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トラッパーとヒルビリー

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願いは時として絶望と変わる。希望は黒く染められ失望になる。其れは墨に染められた彼らの魂を掻き集め、物体として姿形を与えた。

 

 

真っ暗な泥の中を夢中で泳ぐ。手足は鉛のように重く、体は引きずられるような錯覚を得た。呼吸すらままならない。そんな泥から急速に引き上げられるように、その少年は目覚めた。一瞬だげ焼け付くような痛みを得、光が視界に入る。それがただの蛍光灯の光だと分かるまでに時間がかかった。なぜならただの光のはずなのにそれがひどく眩しく見えたのだ。
「目覚めたか?」
低く渋い男の声が耳に入った。額に大きな手が触れている。がさがさとした硬い肌から熱い体温が伝わった。少年が目覚めたことを確認すると男は何か納得したように頷き手を退けた。

 

少年は身を起こして男をよく見る。巨大な男だった。表情は読み取れない。仮面をつけていたからだ。常に笑顔の形で固定された不気味な仮面。だかその中の人物は笑っていないにだろうなということ何となく感じた。
「こっちにこい」
ぶっきらぼうに感情のない声で彼は言う。ここにいてもやることがないので彼についていくことにした。立ち上がると視点が変わる。随分と高い。何となく違和感を感じた。立ち上がった。ただそれだけのことなのにひどく空虚な感じがする。
「何をしている。早く来い」
男は言う。それに応じて少年は先を進む。薄暗く狭い廊下を淡々と歩く。バランス感覚が掴めなくて何度も壁にぶつかった。自分の体なのに慣れない。
「ここがお前の部屋だ」
男が扉を開くと木の戸がぎぃと音を立て中の内容物を晒した。黄色いランプがテーブルと金属の部品と工具を照らしている。
「好きなのを選べ」
好きなもの?
そう問い返そうとしたが上手く言葉は出なかった。
「話せないのか?」
鉄のように無機質な男の態度が珍しく軟和なものへと変わるのが分かった。なぜだかそれがひどく嬉しい。

こくり。

返事ができない代わりに頷いて見た。男は特に変化もなく淡々とした態度で「そうか」とだけ言った。

「お前の名前は?」
男は問う。自分の名前を言おうとしたが出てくるのはぐるぐるとした唸り声だけだった。
「名前がないのか?」
男は勝手に納得する。
「俺の名はエヴァンだ」
え、えば……
「無理をするな」
男は踵を返すと出口に向かった。
「お前の名前は……聞いておく」
扉がパタリと閉まり静寂だけが残された。何もいない一人だけの空間。だかそこには間違いなく人と接した痕跡があり、人との関わりがあった。
胸の奥が熱くなった。男の声が再び再生される。ぶっきらぼうだが柔らかい声。頭を反芻する。何度も噛み締めて味わうようにその光景を味わった。

些細な変化ではあったが彼にとって人の温もりというのは狂おしいほどに欲したものだった。

無機質な声は自身を肯定してくれるかのような居心地の良さがあった。触れてくれた手は温かく目覚めて彼に会えたことを嬉しく思った。

 

そう、それが二人の最初の出会いだった。

 

ー2ー

 

一夜が開けるとあの男が再び部屋を訪れた。扉がノックされ思わず背筋がぴんと伸びた。ぎいという軋みと共に耳障りのいい革靴の足音が響く。何よりも嬉しいのはエヴァンのあいさつだった。

「おはよう」

お…お、は……

真似して返答しようと思ったが喉の奥が熱く嗄れた声しか出なかった。返事ができない。交流が取れない。ひどく悲しい気持ちになった。

「ふっ、そう落ち込むな。言葉くらいなら教えてやる」

エヴァンは笑った。エヴァンから発する暖かい空気に胸の奥から熱いものがこみ上げた。

「これからは俺がお前の父親だ。何かあったら俺を頼れ」

父親……。

「そうだ、お前の名前についてだが、聞いてくれるか?」

エヴァンは言う。

「お前の名は、ヒルビリーだ」

ヒルビリー。初めて与えられた名前。ヒルビリーの目が潤み思わず泣きそうになった。優しくされ名前まで与えられた。これ以上何を望むと言うのだろうか。

「お……と、さん」

「ん、なんだ?」

ヒルビリーは辿々しい声で何度も声を発した。そして何度目かの挑戦初めて言葉が紡がれる。

「おとお……さん」

「……!」

エヴァンは思わずヒルビリーを見返した。ヒルビリーが目覚めて初めて自ら発した言葉。

「ああ、よろしくな。ヒルビリー」

エヴァンはヒルビリーの頭に手を置き力強く撫でた。嬉しかった。初めて人に褒められ撫でてもらえた。ヒルビリーはエヴァンのことが大好きだった。

 

