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社会に疲れた人をトラッパーがなでなでして癒す小説 二話

サバイバーはトラッパーの禊を待ちつつ、居間で書物を眺めていた。奥からはシャワーの水飛沫の音が響いてくる。先ほどのやり取りといいどこと無く気まずい空気が流れていた。

サバイバーはトラッパーがいつも読んでいる分厚い本を手にし内容を眺めた。文学というよりかは経済や土地に関わる内容に見えたが難しい単語が並んだその書物は到底理解できるものではなかった。

だがサバイバーが本の内容を理解できなくともトラッパー自身については理解できるような気がした。この本はトラッパーがいつも手にし、好んでいる本だ。トラッパーが持っている世界を少しでも共有したかった。彼の興味を理解したかった。なにせ彼は何も語ろうとはしないのだから。

 

トラッパーがシャワーから上がると既に着替えが用意されていた。清潔な服装に着替え素顔の状態でシャワー室を出た。今の彼はとても殺人鬼には見えない。

「トラッパー、上がってきたの……?」

足音を立てながら戻ってきたトラッパーに振り返りサバイバーは声に詰まる。トラッパーがあまりにも男前だったからだ。トラッパーは感情のない目でサバイバーを睨み付けると足を組んでソファーに座りサバイバーから本を奪い取った。その際、少しだけ微笑んだ気がした。

「じゃあ、自分は上に行くね」

「おい、まてこっちにこい」

トラッパーに引き止められサバイバーの心臓が跳ね上がる。自分は何かしでかしてしまっただろうか。だが彼の声の感じからするとむしろ嬉しそうだ。

「ここに座れ」

トラッパーは言う。サバイバーは渋々トラッパーの隣に座った。トラッパーは何を言うわけでもなく静かに本をめくっていた。まるでサバイバーを隣においているというだけで満足しているようだ。サバイバーは不安そうにトラッパーの横顔を見上げた。

「お前はよくやってくれてる」

トラッパーは不躾にそう言うとサバイバーを見下げその頭に手を置いた。そして目を細めて優しく撫でる。

「…………!!」

サバイバーの心臓が思わず跳ね上がった。自分の頭には重くて硬いトラッパーの手の感触がある。まるで犬を撫でる主人のような目でトラッパーは自分の頭を撫でていた。視線はトラッパーに集中しどくどくと心臓が鳴る。顔は高潮し全身を熱い血がめぐった。今までに抱いたことのない感情だった。

「お返しだ」

トラッパーはいたずらっぽく笑う。

「何の?」

「さっき俺を誘惑しようとしただろう?」

満更でもなさそうにトラッパーは言った。これがお返しだとしたら完全なクロスカウンターだ。その威力は凶悪で一瞬でサバイバーの心を落とした。相手が殺人鬼だからとか人間ではないからとかそんな常識は打ち砕かれ一瞬で恋に落ちてしまう。

強く聡明で完成された大人の男。意識した瞬間、彼からは魅力しか見えなくなってしまう。

「それともそう言う関係になるのを望んでいたのか?」

冗談めかして言う。だがサバイバーには冗談には取れなかった。トラッパーを熱っぽい目で見つめたまま硬直した。しばしの時が流れる。そしてそれは思った以上に長い時間だった。緊迫した空気、途絶えた返答。その異質な空間にトラッパーが気付かないわけが無かった。

サバイバーの視線には熱が混じりその熱っぽい目がトラッパーを捕らえている。この目は知っている。怪物になる前、記憶としていた女の記憶。きちんと向き合い対処しなければ問題ごととして根強く残る面倒な存在だ。

トラッパーは優しくサバイバーの髪を撫でるとそのまま頰を親指でさすった。互いに見つめあう形になる。

「…………」

そして沈黙する。サバイバーはひたすらトラッパーを見つめている。その瞳には恋慕があった。どう対処するのが正解か、トラッパーは思案を重ねる。

「お前は普通に働いて褒められるより俺にこういうことをされたいか?」

「…………え」

突然の質問に鼓動が早まる。冗談ではない。もしもここでサバイバーが「うん」と頷いたならトラッパーとの関係はどう変わるのだろう。ビジネスライクな乾いた空気から男女のドロドロとした生々しい空気に変化するだろうか。もしここで肯定した場合どうなってしまうのか。

