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【殺人鬼と三角関係】 最終話 きっとまた会える

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実典はその後、ケヴィンの応急処置を受けてからケヴィンの運転で病院に向かった。救急車は呼ばなかった。警察に通報されることを懸念したからだ。

 民間病院を選び、そこで処置を受けた。傷は浅く表面だけで内部まで達してはいなかった。局所麻酔を受け医者の処置を受けた。時代錯誤の刀傷のような傷跡に医者は不審な顔をしたが、実典は工事現場で頭上から刃先のとがったようなものが落ちてきたと言い訳し事故で押し通した。実典のかたくなな様子に医者もそれ以上は追及しなかった。

実典の背中にはミミズ跡のようなひどい傷が残った。なるべく傷跡が残らないようにと縫合をしてくれたが処置したばかりの生傷は痛々しかった。実典というよりもケヴィンがひどく悲しそうな顔をしていた。

 

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帰宅後の実典は意気消沈していた。全てが終わってあらゆる悲しみが蘇ったからだ。背中の傷はじくじくと痛んだ。だが辛いとは思わなかった。痛みには慣れていたから。医者からもらった痛み止めを飲みながらケヴィンのこともエドワードのこともほったらかして何もしない日々を過ごした。

空っぽな心、虚無。ウィリアムがいない。1日、1日過ごすたびにそれを実感する。もはや涙もでなかった。何もやる気が起きず呆然とした日々を過ごした。そして一週間、家事も何もしなかった。リビングでテレビの画面を見つめながらただ無為に過ごす。

「実典、大丈夫?痛くない」

ケヴィンは献身的だった。実典の様子を常時気遣っていた。

「うん。ありがとう。ケヴィン」

二人は寄り添うように互いを思いやる。エドワードがそれを横目で見た。疼くような感覚がこみあげた。嫉妬とは違う何か。

「実典、少しいいか?」

エドワードは実典を呼んだ。そして実典を散歩に連れ出した。ケヴィンは咎めなかった。静かに見送る。

そして二人がいなくなったあと途端に不安がこみ上げた。我慢していたものが溢れ出す。おそらく今日、結果が出される。エドワードの返答一つで全てが決まる。二人が結ばれたら自分はもう実典のそばにいられなくなる。ケヴィンは涙を流した。そして声を出して泣いた。嫌だ嫌だ。実典のそばにいたい。別れたくない。離れたくない。不安に押しつぶされそうになりながら心の痛みに懸命に耐えた。

 

*

 

 二人は線路沿いの寂れた歩道を歩いていた。車道がない簡素な砂利道だった。そこからは拓けた住宅が見渡せた。静かで人がいない穏やかな散歩道だった。

「聞こえてたぞ。あの時の言葉。ありがとうな」

エドワードは言う。実典は笑わなかった。ポケットに手を突っ込んだまま景色を眺めていた。エドワードは実典に振り返り距離を詰めた。抱こうとすると実典がその手を制止する。

「止めろ、触るな」

実典は淡々と言う。その目には生気というよりもやる気がない。

「何故だ」

「私は二人を選ばない。どちらもだ」

それは意外な言葉だった。てっきり自分と付き合うのかと思っていた。

「何を言っている?俺が嫌いになったのか?」

何か気に触るようなことをしたのだろうか。エドワードは過去を振り返る。

「一生涯独り身を貫く」

実典は言った。エドワードは納得しなかった。

「理由を言え」

「ケヴィンに抱かれたよ。一回じゃない。何度もだ。私は汚れてる。綺麗じゃない。口では愛してるとかいいながらお前を裏切った。最低な女だ」

実典は言う。わざときつい言葉を選んだ。オブラートに包んでもエドワードのためにはならないのだから。エドワードは無言で聞いていた。

「それにケヴィンを傷つけたくない。あいつが悲しむ姿は耐えられない。情が移っちまった。私がだれかと結ばれてお前たちが傷つくなら私はもう一生一人でいい」

実典はエドワードに背を向けた。

「幸せになれよ。他の女性を愛するなり好きに生きろ。別々に暮らすんだ。それが一番だ」

実典は言った。迷わなかった。これが最良の選択だ。

エドワードは何も言わず実典の体を抱いた。優しく包み込むように。

「ありがとう。俺のためにそこまでしてくれて。そこまで思ってくれて」

エドワードは言った。

「だが俺はお前のそばから離れる気はない。お前に尽くそう。欲しいものは全部くれてやる」

実典は驚く。

「は!?何言ってんだよ!離せよ!裏切者だぞ!非処女だぞ!中古品だぞ!嫌だろ!引くだろ!汚いだろ!」

エドワードは実典を離さなかった。

「それでもいい。俺のそばにいてくれ」

エドワードは言う。

「ケヴィンと一緒でもいい」

「……」

実典は黙り込んだ。その顔は険しかった。今後のことを考えていたからだ。

「だいたいそれを言ったら俺もバツイチで非童貞の中古品なんだが」

それもそうか。実典は納得した。

 

ケヴィンが鬱ぎ込む中、エドワードと実典が帰宅した。笑って出迎えようと思ったができなかった。どうしても不安な目で見てしまう。だから俯いた顔を上げ、わざとテレビに向き合った。

「ただいま、ケヴィン」

「おかえり」

ケヴィンはテレビから目線を逸らさずに言った。実典はわざとケヴィンの隣に座った。力無く背を預ける。

ケヴィンの心は焦りと不安で一杯だった。別れたくない。それだけが心を支配する。

「ケヴィン」

エドワードが実典の代わりに口を開いた。ケヴィンの背に寒気が走った。

「な、何」

意識して平静を装ったがその目は狼狽していた。怯える野良犬のような目でエドワードを見る。その言葉の先は予想しなくてもわかる。「俺は実典と交際する。だからお前はこの家から出て行け」想像して鳥肌がたった。思わず泣きそうになる。

「お前は実典と結婚しろ」

「えっ」

それは意外な言葉だった。思わず間抜けな声が出た。

「なんで?」

「元々そういう計画だっただろう。そうじゃないと実典の運命が達成されないからな。所詮戸籍上だけの話だ。俺は構わないよ」

ケヴィンは実典を見た。やる気がなさそうにぼーっとしていた。

「本当に、本当に僕でいいの?」

実典は目線だけを動かしてちらりとケヴィンを見た。

「あーーもう!」

実典はそう唸ると立ち上がりテーブルの片隅に置きっぱなしになっていた婚姻届を回収した。そして自分の鞄を取りリビングの扉に向かう。

「今から役所に行ってくるから。これ勝手に出すけどいいな?」

「で、でも」

「ケヴィン、父親だろ。しっかりしろよ」

勿論、真っ赤な嘘だ。

「えっ、えっ、僕が、僕が父親……もしかして僕たちの子供が……」

ケヴィンの顔がほころんだ。思わず子供の顔を想像する。男の子だったら跡取りに、女の子でも絶対可愛い。

「……嘘に決まってるだろ。とにかくそういう責任感を持ってもらわないと」

実典は背を向ける。

「二人とも、ありがとうね」

それだけ告げて実典は家を出た。そして徒歩で役所へ向かった。これから色々と気を使うかもしれないが今はこれでいい。難しいことは後で考えよう。それから就職情報も探さなければ。天国から振り込まれていた生活費は止まっていた。一家3人を支えるのは大変そうだ。でもどうにかなるだろう。

実典はそこまで考えて涙ぐんだ。ポケットから銀色のロケットを取り出す。中にはウィリアムの写真が入っていた。形見になってしまった。実典は首を振って涙を堪えた。そして穏やかな歩道を歩き続けた。