エヴァンは分厚い本をテーブルと部品を広げた。本はイラスト付きで書かれていた。機械の設計や部品の説明などが事細かに載っている。これなら文字が読めないヒルビリーでも理解できそうだ。

「お前が選んだのはチェーンソーだったな」

「これ……な…に?」

「これはプラグだな。この部分に装着するんだ」

エヴァンの太い指が本のイラストを指す。ヒルビリーはテーブルの部品を手に取りイラストを頼りに組み立てていった。わからない文字はエヴァンに聞き、その内容を頭の中で記憶する。

「これは驚きだな」

エヴァンは満足気にヒルビリーを見た。

「なかなか器用じゃないか」

「ほんと……?」

「ああ……お前は優秀な子だ」

「嬉しい……」

エヴァンはヒルビリーの頭を力強く撫でる。ヒルビリーは目を細め、エヴァンの愛撫を喜んだ。

「明日は早速仕事をしてみよう」

「しごと?」

エヴァンは立ち上がると出口に向かった。

「大丈夫だ。お前ならできるよ」 

 「うん」

ヒルビリーは曖昧な返事をした。

「そう、不安そうな顔をするな」

 

 エヴァンは笑った。エヴァンが立ち去り一人になったその日の夜、ヒルビリーは考えた。仕事の意味することは殺人に違いないだろう。エヴァンに見せられた資料はいずれもどう人を効率よく殺すかについてのものだった。

人を殺す。自分にそれができるのだろうか。

それとも……過去に人を殺した罪があるのだろうか。

「……っ」

頭が痛い。過去のことを思い出そうとすると頭がぎりぎりと痛くなる。まるで思い出してはいけないことのように。

ヒルビリーはガラスを見た。自分の人ならざる容貌……。

ヒルビリーは寝台に寝っ転がって目を閉じた。考えれば考えるほど不安になる。だったら何もしないほうがマシだ。目を閉じると闇が視界を覆う。意識は不意に途切れた。そして程なくして一夜が明けた。

 

 

広大な土地だった。周囲は鬱蒼とした木々に囲われどこからか獣の唸り声が聞こえた。周囲は暗く闇と霧に覆われている。

「エヴァン、ここは?」

「ここは俺が経営していた製鉄所だ」

エヴァン、と呼ばれた瞬間、彼は少しだけ寂しそうな顔をした気がした。 

「仕事中は本名で呼ぶな、トラッパーと呼べ」

「あ、うん」

「返事ははいだ」

「はい」

エヴァンの様子はいつになく険しく冷たかった。

「最初は俺が手本を見せてやる。お前は気配を消して人間を監視していろ。わかったな」

「はい、トラッパー」

バカなガキだ。とトラッパーはほくそ笑んだ。

 

エヴァンは手馴れていた。手始めに敷地内の草陰に罠を張り巡らせた。気配のないエヴァンの動きに油断した人間は容易に罠にかかった。それを手際よく一人また一人とフックに吊るしていく。吊るされた人間がフックに捕食される。あれほど元気に走り回っていた若く生命力にあふれた人間たちが、魔物に食われその原型を失っていく。

「……」

人を殺す。命を奪う。内臓を喰らい生命力を奪いその亡骸をフックに残す。命を支配した証。

ヒルビリーがぼうっと突っ立っていると何者かがふらつきながら近寄ってきた。

「やぁ、君。さっきからそこに立ってるけど君も迷っているのかい?」

眼鏡をかけた地味な風貌の男性が話しかけてきた。くたびれた白いシャツとスーツというこれといって特徴のない男だった。

「僕はドワイトって言うんだ」

ドワイト。

「そうだよ。ドワイトだよ。君は?」

「ヒルビリー」

「そういい名前だね」

男は微笑む。

「俺のこと、怖くないの?俺の顔、醜い」

「はは、慣れてるよ」

男は笑って言った。何事もないかのように。

「実は僕、迷ってるんだ」

「マヨッテル?」

「あ、ああ。これからどうすればいいのか」

男は立ち尽くしているヒルビリーの隣に座り込んだ。ヒルビリーも真似して座り込む。

「ぼくは……もう嫌だ。こんな、こんな世界」

男は勝手に話し始めた。

「最初は、僕が大人だから、みんなを導かなきゃって。でも、いやだ、怖い。怖い。何度死んでも慣れるわけがない。死にたくない。かといっても生き残ったところでまた夜は訪れる。僕は何度死ねばいいんだ」

