油断していた。
俺はぼんやりと1日を過ごしていた。
盗聴器からは雑音が入ってくる。
レイスと奴隷は部屋で過ごしているらしい。
会話がなかった。静かすぎた。
今思えばその静寂を疑うべきだった。
「昨日、あいつと何を話したの?」
沈黙を破ったのはレイスだった。
「なんのことですか?」
「とぼけるなよ」
レイスの口調は怒気を含んでいる。
「トラッパーのことだよ」
その言葉に俺ははっとする。
「特に何も」
「嘘つけ。知ってるんだぞ」
気づくと俺は盗聴器の音声に全神経を集中させていた。
「俺の能力を忘れたのか?透明になれるんだぞ。自分が監視されてることにも気づかなかったのか?」
背中に寒気が走った。
今までずっと見られていたのだ。
当たり前だ。俺がこうして奴隷を監視しているのに奴が何もしないわけがない。
昨日の会話を思い出す。レイスにとってなんて事はない内容だ。
ならばなぜこのタイミングで切り出した?
まさか……。
「トラッパーのことが好きなのか?」
レイスが問い詰める。
「違います」
女は焦るように取り繕う。
「じゃあ俺のことは?」
「……」
「答えないのか」
一瞬、沈黙が場を支配した。
「俺はお前が好きだよ」
二人の足音。レイスは女に詰め寄っている。
「俺だけの物になれよ」
何かにぶつかるような音。足音はそこで止む。
「お前をあいつと共有するなんて耐えられない」
「や、やめてください」
「僕がいない間、あいつの腕にお前が抱かれる。想像しただけでゾッとする。嫉妬で頭が狂いそうだ」
女の体が壁に押し付けられる音。俺は息を飲んだ。
「そうだ、僕がお前を殺したことにしよう。そうしたら僕たちはずっと一緒だ」
「そんな、無理ですよ!すぐにバレます!」
「まだトラッパーのことが気になるのか?」
「…………!」
「あいつはお前のことをなんとも思ってないよ。言われただろ?昨日。冷たくあしらわれたじゃないか」
「う、うう……」
涙声のようなものが聞こえてくる。
「俺のものになれよ」
「…………っ」
「初めて会った時から好きだったんだ」
「…………」
「もう共有するなんてイヤだ」
「…………」
「ずっと僕と一緒にいようよ」
奴隷は束の間の沈黙の後、口を開いた。
「他の人は納得するんですか?」
その言葉に俺はぞっとした。
「納得させるよ、俺が」
俺はそこで盗聴器を切った。
それ以上聞きたくない。
頭が急速に冷えていく。
目眩のような感覚を覚えながら俺は頭を抱えた。