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レイスの夢

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ぼくは車を運転している。

 

ぼくはクレーン車を運転している。

何で運転してるんだろう。

 

ああ、そうだ。ぼくはここの社員だ。

ぼくは廃車工場で社員をしている。

車を粉砕してスクラップに変える仕事だ。

そうだ、確かそうだった。

 

ぼくの名前は……あれ、何だったっけ。

 

 

ぼくは壊れてぺちゃんこになった車を掴んで壊れた車の上に乗せていく。

レゴブロックと同じ要領で乗せていく。

車は綺麗に積み上がっていく。

 

綺麗に整頓された車をみてぼくはニッコリと笑う。

 

あれがGMであれがクライスラー。

最近は日本車もよく見る。

車のことなら少し自信がある。

 

ぼくはクレーンを操作して丁寧に積み上げる。

粉砕機の中に車が吸い込まれていく。

ばきばきという音を立てながら車がスクラップになっていく。

 

ぼくは整列された車たちを見てにっこりと笑う。

車のトランクから覗いた人も僕をみてにっこりと笑う。

 

あれ?にっこり?

何でトランクから僕を見ているの?

 

ぼくは廃車置場の車に近づき、トランクを上げた。金属の重苦しい音が響いて中身が現れる。

真っ暗な漆黒の闇に光が差していく。ゆっくりと中のそれは肌を露出していく。

トランクの中には、頭がひしゃげ、骨が捻じ曲がりぐちゃぐちゃになった人間の形を残したモノがいた。飛び出た目玉が転がってギョロリとぼくを見た。

 

「うわああああああああああ!!」

 

僕は絶叫した。喉の奥からあらんばかりの声を張り上げると、吐き出すものがなくなって僕はその場に倒れこんだ。視界が徐々に狭ばり目の前が真っ暗になっていく。

 

全部僕がやったの?

ぐちゃぐちゃになった遺体。

引きずり出された上司の頭部。

ぐるぐると頭を回っていく。

 

「まだ……なのか?」

誰かが僕の頭に話しかける。

 

「だめ……じゃ、い?」

僕の頭の中で悪魔が会話する。

 

「こん……じゃ……もう一度……」

やめろやめろやめろ。出て行け出て行け出て行け。

 

 気がつくと僕は真っ暗な闇の中に立っていた。やがて目が慣れ周囲の様子があらわになっていく。

廃車置場。ぼくの職場だ。そうだ。ぼくはここで働いていた。

 

だけど何かが違う。重機や廃車は風化して今にも崩れそうだ。事務所もひどくくたびれていてかつての活気は感じられない。

 

ぼくは立っている。

古びた廃墟の中で独活の大木のように突っ立っている。

 

ぼくは首をかしげた。

特に意味はない。

 

ぼくの目の前にネズミが走った。

気持ち悪くなってぼくはそれを潰した。

 

ぼくは手に武器を持っていた。

武器で何度も殴りつけた。

 

武器の先の刃でネズミの足を切った。

ネズミの口を開け中の舌を切った。

 

ネズミはぐちゃぐちゃになって内臓を晒したまま死んだ。

 

あれ?

これ。

 

ネズミじゃない。

 

人間。

 

人間だ。

 

ぼくは、

 

ぼくは

 

なんてことを!!

 

その瞬間、何かがぼくの腹部を貫いた。

ぼくの腹部にはぽっかりと大きな穴が空いている。

 

穴からは大量の血が滴り、べちゃべちゃとこぼれた。

内臓をこぼさないように必死で手で抑えようとしたけど滑り落ちていく。

 

黒い臓物がべちゃべちゃと地面に落ちていく。

ぼくは必死にそれを拾い上げる。

 

そうだ、ぼくの内臓を、

この人の中に入れれば、元どおりになるかも。

 

ぼくは引き裂かれた死体の腹部にぼくの内臓を詰め込んだ。

ポタポタと落ちるぼくの血液を流し込んだ。

 

元どおりに。元どおりに。

突然何もないところから黒くてぬらりとしたものが現れぼくの体を嬲った。

 

その触手は鋭い刃先となって何度もぼくを切りつけた。

だくだくと血が流れる。激しい痛みが傷口から溢れる。

 