男は頭を抱え吐き出すように言った。

「もう……逃げることに疲れた……」

「……」

「死んでしまいたい」

「……」

静寂な森に沈黙が降りる。しばし考えヒルビリーが口を開いた。

「ドワイト、あのね」

ヒルビリーの目の前で血飛沫が上がった。

「あ……」

血が花びらのように舞い、男の重い体が地面に落ちた。

「う、あ、うあああああああ!」

男の絶叫がこだまする。痛みにもがきのたうちまわる。爪が地面を引っ掻き、男の爪の間に血と土がまざった。男の背後には笑みを浮かべた仮面をつけた巨大な男がいた。片手に鉄の剣を持ち這い回る男を見つめている。

「ヒルビリー、よくやった」

「え?」

「そいつを引き付けていたんだろう?」

低く嗤うような男の声が森に響く。ヒルビリーは思わず立ち上がり這いつくばっている男を見た。

た・す・け・て。男の口がそう動いた気がした。

「違う!俺はそんなつもりじゃ……」

「なにが違うんだ」

トラッパーは這い回る男の頭を掴みその顔を見た。

「こいつはお前を誑かそうとしたんだ。罰として死を与える」

「そんな!その人はもう戦う意思なんてなかった!何も殺さなくても!」

トラッパーは凍りついた目でヒルビリーを見た。

「今日はやけに饒舌だな」

「……っ!」

「こいつと何か話したのか?」

トラッパーは低い足音を立てながらヒルビリーに歩み寄った。

「は、話してない」

「そうか」

ヒルビリーの正面にトラッパーが立ちはだかる。

「なら殺せ」

「え?」

トラッパーは手を差し出した。ちゃらと静かな音がした。トラッパーの手にぶら下がっていたのは骸骨がぶら下がったキーホルダーのようなものだった。

「お前のために取っておいた。くれてやる。お前の手で奴を殺せ」

ヒルビリーは再び男を見た。目に涙を浮かべながらこちらを見ている。命乞いをするようなそんな目で。

「い、いやだ」

「なら貴様も奴らと同じになるか?」

「……」

「死と再生を繰り返すか?」

「……」

「のたうち苦しみながら、拷問の限りを受けるか?」

拷問。その言葉に凄まじい悪寒が走った。ヒルビリーは片手に携えたチェーンソーに電源を入れるとその手に構えた。

「いや、いやだ。やめて。やめてくれ」

チェーンソーのエンジン音がつんざくように森にこだまする。

「いやだ、いやだああ!助けて!助けて!」

男は這いつくばって必死にヒルビリーから逃げる。血の跡を残し、ずりずりと無様に。無力な芋虫のように。そしてヒルビリーは両手に携えたチェーンソーを。

 

 

 

 

 

… 

 

 

「よくやった」

返り血に濡れたヒルビリーの頭をエヴァンの硬い手が触れる。伝わる体温。重み。暗い闇が自身を覆い尽くすように、エヴァンの邪悪な意思が自身を縛る。

 

これは、正しいことなのか?

 

褒められた。

父親に褒められた。初めての賞賛。肯定。

 

なのに、なぜこれほどにも納得できないのか。

目の前には亡骸が横たわっている。先ほどまで生きていた。話していた。笑いかけてくれた。穏やかな顔を向けてくれた。男性の亡骸。

 

 

「ヒルビリー、これは必要なことなのだ」

エヴァンは言っていた。人を傷つけ動けなくしフックに吊るして神に捧げる。

ヒルビリーはエヴァンの教育に従い、動かなくなった人間を抱えてフックに吊るしては殺しを続けていた。

絶叫が響く。生贄となった人物は必死に手を伸ばしフックから逃げようと試みる。ヒルビリーはしばらくじっとその様子を見ていた。もがき苦しむ獲物の姿を。

「ヒルビリー、よくやった。お前はとてもいい子だ」

頭の中でエヴァンの声が反響する。エヴァンはいつも自分を褒めてくれた。だからきっと正しいことなのだろう。邪悪な触手が具現化し、生存者をついばむ。それを必死の形相で食い止めている。しかし力に限界がある。それの力が弱まった刹那、触手は鋭い刃となって生存者を貫いた。

