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トラッパーさんの一日遅れのホワイトデー

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霧の世界で彷徨う殺人鬼、トラッパーは一つの小箱を手にしていた。ブルーカラーのアラベスクの模様が入った包みを手にその場所へ向かう。

森の奥深くのキャンプファイヤー、それが彼の目指す場所だった。 それはトラッパーを視界に入れると不器用に笑った。

「や、やぁトラッパー」

引き攣った声でそれは問う。トラッパーは構いもせずズカズカと詰め寄った。

「ほら、これ。この前の返しだ。ありがとうな」

不躾に包みが渡される。目の前の人物はその包みを二度見、固まった。

トラッパーにはその意味がわからなかった。

なぜならその包みはトラッパーの渾身の返答だ。仕事の合間、抜け出して近所のコンビニまで行き店頭に並んでいたものを購入した。まぎれもないバレンタインデーのお返しであった。目の前人物はもっと喜んで良いはずだ。だがそれは硬直している。

「あ、ありがとうトラッパー、嬉しいよ」

引き攣った顔でそう告げる。明らかにそれは悲しみで濁っている。無理やり作りだした笑顔。

トラッパーは困惑した。想像していた奴の喜ぶ顔と今目の前にある奴の笑顔。対極のものがそこに存在した。悶々とした思いを抱えながらトラッパーは踵を返した。

 

トラッパーは早足でとある場所へと向かった。群を二つまたぐほどの広大な農場だった。そこには彼の同僚であるヒルビリーという少年がおり、この世界では貴重な食べ物や娯楽品を分け与えてくれる。既に不死の身である彼にとって食事という行為に意味がなかったが永遠に続く労働においてその娯楽は貴重であった。

「トラッパーそれ本命チョコだろ」

呆れたようにその男は告げる。全身漆黒の殺人鬼、レイス。トラッパーの同僚だった。仕事のできない男で労働意欲も低い。そのため暇を見つけてはヒルビリーの家に入り浸っていた。遊び人の風来坊だ。

「トラッパー、それよくない」

続けてヒルビリーが呆れたように言った。

「その人はトラッパーのことが好きで一生懸命良いものをあげたんだよ。コンビニで適当に買ったお菓子なんて酷いよ。どうせ義理でくれた人にも同じものを買って全員にあげたんでしょ。本命でくれたひとかわいそう。トラッパー最低」

追い討ちをかけるようにヒルビリーは言う。

「何だ!さっきから!俺は返したぞ!そのために1日外出券まで使った!これ以上することはない!」

トラッパーは怒鳴る。呆れたようにレイスとヒルビリーがお互いを見た。ヒルビリーは背を向け、酒樽の酒をピッチャーに注ぐとレイスのテーブルまで運んだ。

「トラッパーその人に嫌われても良いんだね」

何気なく発せられたその一言は銃弾のようにトラッパーの心臓を抉った。

 「そんなことは言っていない」

取り繕うに言うトラッパー。

 「まあ俺はどうでもいいけど」

レイスは心底どうでもよさそうに酒の注がれたピッチャーに手を伸ばした。

だがレイスがそうするよりも先にトラッパーはテーブルを叩いて立ち上がった。

「な、何だよ行くのか?」

「ああ、仕事に戻る」

素っ気なくトラッパーは答えた。

「あっ、そう。じゃあな」

「トラッパーまたね」

別れの言葉を交わしトラッパーは自宅に戻った。そして溜め込んだブラッドポイントと生前から保管していた財産を取り出しスーツに着替えてから再び家を出た。

 

 トラッパーは多額のブラッドポイントと引き換えに1日外出券を得た。霧の世界から出るのは外出券を買わなければいけない。そしてしばしの眠りの後、街の中心部にある寂れた公園のベンチで目がさめる。

 

トラッパーが現世へ降りた理由は一つだった。トラッパーは街でも有名な老舗の菓子店まで向かった。巨大な体躯で行列に並び嫌でも注目を集めている。そして彼を見ていた群衆は彼の財布に詰め込まれた多額の現金を見るとさらに言葉を失った。10ドル札や5ドル札ならまだしもほとんど使用されない100ドル札が束で押し込まれていた。

無論トラッパーも現金を持ち歩く趣味はない。だがモンスターとなりクレジットカードも使えない今、金を直接手に持つしかなかった。

とにかくトラッパーは高級菓子を大量に買い込むと次は花屋へ向かった。若い男性店員がスーツを美しく着込んだ異様な風貌の男を見上げ硬直する。マフィアのボスか何かだろうか。とにもかくにも言われるがまま薔薇の花束を作り手渡した。

「お、お代は入りません」

引き攣ったように店員は言った。恐怖で立ち竦んでいる。

「何を言っている?これで足りるだろ。釣りはいらん」

トラッパーは財布から100ドル札の束を取り出すと無理やり店員に握らせ足早に店を去った。背後で店員がひぃと呻くのが聞こえた気がした。

とにかくこれで準備は揃った。いや、一つ忘れていることがあったか?トラッパーは踵を返して一つの店に向かった。

 

霧の世界では一人のサバイバーが家にこもり机に突っ伏していた。ハドンフィールドを模して作られたこの街の民家はお気に入りだ。自宅に近い見た目で居心地が良かった。暖炉の温もりを感じながらただ机に突っ伏し呆然としていた。目的はただぼうっとすること。それゆえ身なりも乱雑で部屋も散らかったままだ。汚れた服装、乱れたシャツ、部屋は無造作に散らかったままそこにいた。