ぼくの腕、ぼくの足、ぼくの胸。触手がガリガリと削っていく。彫刻刀で木を削るように。

 

痛い痛い痛い。

ぼくは悲鳴を上げた。

このまま削られたらぼくはペラペラな紙切れになってしまう。

 

ガリガリ。

触手は終わりなくぼくの皮膚を削り続ける。

 

突如、視界が黒く染まりぼくの体が地面に打ち捨てられた。

ぼくは呼吸すらまともにできずひいひいともがくことしかできなかった。

 

穴の空いた腹部が激しい熱と痛みを伴いながらぐちゃぐちゃと再生された。

他人の内臓を詰め込んだみたいだ。

吐きそうだ。

 

「起きたか?」

何かがぼくに問いかける。

ぼくは顔を上げてそれを見た。

 

仮面をつけた怪物だ。

巨大な怪物がぼくを見下している。

 

「いくぞ、準備しろ」

怪物はそう言うとぼくの前を歩き出した。

ぼくは走って追いかける。

 

人がいた。

女の子だ。

胸がドキドキした。

普段話す機会もなかったから。

 

怪物は女の子に近づくと武器で切りつけた。

噴水のように血飛沫が上がってその場に倒れこむ。

 

「お前がやれ」

 

え?

 

「お前がトドメを刺すんだ」

 

いやだ。

 

ぼくは首を振る。

イヤダイヤダイヤダ。

 

女の子を殺すなんてぼくにはできない。

ぼくは踵を返して逃げ出した。

だけど怪物がぼくの首を腕でつかみギリギリと締め上げた。

 

呼吸ができない。

 

「痛めつけられたいか?」

 

ぼくを締め上げたまま怪物は言った。

苦しい。涙が出る。

 

「殺されるよりも辛い目にあわせてやろうか」

 

ぼくは目を見開いた。

怪物は大ぶりのナイフを手にしていた。

 

それを見せつけるようにぼくの目の前で光らせる。

嫌だ。嫌だ。

 

ナイフの刃先がぼくの口にあてがわれ、喉の奥に入った。

 

「がはっ」

 

呼吸ができない。

舌を口内をナイフの刃先が傷つける。

喉に刺さり激しく引き裂いていく。

 

「がっ」

やめてと言おうとしたけど言葉は出なかった。

声にならない声だけが出た。

 

激しい苦痛の中、ぼくの体は投げ捨てられた。

あまりの痛みにぼくはでたらめに暴れ回る。

 

「あ」

目の前に女の子がいた。

こいつを殺せば、ぼくは解放される?

 

ぼくは地面に転がっていた大きな瓦礫を手に取ると、その子の上に力強く落とした。

 

 

暗転。

 

ぼくの視界は暗転する。

あれ、ぼくは何をしていたんだっけ。

よくわからない。

覚えていない。

 

たしか女の子を見つけて。

それでどうしたんだっけ。

 

音がする。

ぶぶぶ。ぶぶぶ。

 

羽音のような不規則な集まりの音。

 

ぶぶぶ。ぶぶぶ。

 

ずっと頭に響いている。

なぜか止まない。

 

目を開ける。

そこは白い部屋だった。

 

真っ白だ。

白い蛍光灯が目に入った。

 

まぶしい。

いままで暗闇にいたから。

 

ぼくはベッドの上で寝転がっている。

誰かが扉を開けてふわふわと寄って来た。

 

白い服をきた女の人だ。

顔は分からない。

 

まくらを包む袋のようなものを頭から被っている。

なぜか存在感のようなものが感じられなかった。

 

「体調はどうですか?」

びっくりするほど綺麗な声でそれはぼくにといかけた。

すぐに返事をしようとしたけどしどろもどろになって言葉は上手く出てこなかった。

 

「大丈夫。すぐに楽になりますよ」

彼女は言う。

そしてメスのようなものを取り出すとぼくの手首を切った。

 

いたっ。

ぼくは女の子のような弱弱しい声で小さな悲鳴を上げた。

 

男の癖に情けなかった。

 

「あら?」

彼女は不思議そうに首をかしげた。

 

「蟲だわ」

え?