食われていく生存者。最後の瞬間、放たれた言葉をヒルビリーは聞き逃さなかった。

 

 

この

 

 

人殺し。

 

 

 

ー3ー

 

ヒルビリーは殺人鬼たちが集まる作業場にいた。ここがエヴァンとの待合場所になっていた。ヒルビリーは皮袋にためた赤褐色の石をエヴァンに渡した。

 「ああ、ご苦労だったな」

「今日もたくさん殺したよ」

「ああ、良い子だ」

エヴァンはヒルビリーの頭を撫でる。いつものように。優しい手つきで。

「ねえエヴァン?」

「何だ?」

「人殺しって言われた」

「……」

「人を殺すのは悪いことなんだよね」

「いいや」

エヴァンは否定する。

「仮に悪いことだとしてこの世界の人間は死んでもまた復活するだろう?死なんてものは一過性のものにすぎん。罪にはならない。お前がそれで思い悩む必要はない」

「……」

ヒルビリーは思い出す。自分を憎み憎悪するあの若者の顔を。

「納得できないか?」

「い、いや。そんなことないよ」

ヒルビリーは取り繕うように言った。

「それなら良い」

エヴァンは言う。

ヒルビリーは部屋から立ち去ろうとして、また舞い戻る。

「これ」

ズボンのポケットから何かを取り出し差し出した。しゃらりとチェーンの音が鳴る。

「何だこれは?」

 「俺の大切なもの。エヴァンにあげる」

銀色に輝くシンプルなハートのペンダントだった。刻印にはE・Mと書かれていた。

「俺の名を刻印したのか。ありがとうな」

エヴァンはそれを受け取った。ヒルビリーは笑った。エヴァンと深い絆を得られた気がした。

「じゃあ、俺行ってくるね」

「ああ、頑張れよ」

「うん、お父さん!」

ヒルビリーは駆け出して行った。その背中をエヴァンが見送っていた。

 

ー4ー

 

金の光がヒルビリーの肉体を焼く。程なくしてその体は別の場所へと飛ばされる。もう怖いとは思わない。ヒルビリーは一人ではない。父がいるのだ。彼がそばにいる。褒めてくれる。そうだ。何も恐れることはない。

「ここは?」

ヒルビリーは目を開く。そこは広大な敷地が広がっていた。何もない平地だ。エヴァンの工場よりもずっと広い。いくつか建物が点在している。夕焼けのようにほのかに明るい。

 

ここは……。

 

ここは……!

 

「俺の、家だ」

ヒルビリーは目を見開く、ここはよく知っている。そうだ。自分の家だ。自分が半生を過ごした家。

中央の建物が目に入る。そこでヒルビリーは育った。一日中地下の監禁室に閉じ込められ、穴から落とされた食べ物に必死で食らいついた。

狭い一室で膝を抱えていると扉が開かれる。自分よりも大きい男の姿。父の顔。彼は自分を殴り、凄惨な拷問を与えた。何度も何度も。誰も止めるものはいなかった。初めこそは耐えていた。両親に愛されたい。我慢すれば愛されると思っていた。

だが……。

 

両親はその日、彼を殺そうとした。

ヒルビリーは初めて両親に反撃した。愛されないと知った時、ヒルビリーは激しい絶望に支配された。そして両親に襲いかかり、殺したのだ。

 

-人を殺してもまた復活する。罪にはならない-

 

「うわああああああ!」

エヴァンの言葉が反芻した。ヒルビリーは全てを思い出した。自分は、人殺しだったのだ。

自分の意思で両親を殺し、拷問の限りを尽くして殺したのだ。

「お父さん……お母さん……」

ヒルビリーは呟く。罪の意識が後悔が胸から溢れ出る。その時、ヒルビリーの視界に生き物が掠めた。そうだ、殺さなければ。両親の守ったこの土地を守るのだ。息子である自分が……。

 

 

 

 

