涙を溜めながら頷く。

今はこの醜い少年だけが実典の心の支えだった。