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ヒルビリーとレイスの三角関係 プロローグ

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朱色の日差しが辺りを包み込み、ほのかにオレンジ色に照らされるトウモロコシ畑をぬるい風が撫でた。澄み渡る広大な農場は気持ち悪いほど静寂で人の気配がない。農場であるにもかかわらず家畜の鳴き声ひとつもなかった。そんな農場に、銃声がこだました。そしてそれは一瞬で悲鳴に変わった。

 

その女は腕をロープで縛られ車の後部座席にいた。数時間前、麻薬密売人の男たちが女を残して車を出て行った。非常事態だと言っていた。女が捕まったのは麻薬の密売を偶然目撃してしまったからだ。密売人たちは女の処分をどうするか考えあぐね、この農場に言葉通り隠蔽することを決めた。

しかし農場を偵察しに出た密売人の一人が何者かに殺害され事態はそれどころではなくなった。結局女を拘束し車内に残したまま密売人たちは農場へ探索に出たのだった。

女は車の中で今か今かと殺される瞬間を待っていた。しかし、幾ら何でも遅すぎる。車のキーがあれば脱出も容易であったが、あいにく密売人が持って行ってしまった。

 

数時間が経つと女は待つことを諦め車内をくまなく探すことにした。屈んで探ると後部座席の床に小ぶりのナイフが落ちているのを確認する。僥倖だった。女はそれを拾うと刃先をロープに押し付けた。後ろ手に縛られていなくて本当に良かった。女はそう思う。程なくして縄が千切れた。両手が開放され自由を手にすると女はしばし考え込む。

ここから出るか否か。なにかひどく恐ろしいものが農場にいるかもしれない。猛獣か、狼か熊のような危険な動物を想像した。

だがここにいてもいずれ殺される。誰かに発見される可能性もない。農場であれば敷地も広大であるし、大丈夫かもしれない。何よりも牧場主か労働者か、誰かが居る可能性がある。助けを呼べるかもしれない。女は意を決し車から脱出した。

 

女が歩き出して程なく、女は地面に広がった赤いシミを見つけた。しかし死体はどこにもなかった。屈んでそれを見つめていると血痕の中に鈍く光るものを見つけた。ハート型のペンダントだ。シンプルなデザインでシルバーで作られている。チェーンは引きちぎられていた。

女はそれを拾った。刻印が入っていることから誰かの大事なものかもしれないと考えたからだ。おそらく猛獣か何かから逃げる際に引きちぎられたのだろう。

 

トウモロコシ畑はどこまでも広がっている。一向に変わらない満月の紅い光が畑を照らしていた。歩いても歩いても景色は変わらずトウモロコシが広がっていた。

農場の敷地は相当広いようだ。女の顔にも疲れが見えて来た。歩く速度は目に見えて遅くなりふらふらと不安定になっていた。女は一息つきふと歩きを止めた。どこからか物音が聞こえて来たからだ。ザクザクと土を掘るような音だった。女は音のする方向へ向かって歩き続けた。

するとトウモロコシ畑は終わりを告げだだっ広い敷地に出た。一人の男が鍬で敷地を耕している。2メートル近い巨大な体型の男だった。顔の皮膚が引き伸ばされホッチキスで止められていた。足を引きずりながら彼は農作業をしていた。事故の後遺症なのかもしれない。彼の骨格は酷く捻じ曲がっていた。

骨格や皮膚自体は異形のものであったが、彼が農場の主であることがなんとなく理解できた。チェックのシャツを羽織り帽子をかぶった姿は農夫を連想させる。農具を手に畑を耕すその視線と姿は代々農家を営む人間そのものであった。おそらく彼がこの農場の主なのだろう。そう結論付けた瞬間、女は緊張が解けどっと安堵した。犯罪者に囚われ恐怖に支配されていた。だがやっと人に出会うことができた。犯罪者ではない普通の労働者だ。これでようやく助けを求められる。

「あの、すみません」

女がそう問いかけると男はこちらを向いた。首を傾げ不思議そうに女を見た。

「ここの牧場主さんですよね。こんにちは」

女は男に駆け寄り精一杯挨拶をした。声は思いの外掠れていた。

目の前に立つ人物は醜悪と言っていいほどの見た目だ。着ているものはそこそこ綺麗な服装だったがやはり異様にねじれたからだと歪な顔はひどく醜かった。だがそれでもやっと会えた第三者だ。女は嬉しかった。もしかしたら助けてもらえるかもしれない。そこで女はふとあることを思い出した。

「あの、これ落ちてました。あなたのものですか?」

女はハートのペンダントを差し出した。男の目がそれに集中する。

「あ……あ」

男は震える手でペンダントを手に取った。女は笑う。勘が当たった。

「やっぱり大事なものだったんですね。落ちていたから拾ったんです」

男は震える手で不器用にペンダントを取るとジーンズのポケットに入れようとした。

「あ、ちょっと待って。少し貸してください」

男はきょとんと女を見る。女は自身の首にかけていたネックレスを外した。しゃらりと宝石を滑り落とすと代わりに男の手にあったペンダントを流し入れた。

「すみません。屈んでもらえますか?」

女はジェスチャーを交えて言った。男は不思議そうな目で女を見るという通りに従った。女は男の首の後ろに手を回しネックレスをかける。

「できました。これで無くしませんよ」

男は手探りで胸にかけられたペンダントに触れた。そして女を見るとふるふると震えた。

「あ、アリ……ありが……」

お礼を言いたかったがうまく言えなかった。代わりに別の言葉が出た。

「オレ、お前殺さない……マモル」

男は言った。その言葉に女は喜んだ。

実のところ男の仕事は殺人そのものであった。主の命を受け、人間を殺して生贄として捧げるのが男の役目だ。だが男の心変わりよって女の命は助かった。

男の甘い決断は今に始まったことではない。殺人は彼に課せられた任務であったが男は親切というものにやたら弱く甘くなってしまう瞬間がある。感情が高揚している時はいいのだが、気が抜けたり気分が乗らない時に親しくされるとどうにも甘くなる。感謝されたり優しくされることに慣れていないのだ。一度感謝されると、もう一度感謝されたくなってしまう。

「ありがとうございます……しばらくこの農場にいてもいいですか?」

女が問うと男はコクコクと頷いた。本来ならば男が勝手に決めるべきことではないのだが男は構いもしなかった。

「オレの名はヒルビリー」

「私……名前がないんです。ショックで記憶が思い出せなくて」

「大丈夫……オレも名前なかった。思い出せるまでここにいていい」

ヒルビリーはそう言うと手を差し出した。女はその手を取るとともに歩き出した。