 

ぼくは手首を見る。

黒い粒のようなものがモザイクのようにぼくの手首を包んでいた。

 

違う。

粒じゃない。

 

蟲だ。

真っ黒い蛆がぼくの手をかじっている。

 

「うわあああああああ!」

僕は絶叫した。

そして何度も手を壁に叩きつけた。

 

指の骨が折れ曲がり不自然な方向を向いた。

それでも僕は何度も何度も壁に叩きつけた。

 

ばきっ。

 

ばきっ。

 

どごっ。

 

蟲はいなくならない。

寧ろ増えている。

 

ぶぶぶ。

ぶぶぶ。

 

真っ黒い蛆がどんどんと交尾を繰り返し卵になり黒い蟲へと変化して増えていく。

ぼくの体は蛆に食いつぶされどんんどんと欠けていく。

 

助けて。

 

助けて。

 

助けて。

 

気付くとぼくはふたたび廃車工場に立っていた。

腕を見ると蛆はいなかった。

 

ぼくは安堵して息を吐く。

目からは涙が出た。

 

夢だったんだ。

そして頭上を見た。

 

ぼくは絶句する。

頭上には黒くて禍々しい雲が渦巻いていた。

 

ナメクジのようにぬらりとした黒い触手が雲から現れた。

それは指揮者のように滑らかな動きでぼくの周囲を踊った。

 

ぼくは引き攣ったまま身動きが取れなかった。

ただ目玉だけが触手の動きに合わせて往復している。

 

触手はゆっくりとぼくの足を這うとそのまま上部まで移動した。

そしてゆっくりと耳の周りを舐めると、ちいさな穴からずぶずぶと奥まで入ってきた。

 

劈くような痛み。鼓膜が破られ中身が食いつぶされる。ぎりぎりと耳が痛んだ。

「いやだああああ!」

 

経験したことのない痛みにぼくは絶叫した。

だが、触手は止まらない。

別の触手がぼくの口の中に飛び込んでくる。

 

「うっ……が」

喉の奥を触手が通っていく。呼吸ができない。悲鳴すら上げられない。

ぼくの全神経が穴を食いつぶす触手の痛みに集中する。

 

いやだいやだいやだいやだいやだ。

 

喉の奥を通った触手が心臓に絡みつくのが分かった。

背中の毛が一瞬にして逆立つ。嫌な予感がする。

 

触手はぼくの心臓を掴むと、そのまま一気に引っ張りあげた。

「がはっ」

 

心臓がぼくの口から吐き出される。

どくどくと体液をこぼしながらぼくはその場に倒れこむ。

 

目は見開き口はだらしなく開いたままだった。

ぼくはとあることに気付く。

 

激しい痛みと熱。

体内から湧き上がってくる。

 

ぼくは、ぼくは

 

また元通りになっていく。

いやだいやだいやだ。

 

この拷問が続くのは嫌だ。

だれかぼくを殺して。

 

 

 

 

「彼はもう駄目ですね」

引き攣った笑みを浮かべながらベッドに横たわる黒い皮膚の男を眼前に、その女はつぶやいた。男の皮膚は黒いとは言っても人間の皮膚とはいえない黒さだ。壊死して生命を失った病的な黒さだった。

「話しかけても触っても駄目です。この状態のまま反応しません……」

女はとある人物に目をやる。その先には仮面をつけた巨大な男がいた。

「仕方がない。奴はエンティティになかなか屈しなかったからな……」

男は壁にもたれかかっていたが、顔をあげるとベッドに横たわった男を見下げた。

「唯一人の心を持った殺人鬼か。哀れだな」

笑みの形で固定された仮面からは感情が読み取れなかった。だが男の言葉からは蔑みよりも他者への情が感じ取られた。

「彼は今、どんな夢を見ているんでしょうね」

「さあな」

吐き捨てるように男は言う。

「俺たちで奴をどうにかするぞ、引き続き診てやれ」

「はい」

仮面の男は規則的な足音を立てながら出口へと向かって行った。部屋には静寂が降りる。

「大丈夫。すぐに楽になりますよ」

枕袋の中で女は優しく微笑んだ。

「神に仕える正しき執行者としてね」

酷く澄んだ美しい声で女はそう呟いた。