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【殺人鬼と三角関係】 第30話 消えた真実の愛

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実典は寒気を感じて目を覚ました。ずっと隣にいたウィリアムはいなくなっていた。ベッドには自分ひとりだけが横たわっている。

 「ウィリアム?」

後ろ暗いものを感じた。そのまま立ち上がりまわりを見渡す。どこにもウィリアムの影は無かった。自室を出てすべての部屋をくまなくさがした。そのどこにもウィリアムはいなかった。

実典の背筋を冷たいものが走った。急いでリビングに向かう。

「実典?」

いつもと様子が違う実典にケヴィンは訝しげに問いかけた。

「ケヴィン、ウィリアムが、ウィリアムがいないの」

実典は震える声で言った。顔は狼狽している。

「どこかにでかけてるんじゃないの?」

ケヴィンは言った。

「嘘よ!あの子は一人じゃでていかないもの!しかもこんな夜遅くに!!」

実典はコートを羽織る。

「私探してくる!」

飛び出すように玄関から出て行く。ケヴィンは目を細めその様子を見ていた。

「実典、自分で分かってるじゃないか。出て行くわけがないなら、外にもいるわけないだろ」

その日が来た。ただそれだけのことだ。ケヴィンは止める様子も無く実典を見送った。

 

実典は市内を走り回った。ウィリアムと一緒に行ったショッピングモールを一階ずつ丹念に見回った。そのどこにもウィリアムはいない。実典はモールを出て外を駆け回った。ウィリアムがクリスマスに訪れた煉瓦道、天然石のアクセサリーが売られた露天やショップ、他には?ウィリアムが行きそうな場所は?

付近の公園や遊歩道。あらゆる場所を駆け回り、行く場所が無くなって実典はその場に座り込んだ。否応無く思い知らされる現実。それを理解すると実典の目からボロボロと涙が零れ落ちた。ふらりふらりと歩きながら帰路についた。時計を見ると時刻は深夜0時を廻っていた。あっという間だった。実典は絶望を抱えたまま無為に歩く。

「ウィリアム……」

無意識にその名をつぶやいた。返事が来るのを期待していた。

「ウィリアム」

周囲を見渡しながら名を呼ぶが返答は無い。

「ウィリアム!!」

あらんばかりの声を張り上げた。深夜を廻り人気の無くなった道路に溶けて言った。返答などあるはずが無かった。

実典の目から涙が止まらなかった。嫌だ。嫌だ。どうして、ずっと一緒にいるって約束したじゃないか。なんで。なんで。なんで。実典の頭を疑問だけが支配した。そしてかぶりをふって泣きじゃくった。嗚咽を漏らし引き裂かれるような女の悲鳴を上げた。

「本田さん」

鈴のように透き通る声が自分の名を呼んだ。顔を上げる。そこには金髪の美少女がいた。穏やかな顔で自分を見ている。こんな顔は見たことが無かった。

「鈴木さん」

天使の名を呼んだ。彼女が語る偽名。それが鈴木だ。ウィリアムを実典に引き合わせた人物。

「少し話をしませんか?」

鈴木は微笑みかけた。そして実典を先導し、近くの公園まで移動した。

寂れた公園のベンチに腰掛けると、鈴木はスーツケースから書類を取り出した。輝くような美しい紙面に印刷された無機質な英字。鈴木はそれを取り出すと実典に見せた。街頭の弱弱しい明かりが紙面を照らした。

「これ、本田さんの未来が書かれた予定表です」

鈴木は書類を見た。実典も見る。来年の十月、相手は憎き男。嫌でも覚えている。

「これを、こう」

鈴木の手の中で書類は燃え上がった。実典は目を見開いてそれを見る。自分の未来が、燃えていく。

書類は灰ひとつ残さず光に包まれて消えて言った。実典はただ呆然とその光景を見ていた。

「はい、実典さんの未来は消えました。自由の身です。良かったですね。運命に関しては、まあ大丈夫でしょう。エドワードを選んでもいいしケヴィンを選んでもいい。最悪二股してもいいし。選ばなくてもまあなんとかなるでしょう。最悪寿命が尽きる前に適当な相手と結婚すればいいのだから」

天使は穏やかに笑う。

「どう……して」

実典は問う。

「ウィリアムがね……」

天使は応えた。

「神に訴えたんですよ」

「え……」

「実典を自由にして欲しいってね」

実典は言葉を失った。であるならば、ウィリアムはどうなったのか。

「その代わり自分の運命をあげるから、だから実典を救いたいってね」

「~~~~っ!!」

実典は頭を抱えた。そして目を見開き涙をこぼす。

「彼の魂は次の段階へと昇華し我々はその願いを受け入れました。彼の魂と引き替えにあなたの未来には干渉しません。どうぞお好きなように生きなさい」

鈴木は立ち上がり、実典に背を向けた。

「まって!まってよ!!ウィリアムは!?ウィリアムはどうなるの!!」

実典は叫ぶ。鈴木は振り返った。

「それは、あなたの知るべきところではないでしょう」

そう微笑むとその場から立ち去った。鈴木の姿は暗闇に飲まれ見えなくなった。

 

*

 

ケヴィンが玄関を見ると、実典の靴があった。

実典が帰ってきている。そのまま階段を上がり、実典の部屋に向かった。

実典の寝室は開けっ放しだった。実典は部屋の中心で座り込んでいた。ケヴィンは実典に近づくと後ろから実典の背中を抱いた。

「実典、大丈夫。僕がいるよ」

優しく言う。しかしすぐに後悔した。

実典は胸を引き裂かれるほど悲しい顔をしていた。涙で顔を濡らし目を赤く染めている。胸にはウィリアムが来ていた服があった。その服を胸に抱いて悲痛な嗚咽を漏らしている。