ふらふらと歩く。

血が滴り点々と床に落ちる。

足がうまく動かない。

思い出した。この足は父によって折られていた。

痛い。思わずふらつく。

「うわっ!」

すれ違った人とぶつかった。

体がその人に支えられる。

「ダイジョウブ?」

黒い青年は言った。

「これを……届けないと」

皮袋に入った赤い石。これを父に届けるのだ。愛されるために。

「は?それって君が稼いだものでしょ?誰に……」

ヒルビリーを支えるその青年ははっと気づく。

「それって……トラッパーか……」

「……」

「あいつ、こんな子供を騙して!!」

青年は歯を噛み締め吐き出すように言った。

「いいか?君。君が持っているその赤い石は君のものなんだよ!」

「え……でもエヴァンは……褒めてくれる」

「騙されてるんだ!あいつは君を利用してるだけだ!!目を覚ませ!」

ヒルビリーは唇を震わせ目を見開いた。一筋の涙が頬を伝った。

 

 

「なぜ俺の元にこなかった」

目の前の男は背中を向けたまま立っていた。周囲は静寂な闇に包まれている。木々が揺らぎ葉を擦れさせた。

「エヴァン……エヴァンは……俺の味方だよね……父親だと思えって。俺を頼れって」

「……」

男は何も言わない。

「他の人に聞いたよ。あの赤い石は俺たちの働きに対して与えられた報酬なんだって。神様からの頂き物なんだって」

ヒルビリーはそこで言葉に詰まる。そして息を一つつくと意を決した。

「エヴァンは俺のこと、騙してたの?」

「…………」

エヴァンはしばらく黙り込んでいたが、しばらくして口を開いた。

「くくく……くくっ」

くぐもった笑い声。周囲の空気が急速に変わる。振動し熱を帯びていく。

「他者の甘言に惑わされるとはやはりお前は愚かなガキだ」

「!!!!」

エヴァンは振り返りヒルビリーを見つめる。

「俺はお前を騙したんじゃない。お前が勝手にやったんだ。お前の意思で人を殺し、俺にこれを捧げた」

「……っ」

「少し優しくすれば簡単につけあがる。少し褒めれば簡単に人を殺す。実に使いやすいガキだったよ。お前は」

ヒルビリーは押し黙っていた。返す言葉がない。

「ヒルビリー、田舎者。愚かなお前にふさわしい名前だ」

嘲笑うようにエヴァンは言う。そして呆れたようにヒルビリーを見下すとポケットからとあるものを取り出した。銀色に輝く装飾品。

「ペンダントか。つまらぬ贈り物だ」

エヴァンはそれを放り投げ、片手に手にした剣で。

 

それを破壊した。

 

「……っ!」

ペンダントの破片が地面に散らばる。鈍い輝きを放ちながらそれは転がる。ヒルビリーがエヴァンに贈った大切なもの。エヴァンとの親子の証。それが。

「……パ……」

ヒルビリーの口から言葉が漏れた。

「ん?」

「トラッパアアアアア!!!!」

絶叫。己の憎悪を口から吐き出した。ヒルビリーはその目に憎悪を宿し、チェーンをうならせながら疾駆した。尋常ならざる速度でエヴァンに接近する。エヴァンは剣を構えるが間に合わない。ヒルビリーのチェーンソーがエヴァンに触れる刹那、その触手は現れた。ヒルビリーとエヴァン、両者を縛り上げ引き離す。

 

(遊びの時間は終わりだ。今はただ悠久のひと時を過ごせ)

 

しわがれたような低い声が脳内にこだまする。だがそれでヒルビリーの怒りは収まらなかった。

「トラッパー!トラッパー!!殺してやる!殺してやる!!」

ヒルビリーは手を伸ばしエヴァンを睨みつけた。エヴァンはただ感情の伺えない目でヒルビリーを見つめていた。

 

ー5ー

 

焚き火が燃えている。体がねじれた男は折れた大木の残骸に腰掛け炎を見つめていた。

手には銀のペンダントを持っていた。刻印が刻まれたペンダントの表面を土で汚れた指がさする。ペンダントを映す瞳から感情は伺えない。

「狩の時間だ」

男は呟いた。そして手にしたペンダントを火の中に放り投げた。ペンダントは火に飲まれその身を焼いた。

ヒルビリーは嗤いを浮かべ立ち上がる。体が金の炎につつまれていく。彼はただ星が埋め尽くす夜の空を見上げていた。