 

刹那、サバイバーが飛び跳ねるかのように姿勢を正した。幾度も激しく叩かれる家の扉。サバイバーは凍りついた目でそれを見た。また恐怖のモンスターが自分の命を狙っているのだろうか。しばし沈黙していると聞き覚えのある声が扉の向こうから聞こえてきた。

「おい!何やってるんだ!いるんだろ!さっさと開けろ!!」

怒号。その声にサバイバーの体が硬直した。そして自分の服装を見る。寝て起きたままの姿であったため着衣は乱れて髪はボサボサだ。しかも部屋も乱雑に散らかしていた。サバイバーは辺りをキョロキョロと見ると声を上げた。

「ごめん!今寝起きの姿でだらしない格好なんだよ!出られないんだ!ごめん!」

「なんだと!?そんな理由で俺を追い返すのか!!?お前のためにわざわざ来てやったんだぞ!!ふざけてないで扉を開けろ!!」

さらに大きな怒号が響いた。扉の向こうの人物は怒っている。そしてサバイバーが何かをするまでもなく強引に扉をこじ開けた。

「ちょ!勝手に入ってこないでよ!」

言いかけて固まる。目の前のトラッパーはスーツを着こなし薔薇の花束を手に持っていた。いかつい面持ちだがなぜかしっくりと似合う。おそらく着慣れているのだろう。

「お前がさっさと開けないからだ!俺が来てやったんだぞ!ありがたく思え!」

トラッパーはいつもの口調で怒鳴ると手に持っていた花束を差し出した。

「ほら、これでいいか?」

急に声が静かになる。サバイバーはぽかんとそれを見る。真っ赤な薔薇の花束。

「え?」

「昨日やったホワイトデーは嘘だ!こっちが本物だ!」

そしてお菓子の包みを大量に押し付けられる。受け取ってから再びスーツ姿のトラッパーを見上げた。不器用な眼差しで斜めに自分を見下げている。これは彼なりの愛情表現だ。サバイバーの目から思わず涙が出た。

「あ、ありが……」

そこまで言いかけるとトラッパーはずかずかと家に入りソファーに座り込んだ。そしてじろりとこちらをにらむ。

「それで?」

トラッパーは言った。

「お前は俺に何をしてくれるんだ?」

サバイバーは状況を飲み込めない。さっさと帰ればいいのにと思っていた。

「俺がここまでしてやったんだ。まさか帰れとは言わないだろうな?」

サバイバーは言いかけた言葉を飲み込んだ。デートの約束にしても今の自分の身なりは寝起きそのものだ。つくづくタイミングの悪い男だと内心トラッパーを恨んだ。

「寝起きでもできることがあるだろ?」

トラッパーは貧乏ゆすりをしながら催促するように言った。心なしかイラついているように見える。

「出来ることってなんだい?」

わけがわからずサバイバーは問い返した。彼の目的がさっぱりわからない。

トラッパーが目を見開き立ち上がった。

「狭い部屋で二人きりと言えばヤることは一つだろ!!?察しろよ!!」

サバイバーはまだ分からない。こんな場所で何をしようとしているのだろう。仕事人間のトラッパーだ。用が終わったらすぐ帰るのだと思っていた。だが目の前の男はなかなか帰ろうとしない。

 

サバイバーはふと手に持った菓子を見た。そこでひらめく。そうだ!トラッパーはこのお菓子を一緒に食べたいのだ。

「ごめん!やっとわかったよ!気づかなくてごめん」

「やっと理解したか。それでいい。さっさとこっちに……」

トラッパーがそわそわと言いかけて再びサバイバーをみると硬直した。サバイバーはお菓子の包装を丁寧に外し備え付けのフォークで丁寧に分けていた。思わず絶句する。

「これトラッパーの分ね」

切り分けたお菓子をトラッパーの目の前に差し出す。

「お前、俺がお前にくれてやったものを強要するほど傲慢に見えたのか?」

「えっ!?」

「くそっ!」

トラッパーはそっぽを向いて押し黙った。部屋には気まずい空気が流れた。無言の空間。二人は押し黙っている。

「お前から俺を誘え」

「え?」

しばしの後トラッパーが口を開いた。

「俺はお前のためにここまでしてやったんだぞ!お前からしてこいよ!俺に奉仕しろよ!」

沈黙に耐え切れなかったのか、静寂を破るかのようにトラッパーは怒鳴った。

「えーー!」

素っ頓狂な声でサバイバーは叫ぶ。そして渋々トラッパーの隣に座るとテーブルのお菓子にフォークを刺した。

「と、トラッパーさん……はい、あーん」

トラッパーの口元にお菓子を運ぶ。これで良かったのか分からずサバイバーの手が震えた。トラッパーは無表情にそれをみるとぼそりと呟いた。

 

「もういい」

 

氷点下まで冷え切った声、冷血なトラッパーの目、感情の読めないトラッパーの表情にサバイバーの心臓が飛び跳ねた。また自分は間違えてしまった。恐怖ですくみ上る。

 

次の瞬間、トラッパーはサバイバーの方を掴みフォークに刺さった菓子を口に含んだ。そしてサバイバーをソファーに押し付け、サバイバーの口に無理やり舌をねじ込んだのだった。