実典はケヴィンを見ると、痛々しい声で問いかけた。

「ウィリアムが、いなくなっちまった」

思わずケヴィンは唖然とする。こんな実典の顔を見たことが無い。

「なあ、ケヴィン。私は、ウィリアムさえいればそれでよかったんだ」

淡々と、悲痛な声で実典は語る。涙で染まった顔でケヴィンを見つめながら。そしてケヴィンの肩を掴み顔を近づけた。

「ねえ、なんでだよ!!なんでウィリアムが消えなきゃならないんだよ!!わたしは、結婚も、子供も、男もいらないけど、ウィリアムがそばにいれば、そばにいればそれでよかったんだよ!!」

実典は泣きじゃくりながらケヴィンに詰め寄った。

「なのに、なんで、なんでウィリアムがいなくならなきゃいけないの。私のために。嫌だよ、いやだよ!!一緒にいてくれるっていったじゃん!!ずっと一緒にって!!約束したのに!!」

実典は叫ぶように泣いた。その叫びは痛々しく、そして悲しかった。ケヴィンはただ黙ってそれを見つめることしかできなかった。

「実典」

「あ…うう」

ウィリアムの服を抱きながら涙を流す。子供を奪われた母親のように、実典は痛めつけられていた。ケヴィンは実典の背中を抱いた。何もできないよりはマシだと思った。

「ケヴィン……悪いんだけど、一人にしてくれるかな」

「あ、ああ。うん」

「ごめん。本当のところをいうと、あなたにだけは泣いてるところ、見られたくない……」

「分かった、立ち去るよ」

ケヴィンは立ち上がり、部屋を出て扉を閉めた。扉の奥から実典の痛ましい悲鳴が聞こえた。ケヴィンはただ無力な自分を、唇を噛み締めて責めることしかできなかった。

 

 

一夜たっても実典は眠らなかった。ただウィリアムの服を抱き、静かに涙をこぼしていた。

お別れもいえなかった。人目でいい。もう一度会いたい。あの幸福な一日を、もう一度だけでいいから迎えたかった。光の差すリビングで、エドワードとケヴィンと、ウィリアムでテレビを見ながら朝食を食べる。つまらなくていい。退屈で平穏な日常をもう一度だけ取り戻したかった。

「会いたいかい?彼に」

「会いたいよ」

実典は涙声で言う。

たった人目で良い。そのためなら自分の一生を捨ててもかまわない。

「会わせてあげようか?彼に」

実典は驚いて振り返った。そこには金髪の少年がいた。この少年は知っている。悪魔。

「実典、君がもし魂を僕にくれるなら。僕が君に力をあげるよ」

「たましい?」

「君が死んだ後、魔人になって人を殺すんだ。魂を回収して僕らにささげる」

実典は笑った。

「私に殺人鬼になれっていうの?」

「そうだよ」

少年は応える。

実典は少年の手を握った。

「なるわ」

「契約成立だな」

少年は笑う。

 

 

ケヴィンは異質な気配を感じて実典の部屋に向かっていた。たった一瞬だったがその邪悪な気配のもとは考えなくても分かった。

実典の部屋の扉を開ける。中には誰もいなかった。

「実典……!」

ケヴィンは踵を返して家を出た。己の魔力に集中し、周囲を見渡す。実典の魔力の痕跡。ひたすらその後を追った。まだ間に合う。

 

実典はふらふらと歩き続けた。天国にウィリアムの魂がある。それを回収すればまた、ウィリアムに会えるんだ。

実典はただ前へ前へと歩き続けていた。人目を無意識に避けていた。遠回りして、人の目に留まらない場所を選びながら歩く。だが、それでも見つかってしまった。

「実典ー!!」

ケヴィンの絶叫が背後で響く。実典は思わず振り返った。

「ケヴィン」

ケヴィンは実典に駆け寄るとその腕を掴む。

「何やってんだよ!!帰るぞ!」

「離せよ!クソ野朗!!」

実典はケヴィンの手を振り払った。

「取り戻すんだ!!ウィリアムの魂を取り戻すんだよ!!」

「できるわけ無いだろ!そんなこと!だまされてんじゃねーよ!!」

ケヴィンは怒りの目で実典を見た。

「おい、実典に手を出すんじゃねーよ」

悪魔は姿を現す。金の髪をふわりとなびかせた。

「実典が選んだんだ。ウィリアムを取り戻すってね」

「実典!だまされてるんだよ!!天使から魂を掠め取るなんてできないんだよ!!」

ケヴィンは実典の肩を掴んだ。実典は唇を噛み締め、俯いた。

「過去は変えられない。向き合って生きるしかないんだ!罪も失ったものも変えられない。取り戻せない。世界はそう言う風にできてる」

実典はただ俯き黙り込んだ。

「知ってたよ。どうしようもないことくらい」

ぽつり、ぽつりと言う実典。そして涙を流した

「でも、それでも会いたかった。悪魔に魂を売っても良い。周りのすべてを犠牲にしてもいいから、ウィリアムに会いたかった!!」

ケヴィンの胸の中で実典は泣いた。ケヴィンはただ実典を抱きしめた。

「ウィリアムは、自分から身を引いたんだ。ウィリアムは、人を愛しても子供を残せない。絶対に結ばれないように運命で決められていたから」

実典は顔を上げてケヴィンを見上げた。

「ウィリアム……私と会ったせいで不幸だったかな……」

ケヴィンは泣きそうな顔で実典を見る。

「そんなわけないだろ」

実典は涙をこぼすとケヴィンの胸の中で泣いた。

「やれやれ、破談みたいだな」

悪魔はあっさりとしていた。そして姿を消した。

一陣の風が吹き、冬の終わりを告げていた。