 

この家にはトラッパーとサバイバーの二人しかいない。もし肯定しトラッパーが受け入れた場合、時間もかからずにそういう展開になるだろう。今サバイバーに託された答えには大きな意味が秘められていた。

「トラッパーと、そういう関係になりたい」

言ってしまった。

トラッパーはサバイバーから手を離し硬直する。何を考えているかわからない。この返答は間違いだったのだろうか。

「そうか」

トラッパーは言う。感情は伺えない。そしてしばらく間を置いて、トラッパーは口を開く。

「俺は殺人者だぞ。それでもいいのか?」

斜めにサバイバーを見下しながらトラッパーは言った。

「はい」

サバイバーはそう返事するのがやっとだった。

「そうか」

トラッパーはそう言うとサバイバーの顔に手を添え顔を傾けて唇を重ねる。舌が唇を掠めてサバイバーを吸った。そのまま押し付けられソファーの上で重なり絡み合った。

トラッパーはサバイバーにまたがったまま唇を離す。そして顔を近づけ囁くように問いかけた。

「これが男女の関係だ。お前はそれを望むのか?」

「はい、トラッパー……このまま……」

サバイバーが何かを言う前にトラッパーはソファーから離れた。

「しないぞ」

そしてサバイバーに背を向けた。

「俺は何もしない」

トラッパーは静かに階段を上がり部屋に戻って行った。生々しい空気は消え去り元の乾いた空気だけが残った。

 

 

その後、トラッパーの部屋を叩いたのは翌日だ。サバイバーには決心のようなものがあった。サバイバーが扉を叩くとその声はすぐに響いた。サバイバーは扉を開け中へと入る。トラッパーの部屋は質素というより無骨だった。必要なもの以外は何も置いていない。

「何だ?」

ベッドに掛けぶっきらぼうに問うトラッパー。機能の事などなかったかのように本に目を落としている。サバイバーは勇気を出して問いかけた。

「昨日のことを聞きたくて……」

途中で終わってしまった男女の営み。モヤモヤする感情だけが取り残された。自分は何か誤ったことをしでかしただろうか。トラッパーの逆鱗に触れるような何か。問いかけたもののサバイバーは恐怖で硬直してしまった。トラッパーの拒絶が怖かった。

「そんなことか」

トラッパーはさも呆れたようにつぶやいた。本をぱたりと閉じサバイバーを睨む。サバイバーは反射的にびくりと怯えた。何を考えているか分からないからこそ怖い。

「俺が欲しくてここにきたのか」

「そうじゃない」

そこでトラッパーはにやりと笑う。その笑みに幾分か救われた気がした。トラッパーは話の本題に素早く移った。

「俺をベッドに連れて行こうと思ったら一筋縄ではいかないぞ」

トラッパーは言った。

「じゃあどうしてあんなこと」

あんなこと。突如捧げられたトラッパーからの口付け。恋い慕う男女がする行いだ。その真理をトラッパーに問う。

トラッパーはひたすら無言でサバイバーを見ていたがやがて口を開いた。

「本気で俺とそう言う関係になりたいのか?」

頷くサバイバー。トラッパーの真理はそこにあった。サバイバーが自分とどうなりたいのか。確認したいのはその点だけだった。それを知った上で彼は全てを決め、行動する。それが是で非でも何かしらの対処はしなければならない。

トラッパーは無言で立ち上がるとサバイバーの肩をとんと叩いた。

「わかった。俺は俺で考える。明日の夜には決める」

サバイバーはトラッパーの部屋を出ると放心状態だった。蛇ににらまれたような気分だ。緊張状態が続いたせいで何も考えられなかった。急速に進んだ時計の針と、自分の行動が急速に振り返り頭がわっと熱くなった。

 

翌日の日中、トラッパーは家を空けた。サバイバーは心落ち着かない様子で自室に籠もった。